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Re: 新京脱出行

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あんみつ姫

通常 Re: 新京脱出行

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5
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/11/29 16:46
あんみつ姫  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 485
新京脱出行(二) -4

 待望の乗船。船底にピッシリ詰め込まれた。でももう直ぐ故国の土を踏めるとあれば、十四年間住んだ満洲との別れも過去の中に去ってしまった感じだ。海水にワカメを浮かべただけの汁と雑穀入りのご飯も苦にならない。

 博多港に入って、さあ、上陸という時になって船内にコレラが発生。患者は即上陸して隔離《かくり=伝染病患者を特定の離れた病室に離す-》、検査結果が判明するまで船は沖合に出て三週間の足止め。この期間の方が辛かった。

 いよいよ上陸が始まり、甲板に列をつくつていると世話人の中に何と丸林四郎(現姓近藤)がいるではないか。「引揚げ援護局の仕事をしている。お前が乗っていたのなら新聞でも差し入れしてやるのだった」と。帰国第一歩で会ったのが学院同期生とは奇遇としか言いようがない。

 上陸して援護施設の宿舎に向かう。道端の店の物は豊富だが高いのに驚く。翌朝、博多を出発、無事福井駅に降り立ったのが昭和二十一年十月某日の夕方。母もよくここまで持ちこたえてくれたものよと感謝すると共に一安心。とりあえず例のリュックを駅前の援護局の出先のような小屋に預け、われわれのように更に奥の方(私達は今の大野市)へ行く者のために用意された仮宿泊所へ向かった。

どのような歓待を受けたかは今はもう覚えていないが、故郷にたどりつき、心ばかりのお土産として取り出そうとしたとき、なけなしの金で買って来た煙草や、博多で支給された新品の軍服が抜き取られているのに気がついた。

 新京での居留民会職員といい、今回のことといい、救いの手を差しのべるべき側にある人達が、その上前をはねるとは何事ぞ、言いようのない憤りと悲しみを覚えたことだった。
                                                    (おわり)


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あんみつ姫

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