長崎の被爆者の声(1) (4枚目のCD)
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投稿日時 2006/7/14 0:37
kousei
投稿数: 4
このCDは9枚組の4枚目で、長崎の被爆者の声(1)が記録されています。これには58の音声記録が収められていて、それらのテキスト化されたものがここにはアップされています(便宜上10記録毎に分割されてアップされています)。どのような内容の記録かを示すために途中に以下のような伊藤明彦氏の短いコメントが入っています。参考にされると便利です。各記録の音声は「音声を聞く」をクリックすれば聞けるようになっています。もしテキストに脱落や誤りを発見された場合は、「感想の部屋」からお知らせいただくと幸甚です。
この時を約一週間遡る8月8日夕刻、長崎県庁知事室にて (その1)
8月9日午前・長崎 (その5)
午前11時2分 (その12)
この時刻を遡ることおよそ1時間、爆心地の東側 山里国民学校と長崎医科大学付属病院付近 (その50)
なお、テキスト化された記録を読むには、
1)CD1枚分の全てを一望するには、「フラット表示」で読むことをお奨めします。見ている画面の左上の「フラット表示」をクリックすると「スレッド表示」から「フラット表示」に変わります。
2)記録のスレッド(コメントツリー)は時間的に降順になっています(下から上です)。これを昇順(上から下)にして読みたい場合は、「ヒロシマ ナガサキ 私たちは忘れない」のメインメニューの下部の「ソート順」で「降順」を「昇順」に変更して送信を押してください。
kousei
投稿数: 4
その1 音声を聞く
その時から1週間さかのぼる、8月夕刻、長崎県庁知事室にて。
その2 音声を聞く
退庁時刻でした。慌ただしく、うーん、勢い込んで知事の部屋へ、西岡さんが入って来られたんです。
その時まで私は、広島の新型爆弾のことについては、えー、ちょっと新聞に1~2行出たのを、ちょびっと見ただけで、全然知らなかったんですが、西岡さんが、
「広島の新型爆弾というのは、あれは大変な事ですよ」と。「えー、実は私は東京の帰りに、広島を徒歩連絡で、海田市かどこかで降ろされて、あと徒歩連絡で、その、通過して、そして、えー、たった今、長崎の駅に着いたばっかりなんだが、大きな、両手で抱きまわすような、大きな木がポンポン折れておる。」と。
鉄筋コンクリートのビルが、建物がみんな押しつぶされるというような話、広島の全市が火の海になったんだと、広島の街全体あちこちに、ベロベロに顔から胸から焼け爛れたような人たちがもう、右往左往に走っている、というような状態であったという話を、まぁ、聞いたわけなんです。
それで私は、「一体、今の話はあんた自身の目で見たのか、あのぅ、それとも人から聞いた話も、その中に入っているのか」ということを云ったら、「いや、これはもう私の見た話をみんなするんだ」と。
その3 音声を聞く
8日の昼間に、あのぅ工場でおにぎりの特配があったんですよ。それは父の方の工場でもあったし、私共の職場でも、全工場にあったわけですね。で、あのぅ、ちょうど8日の晩はですね、空襲警報がありましてね、防空壕に入ったんですね。それであのぅ、家の近くの防空壕に入って、父も母も私ども兄弟もみんな入りましてね、その、おにぎりを、あの、分けて食べた、それがもう本当に最後のお別れだったみたいですね。
その4 音声を聞く
あーた、原爆が落ちる夢見たんですよ。飛行機がどっから飛んできたか、わからんで、ピカーっち光ってね、そしたらねぇ、あっちもこっちも怪我人が出きるし、家は燃えよるしねえ、(そうした)夢、正夢を見とるんですよ。
ほいからねぇ、私あのう隣りの奥さんにね「うちゃ《私》、こうこうしてあんたあのう、飛行機がね、どっから来たとやろね、ピカーと光ってね、火事になったとやが」っち言うたらね、「あんたそういう事ばっかり言うとる」って。「いま、軍法会議に回さるっとたい」って。「へえー、夢みたとでも話したら軍法会議に回さるって、ほおー、恐ろし恐ろし」って言うてね、私しゃ帰ったんですよ。
そうしたらあーた、初めて長崎に落ちて、初めて、あらー夢とまあ同じもんたいと、思うてね。一つも変わりませんでしたね、夢と。
その5 音声を聞く
8月9日午前長崎
その6 音声を聞く
あの日はちょうど、あのぅ小雨が降っておりました。そして、7時頃出勤しますのでねぇ、あの、酒屋町から幸町までね、あのぅ、電車でございますのでね。そして雨がしとしと降っていたんで、あの、一番悪い靴を履いていっとったわけですよね。新しい靴を兄からかって貰っとったんですけど、雨が降るからと思って、もったいなくてですね、そして社給の洋服を着まして、袋にはもう全財産を入れまして、薬もみんな入れましてですね。
そして大体8月6日に、そのぅ、広島に新型爆弾が落ちたということでですね、非常にあの緊張はしとりましたですよ、これは。やっぱり造船が狙われているっていうような通達が回っておりましたのでですね、防空頭巾と、傘をさして、その、弁当も持ってですね、そしてあのぅ、参りまして・・・。
その7 音声を聞く
だからその朝は「僕は今晩は当番だから、多分帰られないと思う」と、子供言いましてね、その時に、奇妙なことに、一遍出て行って、そして途中で引き返してきて。いっぺん帰ってきましたもんね、その朝は。おかしいね、この子は。今日は帰ってきて。
「あんた、どうしたの、今日はさぼるつもり?」って云ったら、「いいや、なんかちょっとこう、忘れもんしたようにあるから、僕、取りにきた」って云って、防空壕の中に、そのぅ、大事な書物をいつも入れてとくんですけど、それを見にきた云うて、わざわざ見にきたんですよね。ああ、ここにちゃんと入っとるから、「お母さん、もしも爆弾が落ちた時には、この本だけは大事にしといてくれんね」いうて、わざわざ私にそれを云うてね、そして出ていったんです。その頃はそのぅ、ドイツ語で書いたその本ていうのは貴重だったんですね。それでわざわざ引帰して、私にそう云って出ていったと。
それから弟の、まだ4つと2つの子供を、そのぅ、妙にその、抱き上げてね、「兄ちゃん、行ってくるからね、元気でおんなさいよ。」 いつもせんことを、やっぱりして出ていったんですよ、今から思うとねぇ・・・
その8 音声を聞く
9日の日は10時10分に出たんですけど。
子供たちが、私についてくるって云うたのを・・そいじゃけど一番長男坊だけは、どうしてもついてくるっていうのを、なだめすかして、置いてきたんですけれど、そしてその長男坊が、どうしてもお母さんが連れていかんならば、僕に飛行機を、紙の飛行機のこうなって、こう飛ばすやつがありましたもんね、あれを買うてくれちゅうもんだから、そんならちゅうて、そこの下のなんまで連れて行って、そして3人、3つ買うて持たせて・・。
そして買うてやったら、またその長男も後ろも見ずに帰りましたもんねぇ。それを曲がり角まで黙って、私は眺めてたんですけど・・。
それが最後の別れです。後姿がいまだに、あのぅ、7つの子の後姿が、今でもやっぱり忘れられません。。
その9 音声を聞く
表通りだったもんだから、表通りに面したガラスにね、「西日本新聞長崎支局」という文字を、金文字で、看板屋さんに頼んで、かかせる日だったんですよ。それで朝からずっとそれに看板屋さんがかかっておりましてね、出来上がる頃ですたい、写真部のヨシムラ君ていうのがね、「支局長、この立派な金文字が、秋まで持てまっしょうかな」ちゅうて冗談云うたことがあるんですよ。「ばか言うな!縁起の悪い」ちゅうて笑った事がありますが。
看板が書き上がったわけですね、文字が。ほいで、お金を払って自分の席に戻ってね、座った時ですよ。
その10 音声を聞く
小川町ちゅうところに、三菱の分院があったわけですね。三菱の病院の分院です。そこの1階の待合室で、その人と2人、木の椅子に長くなって、こう寝とったわけですね。そこに5~6人おったと思うんですよ、待合室には。
そいで、ラジオが鳴っていたわけですね、「島原上空を西に進んでいるB29、3機あり」つったかな、一目標か、3機やったと思うんですがね。あっ、長崎、来るなと思って、頭上げたのと一緒にもう・・・
kousei
投稿数: 4
その11 音声を聞く
今日はとても大事な会議をするんだから、みんな忌憚の無い自分自身の考えを披瀝してくれと云うて、そいで始めようとしたらね、そこへ佐世保の市長、小浦君っていうの、「ちょっと知事に至急話したい、お願いしたいことがあるから」
「いま会議を始めるばかりのところだけど、立ち話くらいなら入ってきてもいいよ」と、ゆったら、いきなり入ってきた時の小浦君の言葉が、
