広島の被爆者の声(1) (1枚目のCD)
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投稿日時 2006/7/13 23:34
kousei
投稿数: 4
このCDは9枚組の1枚目で、広島の被爆者の声(1)が記録されています。これには61の音声記録が収められていて、それらのテキスト化されたものがアップされています。便宜上10記録毎に分割されてアップされています。どのような内容の記録かを示すために途中に以下のような伊藤明彦氏の短いコメントが入っています。参考にされると便利です。各記録の音声は「音声を聞く」をクリックすれば聞けるようになっています。もしテキストに脱落や誤りを発見された場合は、「感想の部屋」からお知らせいただくと幸甚です。
1945年8月5日夜、広島 (その1)
8月6日未明 ヒロシマ (その3)
午前8時15分 (その14)
この時刻広島市郊外 同盟通信広島支局の避難先にて (その42)
なお、テキスト化された記録を読むには、
1)CD1枚分の全てを一望するには、「フラット表示」で読むことをお奨めします。見ている画面の左上の「フラット表示」をクリックすると「スレッド表示」から「フラット表示」に変わります。
2)記録のスレッド(コメントツリー)は時間的に降順になっています(下から上です)。これを昇順(上から下)にして読みたい場合は、「ヒロシマ ナガサキ 私たちは忘れない」のメインメニューの下部の「ソート順」で「降順」を「昇順」に変更して送信を押してください。
kousei
投稿数: 4
その1 音声を聞く
1945年8月5日夜、広島
その2 音声を聞く
原爆が落ちる前の晩ですね、私、呉から帰りましたんです、あの、寄宿舎へむけて。
ちょうどあのぅ、私が勤めてた検察庁のですね、検事の方に広島駅でお会いしたんです。 その方が、「今夜はどうも様子が悪いから、君を寄宿舎まで送っていったげる」 って、駅からね、寄宿舎まで送って下さったんですね、本間検事いうのがね。
その時、どうもおかし~い。 そして流れ星がよう流れるです、 前の晩にね、特に。 そしたらその検事がね、「何となし今夜は不気味な、おかしい、おかしい」 ってね、云っとられたことが今だに印象に残ってね・・
その3 音声を聞く
1925年8月6日生まれ、10代最後の夜でした。
その4 音声を聞く
はぁ、何かもうね、星が流れて流れてね。 あそこの輜重隊(しちょうたい)の前を通ってね、寄宿舎へ帰るんですけどね、1本道が長いんですよ。 そのあいだ空を見ながらね、「今日はなんとも流れ星が多いんですねぇ」 ってね・・。
ヒロシマ ナガサキ 私たちは忘れない
その5 音声を聞く
8月6日未明 ヒロシマ
その6 音声を聞く
僕は望楼勤務をしましてねぇ、それからまぁ、その夜はねぇ、非常に星空の綺麗なねぇ、星の綺麗な空でしてねぇ、え、島がねぇ、各島々が霞んでね、えー、霞んでみえるわけなんです。 ああ、こんだぁ、なんだな《今度は、そうだなぁ》、 日曜になったらまた親父と一緒にねぇ、釣りになと出かけようかということでねぇ、考えたとこもありますしねぇ。 そりゃもう灯火管制下ですからねぇ、もうほんと真っ暗ですよね、これは、うん。物音ひとつしないねぇ、まるで死んだような静けさでしたねぇ、うん。
その7 音声を聞く
不寝番ですからね、一時間交代なんです。 だから私は2時から3時までの間だったと思います。 だからほんーとに真夜中、立ちました。 弾薬庫があったんですね、すぐ近くに。 だから衛兵のところの門のところに立つわけなんです、不寝番ね。
ちょっと今じゃ見れないでしょうね、ほんとに、星がキラキラと綺麗なかったですねぇ。 真夏のことですからねぇ、そんなことはない筈なんだけど、なんか身の引き締まるようなね、冴え冴えとしたような夜でしたねぇ。
その8 音声を聞く
6時に出したわけなんでねぇ、2人を。そしたとこが、あのぅ、出す時にものすごく長女が後を追うんですよね、主人の。 ほじゃからその時は、別に気にも止めませんでしたけど、なして今日に限って、まあ、云うことを聞かないんじゃろうかな、後を追うてから、と思っておりましてね。それで、まあ
その9 音声を聞く
その日の朝食の時にまぁみんなで話したのがその、ねずみがいなかったことですね。
その当時もう焼夷弾の攻撃があるからいうので天井板を全部剥がしてありました。 それで上の垂木からなにからみんな見えるわけですよね。
で、朝、食事する時でもねずみがトロトロトロトロ走るのが見えるんです。 その時、朝食の時に、「あら、今日はちっともねずみがいないね。」
だけどそれがその大事に至る、とは、そこまでは話さなかったですけどね、「ねずみがいないねぇ」いうのは云ったですね。
その10 音声を聞く
その朝ね7時頃であったんですよ。 こういうの細いね、まぁ艶のええ、こういう長茄子をね、10本くらい持ってきてくれられたん。
ほいで上の子が、フサコいう・・、「フサコちゃん、これ、これ、今の おじちゃんが持ってきてくれちゃった。ええねぇ!」って云ってたら 「まぁ お母ちゃん ええねぇ!」。 「今晩ね、これをね、あの、炊いてあげるよ」 ゆうたら、「うん、炊いてぇね」 ゆうてニコッと笑ろうて頭をこうしてね・・かしげて・・、そして「行ってかえりまーす」と云って出たのが それが私はね 目に焼きついとります。
悪い時に生まれたね、一番悪い時に生まれてね、戦時中に生まれてから可哀想に! 美味しいものを食べずに死んだんですから。 ほいでお腹一杯食べずに死んどるんですから、ほじゃから可哀想ですよ。
kousei
投稿数: 4
その11 音声を聞く
6日の朝出る時にねぇ、下から上がってきて2階で僕が田舎の親父に葉書を書いてる時にね、「それじゃ只今から行ってきます」と、「今日はあなたの身代わりよ」、と云ったのが最後なんです。
だからなんかねぇ、やはりその、そこに不思議なものがあるんじゃないかという、ぼくはアレ(気持ち)がする訳なんです。 「今から行ってきます」と、「今日はあなたの身代わりよ」、と云うたんだからねぇ。そしてそういう残酷、惨死、直死でしょ、そいで僕は生きてるんだからねぇ。
