雷 撃 (雨森康男)
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「戦争を語り継ぐ」 (雨森康男) (編集者, 2007/3/9 8:43)
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「なぜ戦争を書くのか」など (雨森康男) (編集者, 2007/3/9 8:47)
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慰安婦よし子 (雨森康男) (編集者, 2007/3/9 9:00)
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雷 撃 (雨森康男) (編集者, 2007/3/9 9:01)
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ロザリーナ (雨森康男) (編集者, 2007/3/10 8:50)
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地獄への道 (雨森康男) (編集者, 2007/3/11 8:05)
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死神 (雨森康男) (編集者, 2007/3/12 8:30)
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さらばジャングル (雨森康男) (編集者, 2007/3/13 8:22)
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消えた軍隊 (雨森康男) (編集者, 2007/3/14 9:08)
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帰還 (雨森康男) (編集者, 2007/3/15 8:52)
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弟は手榴弾を抱いた (雨森康男) (編集者, 2007/3/16 8:02)
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編集者
居住地: メロウ倶楽部
投稿数: 4298

雷 撃 (1) 93/09/07 14:30
満洲の旅順港を出た輸送船は一旦門司に立ち寄り、いよいよ日本を後にした、門司の山々が満開の桜に包まれていた。輸送船は普通船団を組むのだが、僕たちの船は独航船だった。護衛艦もないたった一隻の航行、敵の潜水艦にとって絶好の獲物じゃないか、僕は右舷に据えられた20ミリ機関砲の横に寝る事にした、とても奈落《ならく=地獄》のような船底で寝る気がしなかった。
目的地が何処なのか一兵卒には知らされていないが、兵隊達の間にはシンガポールだと言う噂が流れていた。僕はてっきり船は真っすぐシンガポールに向かっていると思っていたが、どんな命令が出ているのか、舟山列島に寄ったかと思うとセレベスに寄ったり、3週間も海の上をふらついたあげく、フイリッピンのスル海を南に航行して行った。
その夜も僕は機関砲の横で寝た、南十字星の輝く空に月が出ていた、その月が雲に隠れようとしている、僕は眠りに入る一瞬、月が雲に隠れたらヤバイな…と思ってすーっと眠ったその時、どーんと腹に響く轟音《ごうおん》が響き、船が急速に左に傾いた、ふらふらっと起き上がった僕は、次の瞬間100頓《とん》もある水柱が崩れる海水に甲板に叩き《たたき》付けられた。
やっと起き上がった僕は、20ミリ機関砲にしがみつき、月が出てきらきら輝いている海面に向けて撃鉄《げきてつ=うちがね》を引いた、撃ち出された弾は緑色の曳光《えいこう=弾道のわかる光》を引き、海面に当たって跳弾《ちょうだん》となって空に弧を描いた。
雷 撃(2) 93/09/08 07:22
無論潜水艦の姿も見えず、例え見えたにしてもこんな20ミリ砲弾ではかすり傷一つ付けられない、撃ったのはただの威嚇《いかく》でしかない。
敵の魚雷は左舷に大穴を空け、第一船倉と第二船倉が水浸しになり、船は辛うじて舳先《へさき》から一メートルを海上残し、持ち上がった船尾のスクリュウが半分水面に出て不規則な回転をしていた。