「広島はえらい事になりましたねぇ」という、「大変なことですね」と、こういうことをゆうたから、
「ちょっと待ってくれよ、それは誰に聞いたんだ?」とゆうたら、
「いや、鎮守府司令長官からじかに聞きました」
「そうか、それはとてもいいニュースだから、その問題について、今、会議をしよるんだからね、君の聞いた、鎮守府司令長官からじかに聞いたというその話を、先にね、みんなに聞かしてやってくれ。それは何より有り難いことだ」とゆった、その途端に電気が消えたんですよ。
その12 音声を聞く
午前11時2分
その13 音声を聞く
兵隊の声で「野母半島上空通過」という声と同時に、ぱっと炸裂したわけですが、ピカッとした、その丸い玉ですよ、その時は。
丸い玉みたいなのが、ばーっと長崎に押さえつけましたですね。ばっと押さえつけて、丁度海水浴に使う「浮き」でございますね、桃色のドーナッツといいますかねぇ、紅蓮の炎といいますか、そういうのがぼっと、ドーナツみたいなのがこう出来たんですが、その横幅がちょうど、香焼からみまして稲佐岳と同じような太さでございました。
(高度)8千というようなことを中隊長に報告すると同時に、下の方から、例のきのこ雲と申しますか、あれが真ん中にすーっと出てきたわけですが、それが間もなく、そのドーナツみたいな輪を通り越しまして、上の方にぐっとこう、盛り上がっていくわけでございますが、その高度が1万、1万2千、1万3千ということを私は中隊長に報告しましたが、もう以後は報告もする術がなく、後はずーっと形をくずしまして、上空へ上空へと行ったんですが・・・
その14 音声を聞く
ぱっとこうね、浦上の方の空をみたわけですよ。そしたらもう浦上一体がですね、地上から天に届くようなですね、それこそ真っ赤に燃える火柱が立ってたんですよ。
「わぁー、こりゃ、浦上はおおごと、浦上はこりゃ火の海ばい」って。それがですね、あの、その火柱がですね、ずっーときえるのと一緒にですね、上からなくなり、下からなくなりで、すーと消えて縮まってですね、火柱が無くなるのと一緒にですね、あのきのこ雲がずーっとあがったわけですよ。
ほいて、きのこ雲があがる時分にはですね、もう空の色がですね、きれいな茄子の色ですね、ああいう茄子の色に空の色が変わってですね、もう、一転してですね、カンカンに照っとったお昼の太陽がですね、もう肉眼でこう正視できるようになったんですよ。そしてね、もう、太陽だけがですね、もう、もう火のもろくのようにして燃えてるんですよ。ああ、こりゃ、もう、天と地がひっくり返ったと。
その15 音声を聞く
そいで、伏せしとった訳ですよ。ちょっと時間があったもんだから、何だろうかと思って、ちょっと顔を右にあげてみたんですよ。そうしたところが、長崎駅の方から中天に、材木ですね、材木とか瓦とか、何かしらんけど、石ころ、それがが要するに竜巻ですね、竜巻の格好でぐーんとこっち舞うてくるわけですよ、こっちに。勝山小学校の方に向かって。
これはとにかく、ただ事じゃないぞと思っている瞬間に、勝山小学校のガラス窓が、物凄い音をたてて壊れたわけですよね。それで大変だと思って、私としても無我夢中で伏せたところが、なま暖かい風が背中の方をさぁーと過ぎたわけです。そして同時に顔を上げたところが・・・
その16 音声を聞く
バーッとこう、目もくらむような閃光が大空一面に拡がってですね、花火みたいにですね、赤や紫、黄色という風な、目の眩むような色の火の玉がですね、雨あられとなって地上に降り注いできたんです。
その光線がですね、自分の顔に当った時にですね、物凄い、やけ火箸を当てられたような感じの、物凄い激痛を感じたんです。あっと思ってですね、顔に即座に手をやって、左手で押えたんですよ。
ところが、押えてこう撫でたらですね、ベロッと皮が上から下へ一枚剥けて下がったんですね。ほいでびっくりしてですね、慌てふためいて、そこから2メートルばかり離れた、横穴の防空壕に逃げ込んだんです。
逃げ込むときですね、背後から原爆の光線がですね、パッパッパッパ襲ってきたんです。その、背後からきたもんだから背中が全部その時また焼けてですね、それで防空壕に入り込んだんですけど、崖をくりぬいた防空壕でですね、前に遮蔽物がなかったもんだから、光線がもう次から次に侵入してきてですね、堪らんもんだから、側にあったワイシャツをですね、頭から被ってしゃがみこんだんです。
ところが、そのワイシャツを手で押えて、出てるところはもう、手と腕だけだったんですけどね、その腕や手がですね、今度はその光線で、波状的にパッパッパッパやってくるんですが、その光線というのは物凄い熱さでですね、それで、熱いもんだから、歯を食いしばって、身悶えしながら、うんうん唸って、歯を食いしばって頑張っていたんですよね。それがもう、無限の長い時間に考えられてですね・・。
その17 音声を聞く
私はね、太陽がね、落ちてきたんじゃないかと思ったね。その音の凄さと光の強さね。バーンという音なんで、ピカッとしてね。ピカドンという言葉がよく言われますけど、私にはね、最初から見ていたせいかね、もう、音と光が一緒のような気がしましたね。
黄色なんです、なんでもかんでも。煙が動いてるんですね。空気が動いているという感じなんですね。まず声が聞えるんですね。「やられた~、助けてくれ~」っていうんですね。ちょっとのぞいてみると手をだらっと下げちゃってね、裸の兵隊がさぁ、うろうろして、気違いみたいに叫んでるんです。
ものすごくこう、痛みだしてね、私はまたそのまま立ち上がったのを、そのままうずくまったんです。でも、考えてみるとね、燃えてるんです、靴が、シャツが。くすぶってるんです。やっぱり本能的にね、その煙を消して・・・
その18 音声を聞く
青色とピンク色ですかね、それから黄な、ああいうような火花が出ました。その後にドーンというおっきな音がしました。そしてそれから台風みたいなので、家をもね、叩き潰されたごとなりました。と、酸素工場の女の人がね、出てきてですね、「あんた、だれね?」というたら「うちはあんたに伝票書いた女です」って。「あーぁ、あんたはそげになったんね」。その時はですね、女の人はもう裸で、大火傷を負うちょりました。
で、部下をですね、「おーい、お前達は元気にあるか?」ちゅうて言うた時には、もうその時は全部、20名は死によりました。
女の人の、さぁ、逃げようちゅう手を握った時ですね、火傷を、女の人ですが、ずるっと剥けて血がだぁー流れました。ほて、火の中を逃げるとき、「助けてくれ~、助けてくれ~」ち、おらぶ人がおっても、そいでも、火の海やったからですね、家の下敷きになっとるけん、助けようにも助けられんかったです。
その時ですね、ちょうど原爆の落ちたその雲がですね、ちょうど上からですね、下を眺めると、ちょうど、もう鬼みたいになってクワーと下を眺めたごと、ああ、これが地獄の一丁目かなと私思いました。これが本当の地獄一丁目やなぁと。それからですね、人間の死体をですね、もう、何人も踏んで、滑ってですね、どっかこっかもう・・
その19 音声を聞く
ちょっとこう、後ろを振り返ったんですね。その瞬間、稲光のようなのが、ぱっとしたんですよ。そして背中に熱っ!と感じたんですね。熱っと感じたちょこっとの瞬間だったんですけど、凄い火傷。
気がついてですね、あのぅ、板をはぐってですね、外に出た時は、まだ誰もいなかったんですよ。まわりは全部、こうぺちゃんこになってしまっているでしょ。そして、私どこに来たんだろうかと思ったんですよ、ひとりだけ立ってるのが。まわりを見ても、どこもわからないんですよね。
ほいで、誰かがですね「助けてくれ~」いわれたんです。そいで自分に返って。もう、自分の着物がなんにもないんですよね。ズロースだけになってるんです。
その20 音声を聞く
「なんかねぇ、ありゃ?」、光線と爆風と一緒に入ってきたっちゃが、なんだろう? とにかく、まぁここは穴の中やから危険なことはないだろうと。ちょうど坂本町の外人墓地の下に横穴を掘っとったですからね。とにかく出てみようかと、やっと身体が抜け出るくらい掘って、こうして見たところが、外はあんた、死人だらけでしょ。みんな裸でですなぁ。
「おい、こりゃおおごとぞ、とにかく早く出ろ」っちゅうて出てですね、それで見たところ、触ると皮はべらっと、目を開けたまま、もう目を瞑る時間もないわけですね、息の切れるまでに。目を全部開けたままですよ。
その穴を出てからですね、死人を片手拝みですよ、千手・・じゃないけども、こらえて下さいって。涙がでるんですよね、伊藤さん、当時を思えば涙が出るんですよ。ほんとに死んだ人を踏まんとね、歩かれんやったんですよ。「こらえて下さいよ」って踏み越えてね、走ったです。
