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成瀬孫仁日記(四)昭和十六年十月~十一月

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2008/11/4 10:22
kousei2  長老   投稿数: 250
引き続き、哈爾浜学院21期生の同窓会誌「ポームニム21」に寄稿された「成瀬孫仁日記」を、許可を得て記載いたします。


十月一日(水) 晴 暖
朝早く眼覚める。登校、学長先生と江口先生に内地より帰った事を報告。
授業に出る。あまり進んでないのに大いに驚きもし、喜びもする。
 寮に入る露人二人、の紹介あり。善人か?放課後柔道場の掃除をして後、街へ出る。
 夜清水さん来る。時局について語る。

十月二日(木) 晴 暖
 朝、眠く起きづらい。
 午後、寮で慰霊祭あり。長く正座し、足痺れて暫し立てず。
 晩、入寮した三年生達の監督、石川中尉と話をする。特務機関の人、東京外語、中野学校だそうだ。音楽的才能ありそうな長身。

十月三日(金) 晴 寒 
 今朝、少々寒し。川辺と一緒に登校。午後授業なし。馬家溝の郵便局へ金を受取りに行く。夜、江口教授の宅に寄るも先生不在。

十月四日(土) 晴後雨
 授業終了後、柔道練習に「大道館」へ行く。帰り途「ホップ」に寄る。一杯のビールに皆酔う。「キタイスカヤ」に出て 「水餃子」と酒。 寮の途中雨に合いずぶ濡れ。併し体は暖かい。

十月五日(日) 晴 暖
 朝、点呼もないと言うのに七時に眠が覚める。己も習性。学校へ行き飯を食い、寮に帰る。又学校に行き昼まで柔道。午後平安座で映画。
 晩、高橋のおじいさんの御高説拝聴。露人学生二人、パハモフ、ネヘロフが部屋に来ていた。

十月六日(月) 晴後雨 暖
 朝礼あり。朝から忠霊塔の南で教練。哈爾濱指導学校で昼食。室内が大変寒い。帰行六時頃、疲れて帰っているのに風呂もない。

十月七日(火) 曇 寒
 朝眼覚めても起きられぬ。結局八時頃誰かに起こされて登校。
 放課後、義勇奉公隊の訓練あり。夜、米内先生宅で 「ゼンザイ」にありつく。

十月八日(水) 晴 寒
 朝から街は随分冷えている。夜も寒い。春日、福永と馬家満へ。
酒多々的、「ゼンザイ」少々的。

十月九日(木) 晴後雨 寒
 毎日少しづつ寒くなる。確実に寒さがゆっくりやって来る。夕方から雨になる。
 伊藤と風呂へ行く。之で十日目の風呂だ。帰途「ツキノシア」でビールを飲む。ウオッカ加わる。酔ってもどす。

十月十日(金) 晴 暖
 朝晩に眠い。放課後、蒙克と街へ出る。途中、リンゴとピロシキーを買い、阿部氏宅に寄る。阿部氏大いに喜び酒を出して呉れた。
 夜、寮へ中根先生が虫を噛みつぶした様な顔をして現れた。久振りだが、一体今頃何で現れたんだ。

前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2008/11/4 10:30
kousei2  長老   投稿数: 250
十月十一日(土) 雨 寒
 寮に帰ると日下が内地から帰っていた。全快。嬉しい。
 散髪に行く。北岡先生内地へ帰る。病気のためとかや。

十月十二日(日) 雨 寒 
朝から雨、激しい雨、終日雨、夜叉激しく降る。
 晩、自棄酒ならぬ自棄飯腹一杯
 朝食の時か、何時か、何処か、晩飯の時か全く記憶にないが、又帽子紛失。探していると三島さんがお前の帽子食堂にあったと教えて呉れた。
 米内先生、森先生、礼蘭屯か、満州里へ出発、旅行ではないだろう。何か。

十月十四日(火) 曇 涼
 登校時、物すごい霧にて何も見えず。見えるものは白い所ばかり。珍しい。
 義勇奉公隊《注1》の訓練あり。

十月十五日(水) 晴 暖
 授業なし。院長査閲あり。院長には誉められたがこんな事に大切な授業時間を費やす必要はない。陽当たりにいると暖かいが、日陰に入ると寒くてしようがない。
 晝食が遅くなり皆がプウブウぼやきながら、キャベツを音を立ててかじっていた。
軍に徴用された三年生達、十一月に徴兵検査、来年一月人隊だとさわいでいた。