その12 音声を聞く
それで、私はピカが落ちる前ね、さぁ20分かね、20分か30分くらい前まで そこの相生橋の橋のねと《ねと=そば》にね、相生橋のとこで待っとったんですよ。
そうすともう暑いでしょ、 大八車でくる人もあるし、あの馬車,あなたら知っとって? 馬車ゆうての、馬が引っ張るんです。
それで来る人もあるしね。わたしゃあの時ね、7時半かね、8時頃までには 「わたしがいくけぇ、ほいじゃけ、おって《おって=居て》くださいね」云うて行ったですがね。8時前でしたかの、来てないけん、もうどうでもまぁええわ、思うて私は行ったんですよ。
行ったから私はよかったんね。おかげでまぁねぇ、助かりました。
暑かったですよ、あの朝は。ほんま、かんかん照りで。
その13 音声を聞く
電車に乗っていかなきゃならんいうんで、鷹野橋の停留所いうんがあるんですけど、そこまで行ってみますというと、ちょうど2~30人でしたか、ずーっと行列を作っておるんです。
だがもう、なかなか、この、電車がやってこないので、暑い暑いので私はまぁ、軒下へこう立ってですね、電車の来る方向を何べんも何べんもみますけれども、なかなかやってこない。
時計をみるというともう8時になりそうなんです。あれまぁどうしたんだろうか。まぁ、ようよう電車がきましたから、まぁ、それに飛び乗ってですね、広島駅へ向かってたんですが、電車ものろのろ運転ですねぇ、駅の前に着いてみるというと、もう汽車が黒煙を上げて待ちよるんですね。
それからもう大急ぎで、電車から降りて、汽車に乗ろうと思うてね。ちょうど地下道の真ん中へ行った時に・・・。
その14 音声を聞く
午前8時15分
その15 音声を聞く
ピカーッと光ったでしょ、青白いんですよの。
ほいでお寺の中までばっと明るうなった。ほいでまだ音が聞えんですよ。
音が聞えんということは、距離は大分遠いということを直感したんです。私、数えたんです、秒数を。秒数から距離計算して、ちょうどこれは広島くらいな距離じゃが思うてね、ああ、これは広島の火薬庫が爆発した。
太い膨大なものですよの、煙が上がるのが。色が白に黒に桃色じゃ。ちょうどね、湯玉が煮えるでしょ、鍋ん中で。ああいう格好にね、クラッっと・・、増えるんです、どっど大きなる、拡がるの。横に拡がった、ちょうどね、きのこ雲いいますがね、きのこの形になるの・・・
その16 音声を聞く
煌々と輝いとる。白う輝くいうのじゃないですがなぁ、やっぱり月のような輝きじゃありますが、ああいう澄みきった輝きじゃぁなかったですな。
満月なんかは、はっと澄んだ輝きですがなぁ。じゃが あの火の玉は、ああいう澄みきったもんではなしで、中がなんかこう混ぜくるような、煮えたぎっとるいいますかなぁ、ああいうような。
まぁ、あんな静かな時いうちゃないと思いますなぁ・・。もうあの時の静かないうことはありませんなぁ、静かなもんじゃったですなぁ、あの瞬間は。
その17 音声を聞く
原爆の大きさというのは、ちょう太陽が笠を着とるいうことがありますわ、真ん丸いね。ちょうど縁が虹のように、紫色にぴかっと光ったような、赤とか紫とかいろんな色に光ってますね。ちょうど太陽が虹を、虹やなしに・・、あの笠を着たような状態だと。
ほしてそれがね、非常に熱いんですね。そしてだんだん、だんだん、こう膨れてくるんです。そして膨れてそのままだんだんだんだん下に落ちてくるような感じがしたんです。
その18 音声を聞く
その光ったのがあぁ、熱くて、熱くて、電気のスパークありますね、ええっ、あの青いような。あんなんがもう大地へもう、陽炎のようにこう踊るんですよ、光が。
それが熱くて熱くてね、あの、身体に当りましてね。ほで私は上着きて下はゲートルだったんだけども、上着をこうぱっと被ってね、大地いいますかな、この、グランドへこうしゃがんだんですよ。
そりゃ直射光線を受けた人はねぇ、顔でも足でも、足はだいたいむき出しが多かったですね、なんかちょうど馬の鞍の革があるでしょ、こういう靴なんかの、馬の靴、あの色になるですよ。
瞬間にもう、ここが出てるところがみんな赤革のようになっちゃうんです。
その19 音声を聞く
恐る恐る顔をあげてみるというと、峠の上で方では、もう、ムクムク、ムクムク、ムクムク、あの、入道雲が上がってるんですね。
「あの雲はなんじゃろうか」といいながらですね、そりゃもう、ぐんぐんぐんぐんその雲が湧き上がっていくんですね、入道雲が。
その、まぁ、色も、白、オレンジ、ちょっと紫がかったところもあるし、なんともいわれないあのぅ、まぁ雲だったですねぇ。たら、間もなくはですね、ゴロゴロゴロゴロ雷が鳴り出したですね。
その20 音声を聞く
防空壕へ入る前に、危険性があまりないように感じたものですから、そのぉ、広島市の上空をみますと、なんか変な、今でいうキノコ雲ですね、それが50度位の見上げる位の高さにですね、モクモクモクモク、もう得体の知れない雲がですね、それが鴇色をしたね、雲が外回りにですね、ドーナツ雲いうんですかね、モクモクモクモクいごいてるのが見えるんですよ。
なんかそこに紙切れみたいなもんが、なんか知らん物体が混じってですね、見えるんです。
それで耳を澄ましても、「潮騒」いうのがありますねぇ、沖でいう。あんな形の、耳鳴りがするのかわからないうような音がじーんとかすかに聞えてくるんです。
広島市の泣き声じゃないかと思うんですよね、今考えてみると。その下に何かあったと。
kousei
投稿数: 4
その21 音声を聞く
そいで、ぱぁーとやられたところが、まぁ、雲が出て、また黄なのが出て、それがまた何でしょうね、最後に見たらまっ黄色なもんが流れよった。
やられたと思って、飛ばされて、畑の縁に何メータまで飛ばされたわけです。ほいで意識不明じゃったんです。
なのが、耳の中でなにかじーんというて蝉がなくように声が聞えたから、こう目を開けてみたら、上の上着が全部燃えて無いし、手やら胸やら顔がね、皮が全部ぶらぶらぶらと雑巾みたいに下げて、このままじゃ子どもを連れに、探しによういかんから、家入ってなにか上着をかけて出にゃならんと思うて家入った途端に、家が崩れて下敷きになりました。