その間まだ息のある人はですね、もう女であるか男か様相がわからんわけですよ。燃えてしもうて、血を浴びてもう、その形相、「助けてくれ~」とおめきよるとをですね、そらどうもされんその時の情けなさですね、どうしきれるですよ? ほんと、情けなかったです。もう生き地獄ってあれのことでしょうね。
kousei
投稿数: 4
その21 音声を聞く
前を見ましたところ、楠がもおぅー、ぱちばちぱちっとですね、星のようにですね、光ってですね、木の中からもう火がバーっと吹き出たみたいな感じで、もう、七色の色で燃えているのをはっきりですね、この目でみたんですよ。ああ、これでしまいか、もうこれで終わったんだな、自分はいつ死ぬんだろうかという気持ちだけだったですね。
慌てて「お母さん!」って云ったんです。そしたらお母さんが「ただひろ、ただひろ」って弟の名前を何回か呼ぶうちに、もう火傷でですね、水ぶくれを抱えてですね、弟を、目の前におりましたもんですから「ああ、ここにいた」ちゅうて、こう左の手で抱えてですね、防空壕に走って行ったんですけど、その時弟の頭をみましたら、もう真っ二つに割れてたんです。頭から血がどんどんどんどん出てますもんですから、こりゃいけないと思って、また慌てて防空壕に私も一緒に走って行ったと思います。
もうその時は家の中も外も火に包まれましてね、お布団を干してた、そのお布団に光線があたりましてですね、燃えてたと思います。母が「痛い痛い痛い痛いっ」ていいながらですね、「まぁ、お母さんどうしたの?」ってこう顔をみたら、水ぶくれでぶら下っているのがベーっと破れちゃったんですよね。破れたかと思ったら、もうそこからひりつくんでしょうね、「ああ、痛いよ、痛いよ、痛いよ、痛いよ」とお母さんが始終言い出しましてね・・・
その22 音声を聞く
その防空壕の端っこにはうちの防空壕があったんです。そこに私、入りこんだんです、兄がいないかなと思って。そしたら兄がいないんです、出たんです。
そしたら、きょうこちゃんが、「みっちゃん、みっちゃん」って呼ぶんですよ。そしてね・・(泣)・・私がね「あんた誰?」って聞いたら、「きょうこよ」っていうんですよ。近づいてきて「みっちゃん、みず、みず」っていうんですね。
その時は私、水をやれる状態じゃなかったんです。姿をみましたらですね、まっくろ。髪の毛もなんにもない。ただパンツのゴムだけ。皮膚もね、もうね、下がってるんじゃなくて真っ黒、くっついてるんです。火傷はほれ、水ぶくれがしますでしょ、そんなんじゃないんですよ、真っ黒。だからよっぽど酷かったんですよねぇ。「水を、水を」ってねぇ。ほんとにあの声がいまだにこの、残ってるんです。
だからね、うちの裏にね、この位の桜の木をもってきて植えてたんですよ。それがこんなに大きくなったんですね。夏になるとセミの音がね、もう「ミズ、ミズ、ミズ」と聞えるんですよ。「ミズ、ミズ、ミズを頂戴」。それとあのうめき声ね、苦しいあのうめき声にね、そのセミの音が聞えるんです。それでもう全部それ、切ってもらったんです。
その23 音声を聞く
ちょうど別世界なんですね、誰もいないから。おかしいなと思ったんですよ。そして周りみたらもう薄暗くなってるんですね、さっきまで真昼でしょ、もう、空は青くて白い雲が少しあるだけでね、綺麗な景色だったのがね、ちょうどもぅ薄暗くなってね、真冬の山で雪がいっぱい降ったときね、薄暗~くて、こう、なんとなく暗い景色になりますね、ああいう状態なんですね。
そして陣地に今まで大勢いたのが1人もいないでしょ。
とにかく、ぱっと下を向いたときね、ちょうど隙間なくね、一定の正確な間隔置いてね、チョロチョロチョロチョロ燃えてるんです、町全部が 浦上の方がですね。
長崎医大の真上ですからね、一目で上から見えるんです、町全体がね、浦上の方が。いつの間にこんだけの焼夷弾を落としたのかなと思ったですね。これがね、ほんとに繋がったらね、続いてしまったら火の海だなと思ったですね。ぞーっとまた、背筋が寒くなりましたよ。すべて終わりだと、全部がおしまいだと・・
その24 音声を聞く
もう工場の中じゃけども、真っ暗すみですよ。(炸裂した)瞬間、もうビーン、頭がじーんとなって、もう耳がじーんと、なんかガーンと叩かれたと同然ですね。ほしてもう、その最初受けて、わぁ爆弾だて思うたんじゃけども、もうなんだって思いよる最中に、こんだもう、ダッダッダッダ爆風というんですかね、もう四つんばいになっとっても突っ張っておりきらんくらい、もう強かったんですよ。ほして3回か4回くらい、やっぱり波状的に来たですね、爆風が。
もう突っ張っとっても、ぐいぐいぐいぐい背中から爆風で押されて、そして白う窓のところが、こう、ぼや~と見える。そいでそっちに行こうにももう結局バラバラになっとるから、上のトタンなんかが、落ちてもう重なっとるとばですね、歩けんわけですよ。
ほいでもう、泳いで行ったのか這っていったのか、そこまで無我夢中で窓際までいったとですよ。窓から飛び越して出たところが2~3人、あっち1人、こっち1人、トタンが結局、爆風でバーと上にあがっとるわけですね、それが降りてくる、直接サーと降りてくる、ちょうど肩のところから腰まで、もう口が開いとる位切れとったですよ。血がドッドッ流れよるわけですよ。
その中を今度はもう、目ん玉は結局、飛び出たら下がるんですね、このへんまで。ぶら~と下がっとるわけだ、こうひっこんでね。ほいで女の髪の毛はこう真っ縦に立とるです、全部。結局、えずくて《えずくて=恐くて》、びっくりした時に髪の毛が立ったという位。本当ですね。結局、まっすぐもう、普通こう下げとる髪の毛が真上にもう、撫で付けたごと立っとるんですね。ほって、目ン玉はもう飛び出て、友達にこうすがってですね・・
その25 音声を聞く
一瞬もう闇夜になっちゃったわけですね。ですから、はっきりその時に爆発音っていうものは聞いていないわけですよ。あまり近いためにですね。ただもう、稲光が一瞬、その、全世界が明るくなって、一瞬また暗黒の世界になったような状態で。
ほいで気がついたときには、魚雷の心臓部たる噴霧器の、これは火力試験をするところの、その釜の中に入っちゃったんですね。こう、立ち上がろうとしたところが、「ああそうだ、ここは釜の中だったんだな」と、「何時はいったんだろう?」と、自分でも無意識だったからわからなかったんですがね。もうほとんど薄暗いもんですからね、手探りで出て、ほんで、表でちょうどその時に女の子が2人で表を掃除してたんです。これが2人共どこへいっちゃったんだかわからないですね。なんの形もないんです。
ほんで、それでちょっと行きましたところが、組立工場長がですね、左足の片方が全然ないんです。結局、何かの拍子に切れたんでしょうね。切断されてるんです。そこにはおびただしい人が泣き叫んでいる。もう真っ暗ですしね。
その26 音声を聞く
2階からごそっと崩れ落ちて、その中に女子挺身隊の連中が100人位はおるんですけん、それがわいわいその中でみんな狂いよった。
それからそのエンジンをいっぱい吹かしてですね、その泣き叫ぶ・・・もう火が少しずつ回り出したんです。
正味10分でしょうね、エンジンを全開させて、もういっぱいふかして、ホースで、ひとりですけん、水をかけようもなにもないし、、そいから、かけたんですよ。けども、エンジンはもう全開してふかしよる、あわてちょる、ひとりじゃしするもんじゃから、すぐ真っ赤なってエンジンはもう止まってもうたですな。オイルも悪いもんですけんねぇ。
ところが1人ですね、女の子がH鋼の梁の下に、手首だけ下敷きになって、1人飛び出しちょったのがおった。そいからそれを手首を切って、可哀想だとおもったけど、ノコギリで切って、そいで出して止血をして「早くもうここを逃れなさい」と。
その27 音声を聞く
まぁ、待避する瞬間がですねぇ、その工場内でも実際もう、物凄いもう、人間が死んでるんですね。それから、生きながら燃えている人間もおるわけですよ。なぜかというと、結局大きな工場が倒れとるでしょ。その梁の下になってですね、そしてもう、下の方には火がついてるんですよね。そいで「助けてくれ」というけど、とにかく、助けるもんが誰もおらんわけですよ。
みんな瀕死瀕傷でもう、とにかく自分がもう一生懸命でしょう。そして1人2人じゃその梁なんか動かそうて動かんわけですよ、二度とあんなことはもう、見ろと云われたって見られんですね。また、見きらないですね。目を覆うごとありますよ。
そして、そうこうするうちに、・・敵のグラマンが低空射撃で襲ってくるわけですよ。防空壕に入りましたがですね、まぁ、防空壕に入っても、とにかくもう、皆、逃げてくる者がやはり全部もう重傷したその、全身を熱風でやられた人やらですね、半身を光線で焼け爛れたもんやら、もう、息絶え絶えにみんな逃げて、待避してくるわけですよね。それで狭い防空壕にひきめきおうてですね・・
その28 音声を聞く