ガックンガックンと振動させながらやっと5ノットの速度で走る船は、一回目の雷撃を加えた潜水艦にとってはおいちい獲物だ、雷撃の時に慌てて海に飛び込んだ4・5人はそのままにして、船は必死に逃げた。甲板は敵艦を環視する兵隊で埋まった、この真っ昼間果して敵は二度目の攻撃をして来るだろうか…と、ふと思った時、「魚雷だっ!」と誰かが叫んだ、確かに魚雷だ、約3000メートルの距離に白い航跡を引いた魚雷が扇を広げるような形で3本40ノット位の早さで真っ直ぐに向かって来る、船の上では逃げようが無い、あゝゝゝゝゝと言う間に魚雷は迫って来る、その時船長は取り舵一杯に90度に転回させ、魚雷《=魚形水雷の略》に向けて進んだ、船は二本目と三本目の魚雷の間をすり抜けて進んだ、ほんの一瞬の出来事だった。
始めの雷撃の時知らせに駆けつけた駆逐艦《注》2隻が魚雷が発射された海面に爆雷を放り込むと、潜水艦が浮上してきた、駆逐艦の15センチ砲が火を噴き、潜水艦は炎上し、真っ黒な煙を上げて沈没した。
注 駆逐艦=ミサイルや魚雷・爆雷などを搭載する比較的小型の快速艦
満洲の旅順港を出た輸送船は一旦門司に立ち寄り、いよいよ日本を後にした、門司の山々が満開の桜に包まれていた。輸送船は普通船団を組むのだが、僕たちの船は独航船だった。護衛艦もないたった一隻の航行、敵の潜水艦にとって絶好の獲物じゃないか、僕は右舷に据えられた20ミリ機関砲の横に寝る事にした、とても奈落《ならく=地獄》のような船底で寝る気がしなかった。
目的地が何処なのか一兵卒には知らされていないが、兵隊達の間にはシンガポールだと言う噂が流れていた。僕はてっきり船は真っすぐシンガポールに向かっていると思っていたが、どんな命令が出ているのか、舟山列島に寄ったかと思うとセレベスに寄ったり、3週間も海の上をふらついたあげく、フイリッピンのスル海を南に航行して行った。
その夜も僕は機関砲の横で寝た、南十字星の輝く空に月が出ていた、その月が雲に隠れようとしている、僕は眠りに入る一瞬、月が雲に隠れたらヤバイな…と思ってすーっと眠ったその時、どーんと腹に響く轟音《ごうおん》が響き、船が急速に左に傾いた、ふらふらっと起き上がった僕は、次の瞬間100頓《とん》もある水柱が崩れる海水に甲板に叩き《たたき》付けられた。
やっと起き上がった僕は、20ミリ機関砲にしがみつき、月が出てきらきら輝いている海面に向けて撃鉄《げきてつ=うちがね》を引いた、撃ち出された弾は緑色の曳光《えいこう=弾道のわかる光》を引き、海面に当たって跳弾《ちょうだん》となって空に弧を描いた。
雷 撃(2) 93/09/08 07:22
無論潜水艦の姿も見えず、例え見えたにしてもこんな20ミリ砲弾ではかすり傷一つ付けられない、撃ったのはただの威嚇《いかく》でしかない。
敵の魚雷は左舷に大穴を空け、第一船倉と第二船倉が水浸しになり、船は辛うじて舳先《へさき》から一メートルを海上残し、持ち上がった船尾のスクリュウが半分水面に出て不規則な回転をしていた。
ガックンガックンと振動させながらやっと5ノットの速度で走る船は、一回目の雷撃を加えた潜水艦にとってはおいちい獲物だ、雷撃の時に慌てて海に飛び込んだ4・5人はそのままにして、船は必死に逃げた。甲板は敵艦を環視する兵隊で埋まった、この真っ昼間果して敵は二度目の攻撃をして来るだろうか…と、ふと思った時、「魚雷だっ!」と誰かが叫んだ、確かに魚雷だ、約3000メートルの距離に白い航跡を引いた魚雷が扇を広げるような形で3本40ノット位の早さで真っ直ぐに向かって来る、船の上では逃げようが無い、あゝゝゝゝゝと言う間に魚雷は迫って来る、その時船長は取り舵一杯に90度に転回させ、魚雷《=魚形水雷の略》に向けて進んだ、船は二本目と三本目の魚雷の間をすり抜けて進んだ、ほんの一瞬の出来事だった。
始めの雷撃の時知らせに駆けつけた駆逐艦《注》2隻が魚雷が発射された海面に爆雷を放り込むと、潜水艦が浮上してきた、駆逐艦の15センチ砲が火を噴き、潜水艦は炎上し、真っ黒な煙を上げて沈没した。
注 駆逐艦=ミサイルや魚雷・爆雷などを搭載する比較的小型の快速艦
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編集者 (代理投稿)