十月十六日(木) 晴 暖
愈々本格的な寒さがやって来た。顔が夜など火照って来る。酒が飲みたい。
高橋のおじいさんの願を入れて寮の仕事を手伝うべく放課後帰る。
鏡子叔母さん日く「そんなこと明日にしなさい」と馬鹿にしている。
何日目か?学校の風呂修繕終わる。久振りにゆっくり垢を落とす。
-人でいると淋しい。やるせない。妙に人が恋しくなる。

十月十七日(金) 晴 暖
起床六時、外は薄暗く又冷える。
 午前中哈爾濱社参拝。結局叱られないと学院生は動かない。神社へ集ったのは学院のみ。二時から新京電業と柔道試合あり。惨敗する。頭痛がする。早く寝る。福岡さんが帰って来る。電報が来て春日が新京へ出発。

十月十八日(土) 雪 涼
 朝 遂に雪が降る。昨年よりも早きこと一週間。哈爾濱の冬が訪れて来た。哈爾濱には冬が似つかはしい。

十月十六日 
第三次近衛内閣は総辞職していたが本日東条英機大将に大命下る。愈々戦争が始まるのか、平出海軍省報道部長の演説や学生の徴集期間の繰上げや世の中は騒がしい。

十月十九日(日) 晴 暖
明日教練査閲があり、その準備のため日曜日登校。午前中、寒さの中で諸検査、午後又掃除あり。晩、伊藤鎮の所へ寄る。明日、起床二時、早く寝る。

十月二十日(月) 晴 暖
午前一時半、目覚時計により起床、皆起きて登校。夜気、暖かで意外の感あり。行軍前食堂にて藷を食べる。最初の一個の美味しかった事、最後のいもの味のなかった事。
 キラキラと凍る星を眺めつつ行軍は行く。行程七里、吹き寄せる寒さを物ともせず遂に予定通り完了する。忠霊塔で朝日を拝む。荘厳なり。査問成績「おほむね良好」。良くないとも悪くないとも取れる言葉。好きな様に考えると云う事か。夜、点呼なし。眠い。



「16日が重複していますが、原著のまま掲載しています。代理投稿者」

注1:「義勇奉公隊組織に関する件」が閣議決定されて翌日情報局から発表されて この日から兵役法とはかかわりなく全国民男女を総動員して 防空 防衛 被害復旧 疎開輸送 食糧増産 警防活動などの他 陣地構築などの軍の業務の補助も行なう
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2008/11/4 10:34
kousei2  長老   投稿数: 250
十月二十二日(水) 晴 暖
 白井先生授業中に脱線をしてオダをあげる。学院も学校だけでなく科学院の様なものを併設して、卒業生を始め広く人材を世に求めて、ロシヤのみならず北方亜細亜、中央亜細亜に関する実践的学問の研究をなし、その人傑を養成する必要があると。「ジンケツ」って何ですかと問うと読んで字の如し「人傑」だと返事が返って来た。

十月二十三日(木) 晴時々曇 暖
 朝とてもひどい霧が立ち込める。大きく口を開き呼吸すると冷たい霧が肺の中へ入る。少しして晴れ、雪に変わった。
 先輩で、外交部、満鉄に勤めていた人達が学校へ帰り、教練をしている。卒業への時間が不足しているのか。

十月二十四日(金) 晴 暖
胡麻本先生が神経痛で困っておいでの御様子。まだそんな年でもないのに寒いと何かと持病が出る。
 川辺と二人で街へ出て米内先生を探す。居ない。没法子《メイファーズ=注1》。松美屋へ白餡のまんじゅうを喰べに入る。一年生、好漢今川、最近必ずしも元気がない。聞くと顔を上げ天の一点を見つめて悲し気な顔をした。

十月二十五日(土) 晴 暖
 目覚めると外は白雪一面に散り銀世界を現出。外に出るともう冷たくて思わず身震いした。
 学校はスチームが通り暖かである。米内先生と一緒に教堂街のロシヤ料理に寄る。
 点呼に帰寮していない者多し。