防空壕にいってみるともう既に、もういっぱいですね、もう重傷の人がですね、私なんかが入る余裕はないとです。それがもうみんな息絶え絶えでですね、とにかくもうなんといいますかな、地獄ですね。地獄絵巻をみるとと一緒です。ほいで「助けてくれ、助けてくれっ」ていうけど、こっちも怪我しとるしですね、もうどうしようもない。
そいからしばらくしたら、今度はグラマンがやってきた。ずーっとね、グラマンが上をずーっと旋回して、ほいで、夏やから白いものを着とるもんだから、目に付いたらダダーっと機銃掃射やるわけですよ。
その当時はちょっと雲やなんかをみるとですね、なんとも云えん、まぁ、血膿を流したような雲がですね、それを今思い出したら、頭がどうかなるごたるですね。血の膿を流したような雲が、下から燃え上がった炎とですね、上からの雲と交差してですね、なんとも云えん、もう嫌~な気持ちがするですね、今でも。
そしたらこんどは、ちょうど近くに師範学校がありましたが、師範学校が燃え出してですね、それもどんどんどんどん燃えてですなぁ、みるみるうちに長崎の町は燃えだしたですよ、どっこも。
その29 音声を聞く
もう、どんどんどんどん長崎方面の三菱の子供たちが、全部もう逃げてくるんですけど、どの子を見ても、もう髪はね、逆立ち、もうシューとなって、ちょうどあの、お不動さんの絵ですね。そんな形の、もう、着物はもんぺはみんなボロボロ、ボロボロなって、そしてもう血みどろでしょ、そしてもう、顔はもうとにかくその、真っ黒、男か女かもそれこそわかりませんね。それがぞろぞろぞろぞろ、その、ちょうど水が流れてくるみたいに、私どもの防空壕のほうに逃げてくるの。
それで私もそれに連なってずーと一緒に防空壕の中にはいったわけ。そうしたらもう、中は真っ暗でござんしょ、もう電気がつかないですから。真っ暗な中をみんなわーわー泣いてはいってるんですよね。くやしくて泣いているのか、痛くて泣いているのか、なんで泣いているのかわからない子が。もう何人もじゃないでしょうけれど、そのわんわん、その防空壕の中ですから響くんですね。
さすがに私も情けなくなって、これはなんとかこの泣くのを止めたいなぁと思いましてね、「君が代」をうたいだしたの、私が。で「君が代」をうたって、一番をうたってしまうころまでは、なんとわーわー言っていたんですけどもね、二番をうたうころはね、だんだん声が少なくなりましてね、そしてその泣き声がね、一緒に「君が代」をうたいはじめたんです。
その時はほんとに嬉しくてね。「君が代」というものがね、その頃のね、人たちにこれだけの感興を沸かすかと思いましたね。で、みんなで「君が代」をうたいながら・・・
その30 音声を聞く
正気づいて、そしてあたりをこう見回したんですね。するともう巨大な鉄骨がね、飴のように曲がって、その下敷きに私がなっているわけですよ。それで立ち上がろうとしたところがですね、頭と足がぴったりくっついてしまって、お腹も足もついているわけですね。ちょうどあの海老のように曲がっているわけなんですよ。そして背中から頭にかけてその鉄骨が落っこちてきているわけなんですね。それでその、もがこうにももがききれないわけですよ。
それであの「助けてぇ」とおめいたわけなんですけれどね、シーンとした中でね、本館から若い女の人がね、出てきて、少し梁に隙間があったんですね、その隙間の中に、その女の方が、四つんばいに入り込んで、そして両肩でね、その鉄骨を持ち上げてくださったんですよ。そして、そこから私は救い出されて、一応立たされたわけですね。ところが、もうその時すでに腰から下の感覚がなくて・・・
kousei
投稿数: 4
その31 音声を聞く
花の中に埋まって寝とったんですね、そのときが、夢が。そいでもう、気持ちよく寝とったのが、間もなくしてから、その「近藤くーん」というて、その声がかすかに聞こえたのが覚えていますね。そして、はらぁ誰かが私のそばに来ているね、ま、じっとしててくれればいいのに、というような、そんなふうな気持ちだったのですね。
そして掘り出されるときはもう覚えていないんですね。天井の梁かなんかしらんに体がこう二つに折れたように曲がって下敷きになっとったらしいですね。それで助けられて、またそのときに「ドカーン」と大きな音がしたんですね、爆弾みたいな音が。そしてみんなはもう、足が達者だから全部もう地下の防空壕にはいってしまって、私一人だけ残ったんですよ、誰も入れてくれる人がいなくて。それであの、もうどうしようか、もう自分は助からん、もうこれで最後やろうていうて、もう一生懸命、もう泣くにも泣けんしですね、様子をまぁうかがっていたわけですね。
で、もう周囲を見るともう真っ赤に染まって燃えていたんですね。それを見て、ほんとこれは助からん、もう最後、自分はもうこれで最後やろうという気持ちでもう、半分諦めてたんですね。そんなにして一所懸命「助けてくれ、助けてくださぁい」と呻きよるところに、あの布団をひっ被って、もう誰か、男の方だったんですね、被ってきてから私に被せてくれたんですね、そのとき・・・
その32 音声を聞く
もうねぇ、何千人という群集がねぇ、うぉ~っとこう移動しているんですよ、工場の外に向かって。みんな鉛色ですよ。あの、鉛の粉をね、吹き付けたみたいに。そして眼だけが白黒している。
それでね、みんなもう重傷ですよ、ね。もう胸のところ、背中、頭、首、10センチから20センチくらいね、引き裂かれているんですよ、ざくっと。それでね、「ハッハッハッ」言いながらね、ぼっとぼっとやってね、走るでもない歩くでもない、みんながそうですからね、工場の外に向かって出て行っているんですよ。
その33 音声を聞く
もう、自分たち以外のところからわんさわんさ羊の群れみたいに、もう走って逃げるわけですよ。そいでワシもそれに合流して、ところが全部駅のほうに曲がる列は一人もおらん。全部反対の浦上の方にですね、先頭の曲るごと、どんどこどんどこ行くわけ。
そしたらもう女の人が、真っ裸。その道に座って、もうなんもかんもないわけ、びっしゃげて《ひしゃげる=つぶれる》しもうて、民家ちゅうのは。ひょっと見たら、ひゃ~と泣きよるわけですね。見たら、おっぱいが千切れてですね、こうしとるわけですよ。
そして、ウワッと思ったときにはもうどんどんもう行くわけです、並んでいくわけですから、もう、なんかの牛みたいに、何十、何百人並んで行くわけ、生き残った者全部が。
ほして行ったらですね、ずーっと家のしゃげ《つぶれ》とりましょう、ほして、しゃがれた中からですね、「助けてぇ」という声が聞こえるわけですよ。走りよったら、誰が呻きよるか知らんけど女の人が呻きよることには間違いないんです、女の声ですから。だれ~もそれを留まってあげてくれる人は誰もおらんですね。私もそれどころじゃない、もう全部逃げるから全部逃げるわけですよ・・・
その34 音声を聞く
中年の男性でしたけどね、転んでて、胸のところに、ちょうど心臓の近くですけれどね、大きなガラス片が刺さってて、それをその、自分でね、つまんで、・・こう震えていましたよね、「これ抜いてくれ、抜いてくれ、助けてくれ、助けてください」と言うわけでね。
言うんですけれど、誰も振り向きもしないでしょ。で、そのガラスをね、あのぅ引き抜こうとしたんですけど、血糊がついてて、相手がガラスですから、すべるんですよ、手ではね。何回やっても駄目ですね。それで、まぁ、腰にぶら下げとった手拭いを抜いてね、そいで手拭いをあてがってやったけど、やっぱり血糊がついているあいだは駄目でね、すべって。
そいで血糊のついてないほうを、こう、ねぇ、あのぅ、変えていって、ほいですべらないところで、ぐいぐいとこうね、ゆすって、そりゃぁ、まぁ、ものすごく痛がりましたよねぇ。ものすごい悲鳴を上げたです。それでも抜いてくれと言うんです。
ほんでもう、そりゃぁ、まぁ、私も覚悟を決めましたよね。抜いたです。カクカクカクっとゆすって、ズボッと抜いたところが、ガボッと血が出て。多分ね、今考えてみると心臓を切ったんじゃないかと思うんですがねぇ。血がガボッと出ましたからねぇ。と同時に、気を失っちゃったんです。悪いことをしたなぁと思ってねぇ・・・
その35 音声を聞く
そして抜け出たんですけど、もぅ方角がまったくわからないわけです。今まであった建物というのがまったく、あのぅ全滅しているでしょ。それといっしょに、あの、九大の生徒ですけどね、「どっか怪我していませんか?」と言うんですよ。その人は、その、私が怪我しているのを気遣ってくれてるわけじゃないんですよね。自分が怪我しているのを、どこか怪我していないか、見てくれという意味なんですよね。
で見たら、表面、白いワイシャツを着てて、その、全く怪我してないんですよ。それで「いいえ」と言ったらですね、安心して、くるっと後がえって向こうに走っていったんですよ。それを見てびっくりしたんです。背中がないんですよ。もう、えぐりとられてですね。