それで後、子どもが、2人がぜんぶ裸で、大きい子どもがね、小さい子どもを負うて「お母ちゃん」 いうて入った時、見たら、せなやら顔やらじゅるじゅるになって、顔が燃えて、雑巾みたいにぶら下げてきて・・
その22 音声を聞く
光った瞬間はまわり全体がぱっと明るくなって、大きな溶鉱炉に投げ込まれたような感じでもあるし。火の雨がですね、驟雨がざーざーと降った、まわり全体にざーと降ってきた、そういうような感じでもあるし。まぁもっと云えば、あの、夏に、こう、太陽ですね、太陽が輝いている、それで海岸なんかへ行ってこう寝転んで目を瞑って、太陽の方を向くとぱぁーと明るく、瞼の裏が明るくなりますね、そういう感じであったようにも思います。
で、川の側だったものですからね、ずるずるっとその石段を伝って川へみんなと一緒に、瞬間的に熱いと感じたんでしょうね、入り込んでました。
で、たまたま一人だけ、あの、僕と同じ位の背丈の友達がいましてね、僕と向かい合って、「顔がどうかなってるか」 いうて聞くんです。
そいで、あの、見るとね、こう、ずるっと皮がむけて、あの、顔のあたりから首にかけてこうあの、ロウが垂れたように、雑巾をこう、べたっと垂らしたようになってるわけです。
それで、あのう、、そうなってる、垂れてるいうて云ってやったんですね。
自分もそれと同じにあるいはそれ以上なってたわけなんでしょうけども、自分がそうなってることも知らないし、それから自分は、友達がこうだから自分はどうなったのかなと顧みるという意識も働かないのです。
その23 音声を聞く
痛いもんでね気がついで、ほいで《ほいで=それで》起きようと思ったらねぇ、あたりは真っ暗でしょ。 おかしいなぁ、カンカン照りのところをわしゃ歩いて来た筈じゃが、こう暗くなったのは、こりゃひょっとしたら、わしゃ死んどるんじゃないかと、こういうことを考えたんです。
じゃが 死んどるにしちゃ、今までの状態の意識が変わらんのだよな。死んでもやっぱり人間はこういうな意識があるんじゃろと暫く考えたんです。
ほいでもね、いつまで見ても暗いでしょ、ほいで仕方がないから目を瞑ってこうやってふさっとったんです。《ふさる=伏せる》 ほいてこんだ目を開けてみたらね、こんだ大夕立の雨が降りますね、そして降ってこう地面にこうしぶきがあがるでしょ、ああいうふうな状態で青い火がね、ぱらぱらぱらぱら上から落ちてくるんです。
不思議なもんですな。こりゃいよいよわしゃ死んだんじゃわ。死んだら黄泉の鬼が火の車を引っ張ってくるゆうことをよう聞いとるが、あれじゃな、こりゃ確かにわしゃ死んだんじゃわ。
もう死んどるのも生きとんのもしょうがないわねぇ、思うて諦めて見とったんですがね、ほんでもまだねぇ、人間の意識があるんですな。この青い火を見とったら目が悪うなりゃせんじゃろうかという意識が出て目ぇつぶってねぇ、また、しばらくふさっとる時間は長かったですよ。
ほってこんだ目えあけてみたらねぇ、今度は火は消えてねぇ、ほでやっぱり暗いでしょ、どういうこっちゃろうかと思うて、考えて、ほして駅の方向をみましたらね、雲がちょっと薄くなったと思ったらぱぁーと明るくなって・・・
その24 音声を聞く
登ってみたところがですねぇ、一面がもう瓦礫に化してるわけなんですねぇ。ほで、普通は見えないところの今の西広島駅とか、駅の裏の山とか、もう全く手近に見えるわけなんですわ。
そしてまぁ東の方を見れば昨日まで威風堂々として建っておった、その、広島城ですね、これがまたぺちゃんこになってると。ほいで下を見ればですね、下の電車線には電車がもう3台も4台も横倒しになり、あるいはもうひっくりかえっているのやら、それから軌道から外れてですね、横を向いておるのと。
もう人影は全くないんですよ。物音はもう全然聞えません。人っ子ひとり通らん静かな死の町といいますか。
その25 音声を聞く
そうしよるとドームの窓から窓枠が燃えて、その窓枠から火が中に吸い込まれていく。そいで暫くするとその中から逆に外へ火を吹き出してきたと。で左の相生橋のとこの商工会議所、4階建ての商工会議所をみると、同じように窓から火が吸い込まれていってまた火を外へ吹きだしている。
そうしよると向かい側の木造2階建ての広島郵便局も、これが一番早く火の手を上げたように思うんですが。ぐるり八方がもう火が燃える音だけで、人間の声も何の声もなし、しーーんとしてしまったと。
しばらくすると、その川から、2mぐらいの直径の川の水が竜巻になって100メートル近く、上へびゅーと巻いてあがるんですねぇ、それが3本ほどみましたよな。それがばらばらーと落ちてくるんです、その、雨のしずくとなって。
その26 音声を聞く
ありゃま、どうした《どのような》爆弾落としたんだろうか? 思うておって暫くしとるというと、向こうの方からですね、もう破れ着物を着た人がね、ここらから血を流した人が、それからばーと手の先が、皮膚が垂れてぶら下った人が、そういう人、それから女でも髪を乱したひとが、半裸体ですね、半裸体になった人がつぎつぎつぎつぎダラーッとこう、首を垂れてやって来よるんですよ。
女学生なんかがスカートを、破れたヤツを手を覆うようにして、そしてずんずんずんずん続いてくるんです。それがもう何十なのか何百なのか続いてくるんですね。それから、これはまあ、ひどいことじゃ、それを見るというとほんとにまぁ、私共は、この世ながらの、いわゆる地獄ではないかと。
その27 音声を聞く
こんなに、こう火ぶくれでね、顔の相が全然わからん人も。 それからあの、死んでる人のあの、睾丸がね、男のひとがこう風船をふくらして、はじける位の大きさに膨れとったのがね、あれ、どうしてああいうところがあんな大きく膨れたんだろうか、いうようなのが生々しく残ってますね。
それからあの、子どもさんがね、怪我をしてどんどん帰ってきましたね。 「先生、先生」いいますけど、「あんただれ?」 って云ってもわからんのですよ、顔がぜんぜん姿が違うので。
この人たちは勤労動員の、外で直接受けた組ですからね、全部あの、、こう、豚のように腫れ上がって、それが茶色じゃなくって灰色の火ぶくれでね、で、「寒いよぅ、寒いよ」って、夏の真っ盛りですのにね、「寒いよ、寒いよ」ゆうて、「着るものちょうだい」「着るもの頂戴」、「お水頂戴」、「お水ちょうだい」言うてね。そういう子どもさんは、みんな亡くなりました。