十月二十六日(日) 晴 暖
 頭が痛くて午前中スパーチ。
 午後福永、伊藤鎮と哈爾浜会館へ。映画「維新前夜」。櫻町葉子、美しい。

十月二十七日(月) 晴 暖
 朝寒いったら言語に絶する。併し夕方には結構暖かくなった。
 帰寮の途中藤原と馬家溝、池田へ。寮は寒くてやり切れない。早くスチーム何とかならないか。

十月二十八日(火) 晴 暖
 午前四時半、関東軍隷下一帯に防空令下令。六時三十分、吾が学寮にも下令、直ちに全寮学生登校す。寒い中、皆本当に御苦労さん。

十月二十九日(水) 晴 寒
昨夜の夜ふかしがたたり朝の点呼さぼる。大急ぎで起床、登校。
試験は昨日から始まったが、本日のポ氏の試験なし。

十月三十一日(金) 晴 暖 零下一度
毎朝登校時、寮の玄関前の寒暖計を見て記録することにした。
 無事十月平穏に終わる。

注1:中国語で 仕方が無い(あきらめの言葉)
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2008/11/4 10:39
kousei2  長老   投稿数: 250
十一月一日(土) 晴 暖 零下一・五度
 暖かー。春の様で汗びっしょりになる。身体検査をさぼって、辻さん(1)と一緒に街へ出て食事。官吏消費組合、常盤食堂と廻る。
 今日から暖房の「スチーム」が通る。部屋が道理で暖かい。

十一月二日(日) 晴 暖 零下一・五度
 今朝も大変暖か。午前中、部の練習あり。晝食後、街へ出る。哈爾濱書店で経済地理学概論、ロシヤ人の古本屋で「ロシヤ国土の歴史」を買う。
 寮では「スチーム」をがんがん通して暑くって仕方がない。裸になる。

十一月三日(月) 晴 暖 零下一度
 朝から戸外も暖かだが「スチーム」が通り寮内も初夏のようだ。
 明治節《注1》。十時から学校で拝賀式あり。午後、大道館で武道大会あり。
 帰途久し振りに「ジャンズ」(2)二杯。

十一月四日(火) 晴 暖 零下四度
 風がないので温度に比べて大変暖かい。此の頃は食事の食べ過ぎの感あり。胃に悪し。朝、四杯、昼、三杯、夜四杯位に限定しようか。
 今日も満語(3)の課業あり。

十一月五日(水) 暖 零下四・五度
会話の試験あり。自身満々事に当たる。(ポ氏)。結構、一撃に粉砕とは一人想い。相変わらず十人位しか出席していない。
 古本を売りに出す。気味が悪い程売れる。が入ってくる金は細かなものである。
 帰寮途中、月が野原の端から顔を出す。赤い十七日の月が昇る。

十一月六日(木) 暖 零下四度
 福永、藤原共に欠席する。学校では欠席、欠講の者が著しく目立ち始め問題になって来ている。特に会話の時間の出席者少なく、講師の先生が落第をさせるとか何とか言ったと噂しきり。

十一月七日(金) 暖 零下五度
 哈鉄厚生会館へ晩飯携行で武道練習。満鉄職員、鉄道学院生、工大生、医大生等多数参加。今日から五日間毎日。
 帰途、春日、馬場等と馬家溝の“大陸茶房”に寄る。薄汚い油光りのする食卓の上で持参の白砂糖タップリ、ジャンズ三杯。
 ソ聯、十月革命記念日、実感がない。

(1)
外交部へ行った20期の辻七郎氏。

(2)
日本でも最近一時流行した「豆乳」のこと。

(3)
学生の要望で始めた課外授業の満語のこと。

注1:戦前の明治天皇の誕生日を寿ぎ偲ぶ日
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kousei2  長老   投稿数: 250
十一月十一日(火) 晴 寒 零下十一度
 昨夜、春日と二時頃まで話をする。話はまだあったが、遅くなったので寝る
 そのためか朝、咽喉が痛い。扁桃腺が腫れたのか。春日と赤十字病院へ行く。何処か悪いかとビクビクしていたが、どこも悪くないと言われたのに注射をされて驚く。
 春日、少々心臓が弱っていると。