もう男と女もまったく区別がつかないしですね。もう血まみれの人間がそれこそ右往左往しているでしょ。それがこう、自分をみんなが、その追いかけて来ているというような、あの夢の中でこう追われるようなですね。
ところが機銃掃射するんですよ。もうですね、五メートルも行けないんですね。そして、こう、あれ戦闘機ですかね。あの、眼が見えるんですよ。アメリカ兵独特のその眼が、窪んだ眼が見えるのか、サングラスかけているのがあんなに見えるのか、もう、せせら笑うようにですね、もうすぐ下まで下りてくるんですね。
来たと思ったら、ぱっと、あの、次の防空壕まで、どうかして走って行こうとか思うんですけど、途中でやられてしまう。藁をもすがるで、そこら辺にあったのに、ぱっとつかんでいくのが、しがみつくわけですね。あとで気がついてみたら、死体にしがみついていていたり、ですね。
その36 音声を聞く
「敵機だぁー」ちゅうことで、もう防空壕の入り口に、もう動ききらんもんだからしゃがみこんでしまったんですよ。しゃがみこんでしまったら、外に立っとる人たちんところ機銃掃射でね、もう、あの敵の、こう眼鏡のあれ《ゴーグル》をはめとるのがよく見えましたよ。こう乗り出して、機銃掃射でダ、ダダダダダーっと。
後ろの飛行機からはね、なんか写真を撮っているような状態だったのね。「ぎゃぁ」ちゅうてやられる人もおるし、ほらもう、しゃがみこんで、もうこうして頭をおさえるぐらいが関の山で、どうすることもできない。そうして、「ここにおったら危ないから移動してください」ちゅうて。
道端に電車がね、焦げてね、そして窓にぶら下がっている人を2人見ましたね。それから電車の上がり口のところに重なって死んでいたし、それから死体があちこちにあるから、連れて行ってくれとしゃがみこんでいる人、真っ裸でウロウロしている人も見ましたね。もうそれは血だらけになっている人とか、それはそれはもう、地獄の真ん中に立たされたちゅうような感じでね・・・
その37 音声を聞く
三菱兵器を無我夢中でみんなの後ろから逃げ出したときは、ちょうど辺りは、なんか黄色いようなね、黒いような黄色いようなねぇ、世の中になっているんですよ。昼なのか夜なのかわからないようなですね、薄暗いような黄色いようなね、あのう、空がですね、あのぅ全体が、そう光がなくてですね、この世の、なんですか、あのぅ、ものとは思えないようなですね状態。
でね、逃げていく人たちの姿というのは無残で、田んぼの中にですね、女の子がね、ばたんと倒れたんですよ。で、ちょうど私の前を行っていましてね、ニ、三歩行ってバタッと倒れたんですよ。どうするかなと思って駆け寄ったら、自分であの、また立ったんですよ。立ち上がって、そうですね、また何歩か行ったら、もうバタッと倒れたんですね。
そいであの傍に行ってね、「しっかりしなさい」ってゆすったんですよ。「看護婦さん呼ぶからね」って言ったんですね。そしたら「お母さん」って言って、それから「南無大師遍照金剛」というお題目をニ回くらい聞いたように思います。
その38 音声を聞く
「水が飲みたい、水が飲みたい」って言うんでね、もう汚い、泥水でしたけどね、その近くから、あの、かぼちゃニつに割れているのを拾ってきて、ね、中身をほじくりだして、そいで、ま、汚い泥水に十字を切ってね、で、その水を汲んでいって飲ませたりしたんですけどね。
そいでま、私、あのぅクリスチャンですから、あのぅコンタツ《注:ロザリオのこと》を持っていたんですね。クリスチャンたち、じゃない人たちに貸して、それでみんな何人もでその一つのあれを持ちながら一所懸命祈ったりなんかしました。そうするうちに、あのぅシスター、あれですね、あのう童貞さんですけれど、ニ人来てくれたんです。
その39 音声を聞く
そしたら男の四十台くらいの方でしたかねぇ、あのぅ、座って私たちに、こう拝むんですよ。で、どうしたんだろうと思ったら、「お願いです」って。「この家の下に家内と子供と、五人がね、下敷きになっているから、この屋根を持ち上げてくれませんか」って言うんですよ。で、みんなね、傷だらけでしょ、もう逃げていく者すべてがね。
で、もういちおう私も握りました、屋根の端の方をね。握ったけど、みんなもう、体が血だらけだから、みんな怪我しているから、それに同情はできなかったのでしょうね。下敷きになっている屋根の上をどんどん逃げていくんですよねぇ。
そいで私ももう、かわいそうで、かわいそうで、その男の方が手を合わせて、泣いて、「これを持ち上げてください、持ち上げてください」って言うんだけど、もう誰一人、逃げるのがせいいっぱいだったもんで、いつ自分たちがまた敵機が来てやられるかという不安で。
私もね、もういちばん最後になって、一人になったんですよ。それでなんとか手伝おうと思って、こうしたけれど持ち上げられなかったから「ごめんなさい」と言って、私、先のほうに進んだんですけれど、それが未だに・・・
その40 音声を聞く
今考えてみるとですね、爆心地のほうからゾロゾロ、ゾロゾロ人が逃げてくるんですよ。で、その逃げてくると言ったってね、駆けてくるんじゃないですよ。トボトボ、トボトボ歩いて来るんです。その歩いて来る様子はね、あのぅ、私は幽霊を見たことはないけど、あの幽霊というのは、ほら、よく前の両方の手をだらっとぶらさげてね、あの、うらめしやという感じで描かれているでしょ。あの幽霊みたいな格好しているんですよ、みんな。
自分の腕の皮膚をだらっと指先にぶらさげてね。そして前の人に並んでトボトボ、トボトボと歩いてくるんです。私がね、「私の友だちがここの屋根の下敷きになってね、屋根が重くてね、一人の力では動かしきりませんから、どうか立ち止まって力を貸してください」と私はもう頭をペコペコ下げて頼んでみるんですけど、誰も止まってくれないんですよ。
なんかもう放心状態というのかな、私がどんなに頼んでも止まってくれないんです。
kousei
投稿数: 4
その41 音声を聞く
たくさんの負傷者が来るわけですね、するとみんなあの腰に紐一本だけをまいているんです。きものが全部吹き飛ばされている、ほいでこんどはさらに夏ですから薄着。そうしますと今度は、着物ばかりじゃのうして皮が吹き飛ばされているんです。その皮が吹き飛ばされて、切れずにぶらさがっている、ちょうど風呂敷をぶら下げたように皮がぶらぶらぶらさがっているんですね。それを引きずるようにして歩いて来よる、みんな裸足です。
「熱か、熱か、どこまで行っても熱か」ちゆうのは、その人たちはもう裸足で焼け土の上を歩いているから、皮は焼けてなくなっている、肉で歩いているんです。それだから痛いのも熱いのも分からないような状態ですね。その脇の道路にはもう沢山南に向かって倒れて死んでいるわけですね。その人たちはね、歩き続けて焼け足で、腹ばうようにして来た人もおります。
そうすっと、その人たちは死んでるけれどねぇ、その人たちの魂はやっぱり南に向かって歩き続けていると思っているんですよねぇ。
その42 音声を聞く
びっくりしてね、私もう、ほんと動けなかったんですよ。というのは、もうすっぱだかでですね、そうしてもう、体じゅうが腫れ上がった人たちがね、もう本当に人間じゃないですね。もうなんにも着ていないんですから。あるいはこう、ゴザみたいなのを体に巻きつけたりね。そういう調子の人たちが次から次へと歩いてくるですよ。
で、もうその、何時間も何時間もかかって、その火の中をくぐってきた人たちですよねぇ。もう、腕の皮がこうぶらぁと下がったり、ほんとに皮はあんなに、あの、下がるものだということを私は初めて知りました。もう腿の皮でもなんでもビローッと剥げましてね。
そして、髪の毛なんてもこう、髪の毛が逆立つて言いますね。逆立つという形容は全く本当ですね。もう一本一本逆立っているんですよ。そして、それがもう焼けたところもあるしですね。そういう人がもう次から次、次から次へと、もうずうっーとつながっているんですよね・・・。
その43 音声を聞く
とにかく、あのね、死の行進と言いますか、もう頭はちぎれたり、あの、真っ裸だったり、真っ黒になった人が、もうとにかくなんちゅうか、夢遊病者のような状態でですね、それでもやっぱり逃げたいという心理でしょうね、ゾロソロ来よるんですね。そうかと思うと、もう動ききらんで、もう蓑虫のようにこうゴロゴロしながら・・・
今でも私の目から離れんですが、若い娘の子やったですが、真っ裸になってですね、真っ黒に汚れて、汚れちゅうか火傷しとっとと思いますが、「もう私は、うちは死ぬとよ、水ばくれんね、くれんね」言いよるもん、あんた。ほってんか《だけど》水を、自分も手がふさがってどうもならんじゃけん、水を飲ましてやりたいなと思うけれど、それが出来んでですね。