その28 音声を聞く
薄暗いような向こうの方から、作業にいっとった生徒たちが学校に帰ってくるんですねぇ。
それみると、土人かなんかが、ちょうど、爆弾落として、黒人か何かの、土人かなんかを、落下傘ででも降ろしてからこさしたのかなというような感じでから、頭のところだけ線があって、帽子のところだけ線があって、それが後は真っ黒い身体をしたのが、こう来るのですよね。
それをよく見ると一中の生徒じゃったんです。見覚えがある顔ですが、それはみな裸のようになってから、靴だけで 後はみな真っ裸のようなんで、ほいで、「火傷をした、熱い、熱い」 ゆうてから、ジャガイモの皮のようなこう、めくれたような皮を、みな、すいすいすいすいと、ちょうど桃の皮を剥くように剥いて、「熱い 熱い!」ていいながら剥くんですよね。ほいで、「そんなことしちゃいけん」 云うてから、云いよったら・・
その29 音声を聞く
で、そのお友達がね、「よっちゃん、おかしいよ」っていうんですよね。で、「私も怪我してる?」って二人がまぁ聞きあったんです。 そで、「うん、ちょっとお顔がおかしい」っていわれるので、ほんとに指をですね、お顔へそっと当てただけなんですけどね、なんかあのぅ、柔らかい肌の感触がなく、なんかきんきんしたものが感じられて、指には、そのぅ、皮膚がねべったりついてたんですね。
そいで、ああ、私怪我してるってその時にまた思ったんですけどね、それから両腕をみますと、張り裂けた皮膚がですね、あの両腕の下にぶら下って、ほんとびらびらがこうぶら下ったような感じで、それから怪我をしていることが、その時はっきりわかったのです。
それでもなんとかお家の近くまで帰ったんです。そうしますとね、いつも可愛がって下さるご近所のおじさんに会いましたんですけどね、私が誰だっていうことがわかんないんですよね。 で、そのおじさんに私が声をかけますとね、びっくりして、「よっちゃんだったんか!」いうことで。
でもう、曲ってね、私には見えるんですよね、家族が、皆と右往左往話してるのが。私が娘だということがわからないんです。 で、私が泣きついてはじめて、「よし子か!」ということがわかって。ほんとにそれ程まぁ、私は変貌してたんだと思うんです。
その30 音声を聞く
それで見たらばもう、轟々ごうごう、もう見渡す限り火の海なんですよね。 みんなその火がうちの方に向かって燃えてきますしね、それに立ってる家がないんですね1軒も。
そいでね、それを掻き分けながら、裸のまま、子どものことを横に抱えましてねぇ、出たんですよ。手を血だらけにしましてね、掻き分け、掻き分け、出たんですけどね。
そのところの梁の下にお隣のおばさんが挟まっちゃってるんですよね。それで「助けて、助けてー」云うんですけど、助けてやりたいと思っても手がもう、掻き分けて出るのに手が血だらけでしょう。
だけど助けてやろうと一所懸命になって、それをね、子どもをそこの上に、瓦礫の上に置いといて、その梁を持ち上げるですけど、持ち上がらないんですよね、女の力では。
そのうちにほら、ごうごう燃えてきますでしょう。もう熱い風がびゅーと、こう、ふる《吹く》んですよ。 だからもう、「ごめんねー」ちゅうて、私、すぐに太田川のねぇ、土手の上に逃げたんですよね。
たくさんいましたねぇ。でも、どうしてあげることもできない。「助けてー、助けてーっ」て、あっちでもこっちでも泣いてても、それをどうしてあげることも出来ないなんて、ほんと、こんなむごいことがあるでしょうかねぇ、ほんとに。
kousei
投稿数: 4
その31 音声を聞く
出たときには15メートル四方は火の海ですよ。バリバリバリバリーーっと。
「いやぁー、こりゃ、ここにおったら焼け死ぬよ、お父さん、お母さん、わぁーっ!」いうことですよ。
ほいでまぁわたしゃ、とにかく、燃えんところから、燃えんところからよって《よって=選んで》「まぁ川へ出なしょうがない、怪我しんさんなよ、父さん、そこ五寸釘がのぞいとるよ」 ゆうてね、云いながら、這うてみたり、立ってみたり、転げてみたり、「わぁー、こりゃー生き地獄じゃのー、口惜しいのー、こがいなことがあるもんかい」、ゆうてね。
その32 音声を聞く
腰を屈めてから這うて、四つ這いにみたいにして歩くんですよ。釘が上向いとるでしょ、みなこうなっとるから。四つ這いになってから、裸足でしょ、履き物なんか全然ありませんでしょ。生きる為にねぇ、もう我一勝ちですよ、逃げるのが、もう怖くて。
その時はほんとに人間どうかしとるですね、みんな狂うとりましたよ、本当が。
わし震えよるんですよ、そのことを考えたら恐ろしいから。 そうして、あのもう、「助けてくれ~、助けてくれ~」 いう人ばっかりですよ。
声は聞えてもね、姿はみえませんの。みんな、もう、建物の下におられるんですから、みんな。それでも、誰こそね、助けてやるゆう親切さは ぜんぜーんありませんよ。自分の身が可愛いばっかりなんですよ、本当が。
で、飛行機がきたらもう、「みんなかごめー《かごめ=屈め》」いうてんですよ。 立って歩くの、駆けって逃げるのが分るから、「すぐそこに転げなさーい」 って誰か云うんですよ。ほしたらね、皆すぐに、はあ、飛行機の音がしたら、はあ、皆ころっと転げとるんです。 わからんでしょ、歩くの、転げとったらわからんでしょ、転げたんです、皆。ほで、飛行機逃げたらまた、駆って。駆けらりゃせんのですよ。
その33 音声を聞く
こう、つろうてね、《つろうてね=連れ立ってね》、「どっちから逃げようかね、逃げるとこがないけん、早くなんでもええものをひとつ拾いなさい」ゆうてね。
わたしゃ垂木を1本持って、ほかのもんも、みんな垂木を下げとりました。
そいから中にはね、真っ裸で子どもをせな《せな=背中》に負うとっちゃた人も。 子どもは、はあ、もう死んどるのにね、私の後ろにおって・・。それが屋根がこがぁに、こがぁに《こがあに=こんなに》倒れとるんでしょ、そいでも しょうがないでしょ、屋根の棟を歩かにゃならんから。
ほして下からね、「たすけて~~」 っていう声が この耳の中に八年ぐらい のかなんだ。《のかなんだ=消えなかった》
