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Re: 成瀬孫仁日記(六)昭和十七年四月~昭和十七年八月

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あんみつ姫

通常 Re: 成瀬孫仁日記(六)昭和十七年四月~昭和十七年八月

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2009/3/16 9:47
あんみつ姫  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 485
六月
五日(金)
 もう勉強もする気もしない。蒙古旅行のことも決まる。後は出発だけ。
 佐山先生の試験があったが、相変わらず出来は良くないだろう。恥かしくて柔道なんかしているのが馬鹿らしくなった。勉強したくなかった。

※この一日分しか見当たらない。このあと蒙古旅行に行った筈である。旅行のレポートを学校へ出した記憶があるから、その基礎の資料となったものがある筈である、日誌も何も見当たらない。木元と旅行に行った者が全員集まって記憶を呼び起こして語らい合えば全貌が解かるのではないかと話したこともあった。

七月
十七日に小豆島に帰省している。が、この月の分は、全て出てこない。

八月
九日(日)
午後五時半、草壁港発の「神懸丸」で高松へ渡る。駅でチッキを二個にして馬鹿を見た。-個は金三円取られる。
十一時、宇高連絡船に乗る。岡山発は夜中の一時頃。

十日(月)
普通列車は案の定おそかった。下関まで殆んど十二時間を要した。暑くて眠られず。
 下関で映画館に入り時間をつぶす。夜、九時半。関釜連絡船出帆す。船内は蒸風呂のようで、じつとしていても、タラタラと汗が流れて処置なし。甲板に出て、トランク枕に一夜を過ごす。

十一日(火)
 朝六時半、釜山着。直ちに、新京行特急「のぞみ」に乗り込む。
昨夜の不眠がたたっている上に、同席の朝鮮人の一家又不愉快。腹立ちまぎれに、食堂車で、一人飲み荒れた。一年生の伊藤が同列車だったので一緒に晝食をする。夜半、安東《注1》の税関まで不愉快極まる。

十二日(水)晴、夕方大雨
 朝九時、奉天着。下車、奉天見学する。街へ出て少し歩くと「宴楽書館」と云う看板が見えた。本屋と思って寄る。様子が少し変だ。一階と二階があり、四角な中庭を部屋が並んでいる回廊がめぐっている。本もない。二階へ上り回廊を行くと部屋の中に女がいる。一回ぐるりと回って始めて気がついた。ピー《注2》だ。朝から人のいない筈だ。何と感じの悪い事よ。早々にして出る。それにしても書館とは粋な名前を付けたものよと感心する。
次は映画の「はしご」。最初は「大陸劇場」。建物はドッシリして良いが、映画が悪い「エノケンの水耕伝」。次は「銀座」(文化映画劇)。「逞しき草原」「草原バルガ」「娘々廟」。
銀座を出ると、偶然に、本当に偶然、青木(鮮系)と会う。ビアホールで一杯。彼は用事があると云って別れた。春日町をブラブラしていると日本から来たと云う「綴方使節団」がいた。此の街は日蓮坊主が多いのか、太鼓を叩いて行をしているのに良く会う。
駅で待っていると、大雨が騒然と降り出し外へ出られない。おかげで随分と涼しい。
 夜、二十三時五十五分発の普通列車に乗る。幸いに空いてガラガラ。併し、前から少しずつ腹の内に入っていた土産のリンゴ、三個残して全部食べちゃった。母から食べるなよとくれぐれ云われていたものを。

十三日(木)
 朝九時頃新京着。直ちに千早町の谷上氏宅に行く。晩には脚が痛い程、疲れていた。

十四日(金)
 朝から「大東亜博覧会」を見学する。入場料十五銭。施設は半分位完成していたが、大したものはなかった。ただ「熱河館」だけは誰か専門の人に案内し説明して貰いたかった。随分と解らない事があった。帰途、三省堂に寄り「蒙古辞典」「全休主義十講」を買う。
駅に行く。小荷物来たらず。仕方なく帰る。晩、涼し過ぎて風邪を引く。

十五日(土)
 街へ出たが、今日からペストの予防注射証明書なしでは何処へも入れない。百貨店も、映画館もおことわりだ。
 トラックで白衣の防疫夫が裾を翻がえして飛び回っているのが不気味だ。
 駅に行きチッキ《注3》を受け取り、夜の列車で哈爾浜へ発つ。

十六日(日)
 午前九時頃、哈爾浜着。昨夜列車の中で、満人の看護婦さんと日本人の兵隊と同席、看護婦さんが顔も気性も男顔負け、面白く一夜をすごす。
 寮に帰って見ると寮母の小母さんが居たのに驚いた。二十三期の岩下良一郎、早川文三の二人が居残っていた由。
 晩、川村先生の宅に伺うと先生は頭を丸刈にしておられたのには驚いた。

十七日(月)
 朝、七時起床、駄弁って無為にすごす。
 晩、ブヘットからカツレツを買って来て、晩餐会を開く。腹一杯になった所でスンガリーへ出かける。川村先生御夫婦をお誘いして、先生、奥さん、寮母さん、成瀬、早川文三、岩下良一郎、米田正興、坂本市郎の八名で行く。ボート二台に分乗して夕方スンガーを漕ぐ。始めてなり。
 帰り途二つのグループに別れる。川村先生御夫妻、私、坂本はマルスに入り?を食べる。奥さんと坂本が食べないのでアイスクリームを頼んだので先生と私は二人前あたった。明日のスンガリー行を約して帰って寝る。寮の道場に変な夫婦ものが宿っている。武内先生変な人を泊めている。

注1:慶尚北道北部に位置する都市
注2:鉄道による手荷物輸送
注3:売春婦

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あんみつ姫

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