そのまま見捨てて帰りました、逃げたですけれど、今でもあの子に、何とかして水を飲ましてやりたかったなぁと思います。
その44 音声を聞く
・・・ですもん、ほんとに。そして行きかう人を見れば、いよいよ全裸の人もおるですもんね。そいで、皮がもう腰までぶらさがっとるとよね。浦上のほうからこう走ってくる人たちの姿を見る。これがほんとに新型爆弾じゃなかろうかち、そのとき初めて思ったですね。ね。
一番記憶に残ったのはですね、その、首のない赤ちゃんをからって《背負って》ですね、自分もすでに、まぁ全裸にはなっちょらんだったですけど、前のほうだけかなかったですれど、それでも「泣くなよ、泣くなよ」ちゅうてですね、そう言うて走っている人の姿を見たとき、ほんとうに戦争ちゅうのはむごたらしいもんだなぁと、本当にそのとき感じたですね、はい。
その45 音声を聞く
外人墓地の広い畑の中で、そこにたむろしている多くの火傷とか怪我人、たくさんたむろしている団体に出会って、9年間も中国で戦争をし、何十人もの死体を見ながら、少しもそういうことに驚かなかった自分が、その状況を見て魂まで吹き飛んだような状態になってしまいました。
ほとんどの方が火傷で本当の顔もわからないし、抱いている赤ちゃんはもうすでに息も絶え絶えにしているのに、母は一所懸命おっぱいを与えるような格好であやしている。背なの赤ちゃんは一生懸命おっぱいを求めて泣くのに、もうすでにお母さんは虫の息というような姿。あるいは、大きな負傷を負いながら、口も利けないようなお年寄り。その周囲を、兄弟らしい二人の少年が母の名を呼び、父の名を叫びながら狂ったように走り回っている姿を見たとき・・・
その46 音声を聞く
下の方からですね、原爆で怪我した人たちがですね、もう三々五々もう列作ってですね、ずっと上ってきているんですね、無数に。で、その人たちが上る途中でですね、精も根も疲れ果てて、次々に倒れていくんですね。でもう、道の両脇にもう、バタバタそういう人たちが倒れてですね、赤黒く焼けただれてもう膨れ上がった人たちがですね、目も当てられんような状態でバタバタ転がっているんですね。
で、その人たちなんかはもう、ものすごい喉の渇きがあったんでしょうねぇ。道の脇のほうにドブ溝があったんですよ。そのドブの溝の中に顔を突っ込むようにして、ほとんどの人が息絶えているんですね。そんな後を見ながら上ってったんですけど、そうするとですね、また飛行機の爆音が聞こえたんです。するとその家の人たちが慌てて、前に防空壕があったんですよね、その家の防空壕だったんですけど、そこにあのみんな家族ぜんぶ避難したんです。そいで、しょうがないもんだから、わたしもですね、後から続いてですね、入っていったんですよ。
ところが、その人たちは先に入っていて、あとから来た自分を見たら「あんたどこんもんね? ここはうちの防空壕やけん、すぐ出て行かんね」と、こういうふうに言ってですね。ほいて、上空には、もう敵機がこう旋回しているんですね。そん中を「出て行け」と言われるでしょぅ。出て行けば、また、機銃掃射でも受けて、もう、たちどころにやられせんかな、という恐怖心があったんですけれどもね、もう出て行けっち言われればしょうないですね、そんでもう泣く泣くですね、そこを・・・
その47 音声を聞く
坂のある丘をよじのぼったわけですね。のぼってそこに、あのちょっと広い大きな墓がありましたが、その墓に20名が立ってですね、下を眺めて唖然としたわけです。「わぁ~、た~」というため息。これではもうダメだと。ほかの21名の人もみんなもう唖然として、「わぁ~と」、こう驚嘆の声をもらすだけだったですねぇ。
その周囲の山は山火事を起こしているし、ほとんど木造の建築で残っている家は一軒も見えないしですね、工場の鉄骨は飴のように曲がって、もちろんスレートも飛んでしまう、ガラス窓もガラスも飛んでしまってですねぇ、これではもう復興ももうどうにもならんと・・・
その48 音声を聞く
崖を、その石垣のくえた《崩れた》ごたるところを、這うたごとして行った。そいで山の、山の頂上のほうに行ったところが、兵隊、兵隊の姿はなるほど見えたけれども、兵隊ももう火傷でもうまっ黒、顔はもう黒こげになっとるわけですよね。ほいでそのもう、「薬はないか」と言うても、「薬もない、水もない、我われも、その、もうこんな状態じゃから、そんなその、薬やら水、補給もできん」て云うた。そしたら、もう、山に着くのと同時にもうドラム缶がボーンと破裂して上にあがってですね、バーンと爆破して、もう落ちるたんびに、街は火の海に、次から次ぎさんなっていったんですね。
ほってもう、その山の上におっても、もう顔がもう熱いわけですね、ものすごい熱いわけですよ。ほいで、そいけどもうビリビリするわけですね。そのうちにもう吐き気が、もう、ものすごい吐き気がするし。吐き気がしてでも、もう吐くもんがないでしょ。もう腹の中に何もないもんじゃから、もう、あの苦い胃液を吐くんです。それが苦しうてからもう・・・
その49 音声を聞く
その山を越えました。と同時に、そこにいる十人内外の男の方々はみんな、ほんとに腰を抜かしてしまいました。見渡す限り、ま、火の海なんです。もう、煙で遠い方面は見えません。ただ、真下の三菱工場、ま、製鋼所なんかも一面火の海なんです。そして、その音がその山の上まで聞こえてきます。そのゴーッと燃えるような音は、今でももう忘れることはできませんけど、そこでもう、ヘタヘターとみなさん座り込みまして、どうしていいのかなすすべを知らないというか、全員座り込んでしまいました。
見ているうちに県庁が燃え出しました。そこにいる人たちは全員で、「あ、県庁が燃え出した、どうしたんだ、消防隊はどうしたんだ」、と言っているんですが、消防隊の方だって全滅したのかもわかりません。とにかく、飛び火をしたような格好で、県庁が燃えていました。われわれは山の上から歯軋りをして残念がるんですが、見る見るうちに燃えていくわけです。
その50 音声を聞く
・・・この時刻を遡ることおよそ1時間、爆心地の東側、山里国民学校と長崎医科大学付属病院付近・・・
その51 音声を聞く
・・・先ほどまで一列になりまして、土を手送りしていた女の先生、あるいは外に出て足を拭いていた男の先生、一人残らず倒れてうめいていました。でも、それが上半身、何も着けない、着ていないのです。おそらく爆風に剥ぎ取られたのか、熱のために焼けてしまったのか、出ている手足や顔は焼きただれまして雑巾のような皮がぶら下がり、二目と見られないような様子でした。
仲間の先生でなければ、もう一目見ただけで、私はもう気味悪くなって逃げ出しただろうと思うのです。それから、一ノ瀬という先生がいらっしゃいましたが、やはり外にいまして、土を手送りしていたんですが、その先生が10メートル以上も吹き飛ばされて崖に打ちあてられて即死していました。
しばらくしますと、他に行っていました若い女の先生、教頭先生が学校に帰ってきましたけれども、一人残らず背中いっぱい赤く焼けただれた、痛ましい姿をしていました。そしてみんなもうガタガタ震えまして、もう「寒い寒い」としきりに訴えるんですけれども着せるものは何もございません。ま、そのときに学校に出まして助かったのは、男では私1人、それから女の先生が3名でしたけれども・・・
たくさんの負傷者が来るわけですね、するとみんなあの腰に紐一本だけをまいているんです。きものが全部吹き飛ばされている、ほいでこんどはさらに夏ですから薄着。そうしますと今度は、着物ばかりじゃのうして皮が吹き飛ばされているんです。その皮が吹き飛ばされて、切れずにぶらさがっている、ちょうど風呂敷をぶら下げたように皮がぶらぶらぶらさがっているんですね。それを引きずるようにして歩いて来よる、みんな裸足です。
「熱か、熱か、どこまで行っても熱か」ちゆうのは、その人たちはもう裸足で焼け土の上を歩いているから、皮は焼けてなくなっている、肉で歩いているんです。それだから痛いのも熱いのも分からないような状態ですね。その脇の道路にはもう沢山南に向かって倒れて死んでいるわけですね。その人たちはね、歩き続けて焼け足で、腹ばうようにして来た人もおります。
そうすっと、その人たちは死んでるけれどねぇ、その人たちの魂はやっぱり南に向かって歩き続けていると思っているんですよねぇ。
その42 音声を聞く
びっくりしてね、私もう、ほんと動けなかったんですよ。というのは、もうすっぱだかでですね、そうしてもう、体じゅうが腫れ上がった人たちがね、もう本当に人間じゃないですね。もうなんにも着ていないんですから。あるいはこう、ゴザみたいなのを体に巻きつけたりね。そういう調子の人たちが次から次へと歩いてくるですよ。