その声がなんともいえん、その、家がなんぼにも《なんぼにも=いくらでも》こうゆうようになっとるんですけんね。「たすけて~、たすけて~」 いうてんですがね、助けることじゃない自分の身が逃げるのが一生懸命で。
ほいで屋根の棟をこうやってみんな叩いてね、丈夫そうなところを渡って這うようにして逃げたんですよ。それなのに、「奥さん助けて、子どもが、こどもが・・・」《って言うんです》
「あんた今どうにもなりゃせんじゃないの、早う前になっと抱いてやんなさい。《前にでも抱いてやりなさい》 死んどるものを負うとってんでしょ。」
その34 音声を聞く
逃げ道が断たれますからね。そやからどっち向いて逃げたらええか思うて、頭が転倒してしもうとりますからね。
「お泉邸はどっちですかー」 っておらんだ《おらんだ=叫んだ》んですよの。 すると 「お泉邸は火事になっとりまーす」 云うてんで 「火事になっとってもまだ避難の余地ありますけん、どちらですかー?」 いうてもだまって皆かごんでしもうとっとですよね。
今何時かしら、とこう空を仰いだんですね。 そしたら太陽が真っ黒い雲の中からね、この位の大きさになって真っ赤になって顔を見せとりますね。
「こちらが東ですよ、こちらがお泉邸ですよ、早う逃げましょう、周りが、逃げ道が断たれますよー」 云うて、私がおらんで、そいで私はどんどんどんどんお泉邸へ走ったんですがね。
黒煙がもう何十丈も、ぱーとあがりよる、火と共にあがりよるんです。《あがりよるんです=あがってるんですよ》「これは大変ですよ、道を断たれますでー、断たれますでー、」 云うてね。
その35 音声を聞く
そうして避難してそこで見ますとね、高ーい松の木のね、上の方がボウボウ燃えとるんですね。 松の木ですから青いでしょ、焼夷弾もかけらも何もないのにああいう上の方が、しかも青い松の葉っぱが燃えとるというのはどういう訳だろうと、今まで爆撃は方々でいろいろあったけども不思議でしょうがないと。
原子爆弾て気がつかないですからね。
そうするとね、時々あつーい炎の風が地面を這って、こう。 そしてその周囲におる避難してきている人間が みんな大火傷をして 顔がもうわからんくらいに赤むけになってしまっとるんです。
そして苦しくてしょうがないもんだから その連中がみんな池の中にはいってるんですね、冷やしたならば苦痛が少しでも少なくなるかと思って冷やしておるんでしょうね。
そうすと、その避難してくる人間がだんだんに人数が増えてきましてね、それがもう実に二目とは見られんような顔つきになっとるし、苦しんでおりますしねぇ・・・
その36 音声を聞く
もう焼け爛れたですね、まぁお化けのような被害者の群れでですね、その公園はいっぱいなんですよね。
この大きな桜のですね、あの、幹の側にね、まだ年若い母親がですね、乳飲み子を抱いてね、お乳を飲ましているんです。
ところがですね、その母親はですね、年の若い母親はもう既に死んでるんですがね、この乳飲み子はですね、母の死も知らないでね、無心にですね、死んだ母の乳房をしゃぶっている。
そいでしばらく二人で待っていたところがですね、私の前にですね、一人の男がね、こう立ちはだかったんですね。私は キヨシ と申しますが、「おお、キヨシじゃないか」と。
私の名前を呼んでくれたものですから 初めて父親だってことがわかったんですね。ええ、一目でわからないんですよね。
父親はもう素っ裸でね、それこそもう頭のてっぺんからですね、もう足まで全部焼いてしまってるんですよね。 顔はですね、もう腫れあがってますしね、まるで目が糸を引いたようなんです。 唇はもう豚の唇のように腫れあがっているし、それからもう睾丸はですね腫れあがってる。
ところがですね、父親はそんな自分の身体に気がつかないで 私共夫婦がですね、焼け爛れた身体を見て心配してくれたんですね。 「お前は酷いことになってるじゃないか!」ということでね、まぁ、とにかく、お前らに会えてわしは安心・・
その37 音声を聞く
(川)上の方からね、筏に乗って警防団の方が、漕いでどこへいかれるのか知りませんが、いらっしゃるんですよ。
それで 「すみませーん、助けて下さい、私、もうこの材木につかまってる手がもう放れそうなんですが、もう主人は亡くなったけど 子ども二人の安否がもう、私は今ここで死んでられないから・・」 ゆうて云ってもね 「いやー、おばさんよりはもっと助ける人があるんだ」 云ってですね、行ってしまうんです。
何人でも。 助けてくれません。
もうしょうがない思ってましたら、こんどはあの両岸はどんどん燃えてますからね、ばーっと火の勢いが川の中に入りますと竜巻が起こるんです、一丈くらいの。 それがざーっとこっちへ押し寄せてくるのが見えるんですよね。
その38 音声を聞く
空が凄く暗くなりましてね。暗くなったいうのが、 日蝕ですかね、あれ全部お日さんが隠れますでしょ、その時くらーくなるでしょ、あれ位だったか、あれよりまだ暗かったか思うんですが、もう空は真っ黒い雲ですね。
そいでみんなあの煙突から抜け出たように、もう煤もぐれのような感じで、髪はもう逆立に立ってますしね。まあ、もちろん服なんか真っ黒ですよね。だからあの時は灰色よりまだ黒い色と真っ赤な血と、という色しかなかったと思います。
それで雨が叩きつけるように降ってきました。 で、中学の1年生、2年生くらいのちっちゃいのが、全身もう焼けて、もう風船のように膨れてますね。 皮はぼろぼろさがってる。
男の子は帽子被っているところは髪が残ってるんですけど、その帽子の下からはもう全部火傷ですから、髪も溶けてないし、耳も溶けたような感じですね。
「もしもし」、って呼ぶ子がいるんです、女の子でしたね。 女の子か男の子かわかりませんけど、まぁ、声を聞いてわかりますね。 で、「雨にうたれて寒いから、何か着るものないですか?」って云うわけなんですよね。
その39 音声を聞く
ほしたら雨降り出したよの。 それが真っ黒いんが。 おかしいのぉ、、思いよったらねぇ、なにあんた、川向こうからあんた、もう何百人何千人いう人がこっちへわぁーて歩いてくるんですよ。
