日ソ海空戦秘録 菊池金雄 5
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第八十二号海防艦生存者救出ドラマ
向日丸 野口甲板員・須永機関員の証言
向日丸はカッターと伝馬船で救助活動をおこない、野口甲板員は伝馬船で一人ひとり救助・・・その中に長髪者がいたので、てっきり敵兵と思って接近したら「おれは艦長だ・・・負傷した部下から先に救出してくれ」とのことで、非常に感銘をうけたという。
須永機関員はカッターで救助作業を行い。泳いでいる兵隊たちは重油の油膜で目が痛いと、しきりに訴えていたという。
第八十二号海防艦 森武艦長(海軍少佐 神戸高等商船卒)手記抜粋
向日丸に上がろうとしても、自力ではどうしても上がれない・・・本船の乗組員に引っ張りあげてもらって、やっとタラップに立った・・・どうやら甲板まで上がったものの、もう一歩も足が動かない。甲板のあちこちに助かった部下が居るので、そちらに行こうと思っても全然歩けない・・・私はデッキに尻をついた。
空も次第に暮れなずみ辺りが次第に見えなくなってきた・・・私が助かったことを知り、兵隊が迎えにきたので、彼らに両肩をかかえられながら、皆が集まって暖をとっている後部の缶室の上に行ったら、間もなく向日丸の船長から迎えが来たので私は船橋に赴き、船長に厚く礼を述べた。同船の船長は非常にご老体で(当時六十歳)、首に巻いた包帯には血がにじんでいた。(向日丸の西豊船長は九日ソ連機空爆下、弾片で頸部負傷のため入院中であったが、自船出港のため復船して指揮をとっていた)
この老船長は私に向かって「艦長! 貴方は向日丸の犠牲になってやられたので、艦長の納得がゆくまで生存者の救助をします・・・見ていてください」と船員を督励し、伝馬船とカッターで懸命に救出作業を続行・・・やがて視界内に一人の生存者も見当たらなくなった・・・吾々一同向日丸幹部に感謝の意を表したのであった。 午後八時半、先任将校の調査で、本艦乗組員215名中、生存者は98名で、戦死者は117名と確認された。