で、もうその、何時間も何時間もかかって、その火の中をくぐってきた人たちですよねぇ。もう、腕の皮がこうぶらぁと下がったり、ほんとに皮はあんなに、あの、下がるものだということを私は初めて知りました。もう腿の皮でもなんでもビローッと剥げましてね。
そして、髪の毛なんてもこう、髪の毛が逆立つて言いますね。逆立つという形容は全く本当ですね。もう一本一本逆立っているんですよ。そして、それがもう焼けたところもあるしですね。そういう人がもう次から次、次から次へと、もうずうっーとつながっているんですよね・・・。
その43 音声を聞く
とにかく、あのね、死の行進と言いますか、もう頭はちぎれたり、あの、真っ裸だったり、真っ黒になった人が、もうとにかくなんちゅうか、夢遊病者のような状態でですね、それでもやっぱり逃げたいという心理でしょうね、ゾロソロ来よるんですね。そうかと思うと、もう動ききらんで、もう蓑虫のようにこうゴロゴロしながら・・・
今でも私の目から離れんですが、若い娘の子やったですが、真っ裸になってですね、真っ黒に汚れて、汚れちゅうか火傷しとっとと思いますが、「もう私は、うちは死ぬとよ、水ばくれんね、くれんね」言いよるもん、あんた。ほってんか《だけど》水を、自分も手がふさがってどうもならんじゃけん、水を飲ましてやりたいなと思うけれど、それが出来んでですね。
そのまま見捨てて帰りました、逃げたですけれど、今でもあの子に、何とかして水を飲ましてやりたかったなぁと思います。
その44 音声を聞く
・・・ですもん、ほんとに。そして行きかう人を見れば、いよいよ全裸の人もおるですもんね。そいで、皮がもう腰までぶらさがっとるとよね。浦上のほうからこう走ってくる人たちの姿を見る。これがほんとに新型爆弾じゃなかろうかち、そのとき初めて思ったですね。ね。
一番記憶に残ったのはですね、その、首のない赤ちゃんをからって《背負って》ですね、自分もすでに、まぁ全裸にはなっちょらんだったですけど、前のほうだけかなかったですれど、それでも「泣くなよ、泣くなよ」ちゅうてですね、そう言うて走っている人の姿を見たとき、ほんとうに戦争ちゅうのはむごたらしいもんだなぁと、本当にそのとき感じたですね、はい。
その45 音声を聞く
外人墓地の広い畑の中で、そこにたむろしている多くの火傷とか怪我人、たくさんたむろしている団体に出会って、9年間も中国で戦争をし、何十人もの死体を見ながら、少しもそういうことに驚かなかった自分が、その状況を見て魂まで吹き飛んだような状態になってしまいました。
ほとんどの方が火傷で本当の顔もわからないし、抱いている赤ちゃんはもうすでに息も絶え絶えにしているのに、母は一所懸命おっぱいを与えるような格好であやしている。背なの赤ちゃんは一生懸命おっぱいを求めて泣くのに、もうすでにお母さんは虫の息というような姿。あるいは、大きな負傷を負いながら、口も利けないようなお年寄り。その周囲を、兄弟らしい二人の少年が母の名を呼び、父の名を叫びながら狂ったように走り回っている姿を見たとき・・・
その46 音声を聞く
下の方からですね、原爆で怪我した人たちがですね、もう三々五々もう列作ってですね、ずっと上ってきているんですね、無数に。で、その人たちが上る途中でですね、精も根も疲れ果てて、次々に倒れていくんですね。でもう、道の両脇にもう、バタバタそういう人たちが倒れてですね、赤黒く焼けただれてもう膨れ上がった人たちがですね、目も当てられんような状態でバタバタ転がっているんですね。
で、その人たちなんかはもう、ものすごい喉の渇きがあったんでしょうねぇ。道の脇のほうにドブ溝があったんですよ。そのドブの溝の中に顔を突っ込むようにして、ほとんどの人が息絶えているんですね。そんな後を見ながら上ってったんですけど、そうするとですね、また飛行機の爆音が聞こえたんです。するとその家の人たちが慌てて、前に防空壕があったんですよね、その家の防空壕だったんですけど、そこにあのみんな家族ぜんぶ避難したんです。そいで、しょうがないもんだから、わたしもですね、後から続いてですね、入っていったんですよ。
ところが、その人たちは先に入っていて、あとから来た自分を見たら「あんたどこんもんね? ここはうちの防空壕やけん、すぐ出て行かんね」と、こういうふうに言ってですね。ほいて、上空には、もう敵機がこう旋回しているんですね。そん中を「出て行け」と言われるでしょぅ。出て行けば、また、機銃掃射でも受けて、もう、たちどころにやられせんかな、という恐怖心があったんですけれどもね、もう出て行けっち言われればしょうないですね、そんでもう泣く泣くですね、そこを・・・
その47 音声を聞く
坂のある丘をよじのぼったわけですね。のぼってそこに、あのちょっと広い大きな墓がありましたが、その墓に20名が立ってですね、下を眺めて唖然としたわけです。「わぁ~、た~」というため息。これではもうダメだと。ほかの21名の人もみんなもう唖然として、「わぁ~と」、こう驚嘆の声をもらすだけだったですねぇ。
その周囲の山は山火事を起こしているし、ほとんど木造の建築で残っている家は一軒も見えないしですね、工場の鉄骨は飴のように曲がって、もちろんスレートも飛んでしまう、ガラス窓もガラスも飛んでしまってですねぇ、これではもう復興ももうどうにもならんと・・・
その48 音声を聞く
崖を、その石垣のくえた《崩れた》ごたるところを、這うたごとして行った。そいで山の、山の頂上のほうに行ったところが、兵隊、兵隊の姿はなるほど見えたけれども、兵隊ももう火傷でもうまっ黒、顔はもう黒こげになっとるわけですよね。ほいでそのもう、「薬はないか」と言うても、「薬もない、水もない、我われも、その、もうこんな状態じゃから、そんなその、薬やら水、補給もできん」て云うた。そしたら、もう、山に着くのと同時にもうドラム缶がボーンと破裂して上にあがってですね、バーンと爆破して、もう落ちるたんびに、街は火の海に、次から次ぎさんなっていったんですね。
ほってもう、その山の上におっても、もう顔がもう熱いわけですね、ものすごい熱いわけですよ。ほいで、そいけどもうビリビリするわけですね。そのうちにもう吐き気が、もう、ものすごい吐き気がするし。吐き気がしてでも、もう吐くもんがないでしょ。もう腹の中に何もないもんじゃから、もう、あの苦い胃液を吐くんです。それが苦しうてからもう・・・
その49 音声を聞く
その山を越えました。と同時に、そこにいる十人内外の男の方々はみんな、ほんとに腰を抜かしてしまいました。見渡す限り、ま、火の海なんです。もう、煙で遠い方面は見えません。ただ、真下の三菱工場、ま、製鋼所なんかも一面火の海なんです。そして、その音がその山の上まで聞こえてきます。そのゴーッと燃えるような音は、今でももう忘れることはできませんけど、そこでもう、ヘタヘターとみなさん座り込みまして、どうしていいのかなすすべを知らないというか、全員座り込んでしまいました。
見ているうちに県庁が燃え出しました。そこにいる人たちは全員で、「あ、県庁が燃え出した、どうしたんだ、消防隊はどうしたんだ」、と言っているんですが、消防隊の方だって全滅したのかもわかりません。とにかく、飛び火をしたような格好で、県庁が燃えていました。われわれは山の上から歯軋りをして残念がるんですが、見る見るうちに燃えていくわけです。
その50 音声を聞く
・・・この時刻を遡ることおよそ1時間、爆心地の東側、山里国民学校と長崎医科大学付属病院付近・・・
その51 音声を聞く
・・・先ほどまで一列になりまして、土を手送りしていた女の先生、あるいは外に出て足を拭いていた男の先生、一人残らず倒れてうめいていました。でも、それが上半身、何も着けない、着ていないのです。おそらく爆風に剥ぎ取られたのか、熱のために焼けてしまったのか、出ている手足や顔は焼きただれまして雑巾のような皮がぶら下がり、二目と見られないような様子でした。
仲間の先生でなければ、もう一目見ただけで、私はもう気味悪くなって逃げ出しただろうと思うのです。それから、一ノ瀬という先生がいらっしゃいましたが、やはり外にいまして、土を手送りしていたんですが、その先生が10メートル以上も吹き飛ばされて崖に打ちあてられて即死していました。
しばらくしますと、他に行っていました若い女の先生、教頭先生が学校に帰ってきましたけれども、一人残らず背中いっぱい赤く焼けただれた、痛ましい姿をしていました。そしてみんなもうガタガタ震えまして、もう「寒い寒い」としきりに訴えるんですけれども着せるものは何もございません。ま、そのときに学校に出まして助かったのは、男では私1人、それから女の先生が3名でしたけれども・・・
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その52 音声を聞く