それがみな裸で もう焼けたりなんかしてね。 ボロが焼けて溶けたようにね、皮がむしれてね、そん中に水が、雨が降っとるけ、水が入るでしょうが。皮の中に水が入って、こうやりゃ、ザーって水が落ちるように。 それが入る、上がる、土手・・・あがってくる人間は、「水くれ、水くれ、水くれ、水くれ」 って唸っとるんだね、みんな。
「水くれ、水くれ、水くれ」 云うちゃ バタバタバタバタ倒れよるんだよね。ああ、凄いひとじゃなと思った。 中にはトタンを持ってから、雨降っとるから、こうやって裸になったような者もおる。 布団を被ったんもおるのぅ。
さぁ年頃42~3位の女の人が、女の人じゃろ思うんじゃが、ずるずるや、頭の髪は1本もないんや、ずるずるでなにもないんや。 8月の6日でも「寒い」云うてな、濡れて、普通の雨じゃないんじゃけん。 「おじさん済まんが布団をちょっと貸してください。」云うて、 貸してくれゆうたって見た目がねぇ、ずるずるでしょうがい・・・
その40 音声を聞く
逃げた時に、雨がこんなの降りました。真っ黒い雨が、大きなのがどんどん。 まぁ黒い雨じゃない。
結局、黒い煙があがっとるから、広島全部が壊れて、黒いのがばーっとあがっとるから、黒うなって落ちたんだろうじゃないですか、今からみると。
あれとね、太陽がね、もうそれこそね、広島全部、半分がね、太陽に見えましたよ。 あんな大きなね、恐ろしい太陽みたことないです、私。 広島が半分、祇園の方へ向かって、全部が太陽に見えたんです、真っ赤に。 見えたんですよ。
kousei
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その41 音声を聞く
大きな粒の雨が突然降った。
これは油脂爆弾とか、まぁ勝手なことを、まぁ知ったかふりして、みんな云いあっとりましたが、「水を飲んじゃいけませんよー、水を飲んじゃいけませんよー」、とゆうて軍人らしき者がですね、後ろからどんどんこれらも逃げていくのですが、注意してくれました。
水を飲んじゃいけないと。
ところが道中に、ずーと道の両側に、村の人がみんな行列でしょんぼりして「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」 いうて両手を合わせて、そういうのがもう乞食というようなことでなく、その一歩まだ深刻な格好でですね、全身が血みどろで 上のワイシャツなんかぼろぼろになって血だらけで、死相で血を見て顔色は悪いし真っ黒で、目と歯だけが白いという状態であったために、もう村の人はびっくりして、ただ「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
その42 音声を聞く
この時刻広島市郊外 同盟通信広島支局の避難先にて
その43 音声を聞く
いわゆる、私らが言う、正規の第一報はそれで済んどると。 NHKへの支局へ、同盟通信の岡山の支局の連中を呼んで貰うて、こうこうじゃと出したから。
そいでいわゆる雑感をね、あんた書けゆうんでね、書けゆうもんだから私が書いてね。
やっぱり、一発でね、落ちた広島市は廃墟になって、市内に入ろうと思うたけれども入れないと。そいでもう、市外へ、市外へね、怪我人が津波のように出してきよると。
恐らく広島市は勿論全滅しとるような模様であろう、いうような意味を書いたわけですね、私は。
ほんま見た通りを書いたわけですがね、今でいう事件のあった雑感記事よりは、多少心構えがちごう(違う)とったでしょうね、私の場合。
本社の方へやっぱり報告しよういうね、気持ちも半分あるわけですね。それが一般記事として使えるとは、その当時じゃけん思うとらんですよね。
その当時のことじゃからボツになろうとなるまいと、恐らくなるじゃろうけれども、本社への報告、本当のことを知らせる、知らせたい、いう気持ちからね。ひどい、いわゆる幽霊のように人波が続いとるということを、正直に書いたですね。
その44 音声を聞く
男も女も真っ裸なんですよね。あの、まぁ8月の一番暑い時で、女性なんかほれ、薄いものしか着てない。
だから、あのピカッと光った瞬間に、それが焼けたのか溶けたのか、もう裸になっちゃってるわけですよね。
頭の髪の毛だって殆どないような状態。 だから、男か女かわかんない、ただ、裸のものをもう何千人見たんだか。
もうひとつは、あのぅ、目玉が飛び出しちゃって、目の中から赤いどろどろとしたものをぶら下げてんのか、流れ出てんのか、ちょうど口のあたりまでね、こう、下げた者、これもまた大した(人数)見たわけですよね。ところがみんなね、その、真っ裸のような状態の人たちがね、火ぶくれになり、歩くたびに、まぁ、いのかす《いのかす=動かす》たんびに皮がはがれて、はがれた皮がぶら下る、ぶら下った皮はどす黒くなって真っ黒。
そして中身の方は油でギタギタなような、赤いような、茶色のような、それこそ見るも無残な状態ですねぇ。
しかし、そういう人たちはやはり、まだ自分で歩けるわけですよね。 歩ける状態でもそれほどまでにひどい状態。だから・・・
その45 音声を聞く
まだ産まれて間もない赤ん坊を抱いて、こぅ、来るのを見たところが、その赤ん坊がもう全身もう、ひどい怪我をして真っ赤だったんです、血でね。
「あのアメリカの野郎め、ひどいことをしやがるな」思ってもう、ほんとその時になって初めてこぅ、怒りが燃え上がってきたんですよ。
それからまぁ、私たちの部隊の演習場をずっと入っていったらね、夥しい火傷をした人たちがいるんです。薬らしい薬はないんですよ。
なんかそのう、黒いような油みたいなものを背中に塗ったり、火傷したところにずーと塗ってたんだけどね。
そしたらもう、広島駅の方からね、俗に云うユーレイ、みな手をあげて、ぶるぶるぶる震えながら、焼けた服を着てね、ぞろぞろぞろぞろ来るんですよ。
その46 音声を聞く
誰がつれて来たかわからんけども、腹のでっかい人、大八車に乗ってあったんだ。お産したっていうんだよ。その身体でさ、母親がね、生まれたばかりの赤ん坊、片手に抱いてさ。
からだは動かせないような格好でもさ、抱いてた赤ん坊オギャオギャと泣いてたっけど、とっても見られなかったなぁ。