十一月十二日(水) 晴 暖
電車賃を誰も持ってないのに「後」「後」と言い巡査に捕った者があったそうだ。あくまで噂である。
 音楽室へ行って日本評論を読んでいると、傍らで三年生が盛んに音楽に合わせて「ダンス」をしていた。読書と音楽か。

十一月十三日(木) 晴 暖
 竹内先生の時間にプリントを忘れて之幸いと居眠り。直ぐ後の席の中村博一、あとで「君たっぷり二十分眠っとった」と。時間を計っていたのか。
 藤原、心臓が悪いと寮を去る。

十一月十四日(金) 晴曇 寒
 教授会で冬期休暇が定まる。十二月十六日より一月十五日まで。一カ月もある。

十一月十五日(土) 曇 寒
 民法の三笠講師着任さる。哈爾濱高等法院の裁判官。身体の立派な愉快そうな人で、講義も北岡教授よりも聞き良く、遠藤講師よりも解りよい。
 市立病院の医者の健康診察あり。殆どの者が少し悪いと言われている。
 学期試験十二月十二日からあり。

十一月十六日(日) 晴 暖
 伊藤鎭と鈴木淳栄が寮委員室に来る。柔道の新京行の打合せ。後十四号室へ引っぱって行かれ伊藤の「惚気」を聞かされる。朝、目が覚めると四時、急いで委員室へ帰って来ると、森三郎先生が寝ていた。

十一月十九日(水) 曇 寒
毎日寒い日が続く。本格的な冬になって来たのか今朝は零下十度七分と出ていた。
 午後、伊藤鎭の引っ越し手伝い。
 晩、かしわの鋤焼。外出の為、大急ぎでかっ込む。美味さ何%か下落する。

十一月二十日(木) 晴 寒
 朝から寒くってどうにもならない。登校中、耳が痛くなって来たので初めて「ヘッドマスク」をする。
 柔道の時に、剛崎先生の御教授、御訓話あり、元気で他の大学に負けないように正々堂々と闘えと。
 伊藤鎭と一緒に哈爾濱駅へ新京までの切符を買いに行く。
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2008/11/4 10:44
kousei2  長老   投稿数: 250
十一月二十二日(土) 晴 暖
 朝、六時起床。午前九時五十分発列車で新京へ出発。車中「突貫小僧」の一行が同車する。午後四時五十分新京駅着。谷上さん宅へ行く。

十一月二十三日(日) 晴 暖
 起きるのが遅く、朝食もおそくなる。神武殿を探して漸く行くと、第一回戦で負けていた。皆泣いていた。
 柔道も負けた。剣道も負けた。柔道は建国大学が、剣道は新京工大が優勝した。
 晩、「菜羹香」で同窓会をして下さる。前院長三毛一夫先生を始め多数の先輩の方々の出席あり。
 夜、十一時五十分発の列車で新京を発つ。

十一月二十四日(月) 晴 寒
 列車朝七時半頃哈爾濱駅着。直ちに登校。朝礼に出ないで朝食、授業に出る。
 胡麻本先生の時間に申詳ないと思いながら愉安の夢の世界をさまよう。

十一月二十五日(火) 晴 寒
 教練の時間に急に出たくなくなったので、秋林へ出る。白井長助先生に会う。「成瀬、今日は少し寒いが天気も良いし、休みとは良いな」例の痛裂な皮肉、眠が右上方の空を睨んでいた。

十一月二十六日(水) 晴雪 寒
 雪が降った。僅かであるが、何日振りだろうか、今年初めてではないだろうか。
 民政部大臣視察のため来院。日本語のあまりうまいのに一驚する。

十一月二十九日(土) 晴 寒
 零下二十度を越す。風がないのであまり感じない。寒さ安定して暖かさを感じる。
 スケート靴を売る。金三十円。昨年買う時はたしか二十三円だった。
 川辺と二人で東京飯店へロシヤ料理を食べに行く。紅茶がおいしい。

十一月三十日(日) 晴 寒
 八区運動場の宣徳体育館で武道大会有り。
 柔道、一般の部に一組。学生の部に二組出場、共に優勝する。
 夜、「銀鍋」で三年生の送別会、優勝会、その他種々の意味を掛けて祝宴を開く。くたくたに酔ってしまい、馬場と春日に助けられて帰る。
          (成瀬孫仁日記(五)につづく)
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