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輸送船勝鬨丸の最後4 高崎 廣

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通常 輸送船勝鬨丸の最後4 高崎 廣

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2011/8/12 8:08
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298

 今迄の張りつめた体に名も知れぬ夜光虫の光る海の水は適度に気持良く仰げば満天の星が降りそそぐ様です。振りむくと船は三、四百米は走ったのでしょうか、今や船尾を下に海底に引き込まれる様に沈んで行く処でした。何かスローモーションの外国映画の一シーンを見て居る様な感じです。流れて来た筏に遺骨を上げてよじ登る。後から流れて来る者を引き上げて居ると直ぐに筏は一杯になる。

 捕虜のオーストラリア兵も流れて来る彼等は救命胴衣は着けて居ない手を差し伸べてくるのを助け上げてやる。後から来た日本兵が上がれずにおこる、ゴボー剣で刺せと云うものも居る、面と向かった彼等を殺すことも出来ず、彼等は一かたまりになって浮かんで居る。元気付けの為に停虜連は歌を歌い始める、我々は今や原隊を離れた烏合の衆でそれを感心して聞いて居る。その内に闇夜の海上に敵潜水艦が浮上して来るのが見える、捕虜の歌声が敵船に聞こえて我々が機銃掃射を受けるから止めさせろとどなる者、聞こえる筈がないのだと馬鹿らしくなるがその時は真剣にそう考えて居たかもしれない。

 夜が明けて熱帯の太陽が昇り始める、護衛艦の救助は夜には行われない、暗夜に停止して居ると格好の敵潜の標的になるからだ。水平線の彼方に黒い点が二つ見え始める、段々とマストが船体が浮かび上がって来る。地球は丸いものだと実感で判る。護衛艦の救助は夜明けと共に始まる。シンガポールからの女性の軍雇員らしい人、駆逐艦から降ろされたローブにすがりつくも途中まで揚げると手を離してポチャンと落ちてしまう。何回か繰り返した後にやっと甲板に上がる。救助は両側から始まったが丁度真ん中に居た為に正午頃にやっと引き上げられる。重油の中に丁度十二時間浮いて居た為に、出された牛乳や握り飯ものどを通らない甲板にへたって居ると「敵潜の魚雷発見に」水兵適は甲板にごろごろして居る我々を蹴っ飛ばして爆雷発射の準備にかかる幸い魚雷は少し前方をすり抜けて行く雷跡を見てほっとする。

 マレーから来た兵、兄貴が戦死してその兄嫁と結婚して田舎の農家跡をつぐと云って居たが、泳ぎが全然出来ないがどうせ何処かに泳ぎ着くと云う訳ではないし、魚雷を受けた後も私の前に居た君は遂に上がって来なかった。
 泳げなかった為に飛び込む機会を逸して船に巻き込まれたのか、もう一人アンダマンから釆た関西部隊の兵は腕を骨折したが他船に助けられたとの話。

 ニューギニアから来たと云って居た足腰の立たない担送患者の助けを呼ぶ声、船舶の下に居た英濠軍捕虜、勿論救命胴衣は持って居なかった、又幸いにして浮上したとしても潜水艦に助けられたろうか。

 駆逐艦は全速力で走る、夜は新南群島と思われる現在の南沙諸島からの島影に一泊し翌日海南島三亜港に上陸。

 海軍の半袖シャツと半ズボン支給されるも体に侵み込んだ重油かとれずその白い服も薄汚れてしまう、海軍司令官の検閲を受ける、敵潜水艦の心配もなくやっとその夜はゆっくり眠れる。長く居られるかとの期待に反して三日後に出発命令下り、喜備津丸に乗船する。本船は砲を備えた貨客船でフィリピンのダバオから引揚げ婦女子を乗せて居り他に四隻をもって船団を組み次の寄港地台湾基隆を目指す。

 後で判った事だがその時にはグワム、サイパンは既に陥落し、台湾沖航空戦で我が軍は手痛い打撃を蒙って居たのであった。そして米軍はフィリピンを目指して居た。

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