どっちも死んじゃったけどもさ、車の上で。
私ら疎開するのだったから、水筒さ水満タンにしてあったでしょ。 そして水筒下げたまんまさぁ、救助してたでしょ。
そしたら足押えられちゃったもんなぁ。「水くれ!」っていうわけだ。やったのさ、外してね。そしたらこんだ、その辺にいた、おんなじ負傷者がさ、寄ってくるんだよ、こう這いながらさ。
そしたら上級の兵隊が来て、後ろからぶん殴られたわけよ。 「負傷者に水与えたら死んでしまうから取り返せ」、という意味だったらしい。仕方ねぇから、肩へ足かけてもぎ取ったなぁ。
あの辺りから気がおかしくなっちゃた、すっかり。 人間というか、ただの動物みたいになっちゃったの。
その47 音声を聞く
逃げてくる人たちを見たら、全身火傷なんですよ。もう着物一枚も、シャツ、パンツもつけていない人たちもいるんです。
頭のてっぺんからつま先まで真っ黒になって、その人たちはそこへやっと逃げてきて、バタッと倒れたら、もうそのまま息絶えて。
そういう死人がバタバタバタバタ重なって、もう、だんだんだんだん山になっていくんです。
そのうちに、今度は、あのぅ、母親が半裸体で赤ん坊を抱いて走ってきた。そこへ、比治山の下まで来たらバタッと倒れて、母親はそれなりもう息絶えてしまった。
赤ん坊はまだ母親が死んだのは知らないで乳房探って泣く。 やぁ、、こんな小さい子どもも逃げてくる。
全身火傷の人たちは苦しいもんだから、ごろごろ転がってある。と皮むけて赤肌が出る、それに砂つちがつくでしょ。
いやいやいや、悲惨で悲惨で、はぁ、まず地獄というのはあれだと思ったですな。死ななければ地獄というのは見られないだろうけども・・。
その48 音声を聞く
黒く焼けた人たち、真っ黒い丸坊主になったのが、こう、皮ぶらさげてねぇ、手の皮が、ちょうど、ぶらぶらっとこう、身体に下がってる。それが列になって逃げたんじゃないですかね。
その逃げる途中、川が2つありましたがね、橋が一箇所燃えてたんです。怖がってみんな川へ入る。川へ入るもんだから、その、途中でみんな、歩けんようになるんですね、水の中に入った為に。だから川の中がもう埋まってましたね、川が、あの広い天満川が。
それから、あのぅ、道路の縁に水槽と防空壕が掘ってあったんですね。水槽の中へ、ちょっと水飲もうと思うんでしょうな、水槽・・立ったままでね、頭だけ突っ込んで死んでるんです。
行きよる人は、水に手をつけたり顔にかけよる。そうするとその水・・、そのままポッと首突っ込んでしまうと、そんなんが一つの水槽に数人おる。
道端に防空壕を掘ってたもんだから、防空壕の中に足取られてね、こけるんですね。いっぺんこけると、あれもう駄目になるの、もうね、動かんの。目だけ上げて、真っ黒いやら、皆いっぱいになっとる。こけるともう駄目。
その49 音声を聞く
電車は黒こげになってるしねぇ。そこでねぇ、あの、そうですね、ようやく座るくらいの子どもがね、真っ裸になりましてねぇ、線路の上に座ってるんですよ。
どうして真っ裸になって、どうしてねぇ、座っておったのか、それが今もって分らないんです。
電車は勿論赤茶けたような電車が、すぐ側にありましたけど、赤ちゃんだけねぇ、どうして生きとったんだろうかと。
今だったら、その赤ちゃんを助けて逃げますがね、あの当時の感覚ってのはそんなもんじゃないんです。原子爆弾が落ちた瞬間ね、親のことも兄弟のことも頭の中にゃ何にもないですよ、ええ。ただ、夢遊病者のように、考える思力なんてのは全然ない。
そりゃそうですね、人が沢山転がってる、転がってる側を平気で歩く、その感覚っていうのは、今の人には、とっても想像ができんでしょうなぁ。むしろ助かっていることが不思議なんですから。
その50 音声を聞く
で、ちょうどうちの左横の方に東洋製罐という大きな会社がございましてね、缶詰の。そこの東洋製罐の裏手から火が出てるわけです、炊事場からね。
で、とにかくそこが塞がれたら、もう逃げ場所がないんです。 逃げるにはそこの縦の一本道しかないわけなんです。そこの道を、もう一所懸命逃げましてね。
東洋製罐なんかの工場の中から、もうほんとに、「助けてくれや、熱い!」って、もう思い出すのも嫌ですね。そういう叫び声というのは、もうほんとに、地獄っていうんですか、何ていうんですかねぇ・・。
で、あの、三宅製針という針工場があったんです、東洋一といわれた大きな針の工場なんですけどね。
そこからも女工さんたちがね、ほんとに頭は、今でもジャガイモの新ジャガを見るのが嫌なんですが、みんな、ちりっちりに皮膚が焼け爛れましてましてね、髪の毛なんはもうほんとに みんな焼けて短くちりちりになって、真っ白の灰をかぶってますからね。
そういう人たちがみんなもう、お化けと同じに、両手を前に下げてね、それこそ行列ですよね。
中には火傷した方もいらっしゃいますし、ガラスの立った人たちもいましたけど、そういう人たちが、とにかく川へ逃げようというわけで
kousei
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その51 音声を聞く
その火事場に中学校の生徒が、いっぱい檻に押えられて下敷きになってんですよ。ほいで、足も手もバタバタ、こうしてるのが下から見えるんですよ。
そしてその側はもう火がね、どんどん燃え、そして、そこをやっと通って後ろを向いたら、もうそこは焼けきってしまって、むこうへこぅ、移ってましたからね、全部の学生はそこで焼け死んだいうことになるんですね。
そしてこの広い道路は、全然隙のないだけに、何千人の学徒が、わーっと来たんですよ。真っ裸のもんが全部ですけど、5人に1人くらいは血だるまになってる子がいるんです。そして女と男の区別は全然つかないんです。
みな、もう真っ裸になって、それと女の子は髪がばんと空向けに、ぱっと上むいてるんです、立ってるんです。ほいで、あぁ、あの子は女の子じゃいう区別しかつかないんですね。
そしてもう、わぁーと
その52 音声を聞く
それが地下壕の上へ、建物が潰れたもんですから、その地下壕の中の、奥の方におる人や 小使室の方でまごまごしてる女たちや、小使いのお年寄り夫婦なども、みな、生き埋めになったわけなんです。
下で、「助けてー、助けてー」、「誰それさん助けてー、お母さーん」という声が地底から聞えるんです。それを助けようにも道具がないわけ、ツルハシひとつも、何にもないわけです。
一瞬になくなってしもうた。それがもう、皆逃げ切れないわけです。
ところが、間もなく気がついた時には、辺り木材が全部火を含んでおって、火災となった。その熱気が、今度は我々の身体へ反射しまして、耐えられなくなった。
ほたら、「とり巻け!」と、もうこれ以上は我々も共死すると、火に囲まれてしまった、と。「みな、念仏を唱えよ」ということで、みんな、期せず、自発的に「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」というて、生き残りが下で、地底で泣き叫ぶね、「助けてー、助けてー」という。
そのもう、その食い入るようなものをね、後髪引かれるような気持ちで・・・
その53 音声を聞く
中にはね、その、足首だけ押えられているのがいる。「行宗(ゆきむね・語り手の姓)、切ってくれ」というわけですよ。「これ、どうしても取れねぇ、どうも駄目だから切ってくれ」。
切るにはね、牛蒡剣しかないし、その牛蒡剣には刃がついてないんですよね。足首なんか、とても切れないですよ。どれやってもね、どうにもならないの。そのうちに火の手が物凄く強くなってきたんで、その、准尉もね、「もはやこれまでだ」と・・
その54 音声を聞く
それで、その家族が「うちのお母さんが、柱と敷居に挟まれてるから、助けてくれ」ちゅうね。ほいで行った。
行ったところで、どうにもこうにも、こんな太いあんた、直径1尺5寸位あろうかいうような棟木だから。それと敷居の間に挟まれてVの字になったようなんだ、こう、つまりね。
ほいで、下半身が挟まれちゃって、上は動いたってこっちが抜けないね。
それを、あんた、そんな重量物をわし一人で、誰が行ったって、どうにもなるもんじゃないでしょう、あれ動かすいうのは。その上にまだ物がのってんだから。ほいで本人は生きてるんですよ。
そのうちにもう、あんた、自分の尻の方から、火がボウボウボウボウ燃えてくる。だから「もういいからあなた、私死ぬから、いいからあなた逃げてくれ!」っていわれて。
もうそりゃね、実際、ありゃ地獄だね。
その55 音声を聞く
もう広島中は、その、火の海でしょうが。そいで恐ろしいでしょうがいな。そいで、どっどっどっ、そのう、人間の焼けよるのが、その、走ってくるのに、みとるでしょうが。
もうこれだけ、もう、地獄みたいなことはなかったですね。助けようちゅうても、もう火がどっどっどっどっ燃えてくるもんじゃけん、手が出せんのですよね。
そいでそうなったら人間ゆうのはおかしいもんで、自分の身を救うより他には手がない、いうような頭を持つですね。ひとつのその、犬猫と同じように野獣に変わってくるんですね、もう。
その56 音声を聞く
行った時に母は「消防署はどうしてるんだ」と、それから「軍隊は助けにこないのか」と。
「もう火がついてきてる」と、いうんで、「僕は間もなく戦場で後を追うから、それじゃ先に行っててくれ」と、云ったら、「それじゃぁ妹のことを頼む」と云って、後は般若心経を唱え始めました。
で、その般若心経を聞きながら、私は ・・・
その57 音声を聞く
必死で父の名前を呼んだんです。
「お父さん、お父さん」と云って呼びました。いっくら呼んでも返事がないんですよね。
それで、お父さんと云ったんでは聞えないんだと思って、「さだこ」といいました。
「さだこがきたよ、お父さん、さだこが来たよ、お父さん、返事をして頂戴!」と呼んだんです。
そしたら一度だけ「う~ん」といううなり声が聞えたんです。そして、その後も何回も、「お父さん、お父さん、さだこよ、お父さん」って呼んだんだけども、とうとうそのまま返事が聞こえなかったんです。
そうしているうちに、どんどんどんどん火が燃えてきたんです。「もうここにいたら焼け死ぬから、早く逃げんといけない、早く逃げなさい」って周囲の人が、みんなが云って下さったんで・・・
その58 音声を聞く
そいで、もういろいろとやってみたけれども、どうにもならない。今度は子どもじゃない私がですね、そこを通りよる人にですね、「どうぞ手を貸してください、この下に家内がおるんだから」って云ったけれども、見向きもする人はないですね。えぇ。
もう消防もですね、巡査も軍隊もあったもんじゃないですよ。もう軍人でもですね、みな軍刀引っさげてね、だっだっだっ逃げることばっかりですよね、えぇ。
もう、どうすることもできませんでしたね。ただ「助けてくれー、助けてくれー」という声を聞くだけでしたね。
それからもうだんだん火は、あちらこちらに火の手が上がるでしょう?「助けてくれー、助けてくれー」って云ってですね、呼んどりましたがね・・ええ・・じゃが、どうにもならんのでねぇ・・
その59 音声を聞く
どうにもならないんですよ。私の家の下の材木にも火がつきましてね、下からまぁ、声の限りにまぁ、叫んでるわけですよね。 「ほら、足の、足の方に火がついてきたから~~」
「どうにもならないんだよー」と云って、最後にはそこに泣き崩れましたね。
「ねえさん わるいけど どうにもならないだって、堪忍してくれって」言ったら こう、「おまえは私を見殺しにするんか」って・・こう・・・どうにも・・・
一歩逃げてはふりかえり、一歩逃げては振り返りで、8月6日がくると、なんか恨みの声が聞えてくるようでね。
その60 音声を聞く
<吟詠>
生霊二十万悉く鬼となる
悲惨かくの如きは青史になし
その61 音声を聞く
呉着後広島の状況と陸軍側の要望を参謀に伝え、鎮守府は直ちに各部隊長の参集を命じ、部隊会議を開催、次のように至急実施することになった。
一つ、呉海兵団長は1500人の作業隊
二つ、呉海軍病院長は10隊の救護隊
三つ、呉軍需部長は2万人の食料の準備
概ね午後3時までに編成する事となり、私は再度広島市、出発する命を受け、部隊より先に自動車にて呉を発し、広島駅に直行したが、早朝の状況とは一段とその様相が異なり、市内一面に猛火に包まれ、負傷者の右往左往と死者の様相を加え、猛火の状況は言語に絶する状況にあったが・・・