これはこうしておれんから、まず外に出なくちゃならんと言うので、診察室から廊下のほうに出てみたんです。ところが廊下にはもう上から建築材料がたくさん降ってきてですねぇ、とても歩けないほど。それじゃ隣の部屋を通って出よう、というので、机の上を飛び越えて窓から飛び出した。外へ出てみたら、いわゆるきのこ雲というか、黒い柱が浦上の、ちょうど今の爆心地のへんにあたってずっと立っておった。
ちょうど八月の真昼の太陽が、その雲の中から上に見えるんですけれど、真っ赤な太陽のような気がして。その時に私は、どういう何であったか、自分でもあぁいうことを考えるものかなぁと思うんだけれども、ちょうど「サロメ」という劇があったですな・・・オスカーワイルドの書いた劇のなかに「今夜の月の色は血のような色に見える」という、衛士がそういう台詞を語るところがある、あのサロメの劇の中のその血の色の月の色という、それ連想して・・・
その53音声を聞く
気がついた時はもう部屋の隅っこに、もう先生も看護婦も患者もひとかたまりになって、こう、吹き付けられとったわけですね。ほいで、物が壊れたりなんかした煙で、息ができないんですね。それでなんとか息をしたいと思って、ちょうど三階におったですから、屋上が四階ですけども、屋上にまず駆け上がろうと思って廊下の方に出たらですね、廊下ももう足の踏み場もないんですね。
でも、やっとその倒れた物のあいだを通って、屋上に出たんですよ。その時に、この、外がなんとなく明るく見えてきて、そしてもう見渡す限りペシャンコになっている。最初に外来で患者を診とった時はですね、自分だけがまぁ、やられたんではないかと思ったんですけれどね、屋上に上がって初めてその、見渡す限りがもう跡形ない、ということを見て本当にもうぞうっとしたですね。
そして玄関のところまでやっとまぁ、玄関と言うのは病院の玄関ですね、降りてきたんですが、もうその玄関の入り口あたりはもう、重傷者がうめいているわけですね。そのほとんどが着ている衣類が吹っ飛ばされている、あるいはもう手足が吹っ飛んでいるという状態で・・・
その54 音声を聞く
もう病院の方に向かってですね、坂道を沢山の人が上がってきよる。その人を見るというと、もう体じゅうが焼けただれて、そして着物はボロボロに焦がれてですね、下のほうは着物が焼けて切れて落ちてしまっている、そういう患者が救いを求めてですね、「喉が渇く」、「水が欲しい」、「助けてくれ」と言うて上がってきよる。
けども、私はもう何にも材料もないし、初めのうちはいくぶんか、診察着を裂いて縛ってやった人も一、二はあったと思うけれど、その診察着ももうそういう余裕はないほどであるし、来た人の話によると、これはその「至近弾が自分の近くに落ちた」と。「そこで自分は大学病院のほうに助けを求めて治療を請うためにやってきた、きよる」。ところがきてみたら、どこも同じようなことだ、というので、みんな驚いておるような様子でしたね。
その55 音声を聞く
天井からコンクリが落ちてくる、どげんしたらよかろうか。そしてひょっと見たら、一間ばっかし先のほうがもう火の海でございましたもんね。ほいて先生方も誰も、もう鞄はさげながら立ち往生しとんなさるでしょうが。それから私も逃げなきゃ、ここ逃げていかなくちゃ、もうできないと思って、こんなにしとったら死んでしまう、どうしようかと思いましてね。
こっちからは煙が来よる、こっちからは火が来よる、こらもぅ地獄じゃろかと思ってですね、もう「助けてください」、ほんと「助けてください、助けてください」っておめいたですけども、誰一人、死にかかって転んどる人ばっかりでしょう。でもう、私はもう仕方なかと思ってこう寝とったら、向こうの方から「何とかしても這うてきなさい」とおめきなさるとですよ。
ほんとですね。なんとかして逃げなくては、これはもう、自分だけなら死んでもよかばってん、もう、子供や主人がもし生きていたならねぇ、かわいそうだからって言うてですねぇ。
「あなたの顔は化けもんのごとある」と私に言うて、自分も化けもんのごとなっていとんなさったですもん。カトリックの人だったから、今度はあの、自分の宗旨のね、お祈りでしょうか、しよんなさった。そうしてもう泣いて見たり、笑ろうてみたりして・・・
その56 音声を聞く
大学病院の裏手の、その小高い丘の上まで逃げまして、ここまでくればいいかと思ってひょっと病院の方を見たんです。その瞬間でした。窓という窓から一斉に火を噴いたんです。あれはすぐ火が出るんじゃないんですね。
当時そうですね、いい小父さんに見えましたから、40か50くらいの方だったんでしょうか、お腹が切れちゃってるんです、かなり深く。両掌で腸が外に出てくるのを押さえているんです。その指の間から腸が出てくるんですねぇ。手をこう、交互に上下しながら盛んにそれを押さえてうずくまっていた方がありましたねぇ。
それとですね、下級生です。商業の、一年生か、せいぜい二年生ですか、当時学校に行っていた子は。窓枠、サッシというのは怖いもんです。あれが、爆風でしょうねぇ、飛んできまして、腹から背中へ貫通、じゃないです、盲管ですね。そばを通る私を見かけまして、その子が「取ってくれ」て泣くんですが、学生さんがとっちゃ駄目だと言われたんです。
ま、今考えてみると出血多量を言ったんだと思いますが、痛がるんですね。痛がって、「抜いてくれ」と言うんですが、「抜いたら死ぬから駄目だ」と言われて・・。
もちろん私たちも逃げていかなくちゃなりません。
その57 音声を聞く
そのうちにあのう火が出始めたんですよ。ことにあのう火の出る場所があっちこっちで、それで非常に急いで、その重傷者を早く助け出そうということになったんですけど、どんどん、どんどん燃え始め、もうちょっと危ないからということで諦めて、山手のほうにみんな避難させたんですね。その間、雨がちょっときましたですねぇ。
で、重傷者をだいぶ山手の方に担ぎ上げたわけですよ。ずうっともう斜面ですね、あの病院から穴弘法(寺)に、相当こう急な斜面ですけども、そこはもう、やっとそこまで這い上がってきた連中、あるいは助けながら運んできた重傷者が、もううめいてるわけですよ。そしてもう、すでにそのあたりでこと切れている人もおりましたし。
でもだんだん、だんだん火が近くで燃えるもんだから、熱くておれなくてね、ほいで、ずーっと山の上に登っていったわけです。そこで、その病院が真っ赤に燃えている、そして基礎教室ももう炎に包まれとったですね。情けなかったちゅうかねぇもう、ほんとに、これでもう、この世の中は終わりっていうような気がちょっとしたですね。
その58 音声を聞く
そしてしばらくして、あのう玄関の方へ患者さんを担架で、そうですねぇ、十往復くらいしたでしょうか、救出したんですけれども。そして、しばらくしまして街を見ますと、もう、病院から見渡しますと火の海ですもんね。
ずいぶん遅くまで病院の中へいたわけですけれども、最後に、火が病院にもう移ったと、これでもういよいよ逃げなければ危険だと、玄関でみんな集まって、それから途中の患者さんを救出しながら、あの穴弘法(寺)のすぐ下のほうの所まで行くんだということで、生き残りの者いっしょにそこからずっと、まぁ患者さんを助けながら登っていったわけです。で、途中で角尾学長が倒れておられたわけですね。
そうしますと永井先生は「ここに学長がおられるから、大学の本部はここだ」と、「みんな集まれ」というようなことで、大学本部としてのシンボルをですね、それこそ作って立てるんだということで、古い破れたシーツを取り出して、その中にみんなが倒れるようにして、自分の体についている血液で日の丸を描いたわけですけれども、私にもずいぶんつきましたけれども。
見る見るうちにその日の丸が出来上がりましてね。それをそこへ高く掲げまして、「大学本部はここだぞー、学長はここだぞー」って「みんな職員は集まれー」っていうようなことを永井先生が大きな声で叫ばれましたんですが・・・
これはこうしておれんから、まず外に出なくちゃならんと言うので、診察室から廊下のほうに出てみたんです。ところが廊下にはもう上から建築材料がたくさん降ってきてですねぇ、とても歩けないほど。それじゃ隣の部屋を通って出よう、というので、机の上を飛び越えて窓から飛び出した。外へ出てみたら、いわゆるきのこ雲というか、黒い柱が浦上の、ちょうど今の爆心地のへんにあたってずっと立っておった。
ちょうど八月の真昼の太陽が、その雲の中から上に見えるんですけれど、真っ赤な太陽のような気がして。その時に私は、どういう何であったか、自分でもあぁいうことを考えるものかなぁと思うんだけれども、ちょうど「サロメ」という劇があったですな・・・オスカーワイルドの書いた劇のなかに「今夜の月の色は血のような色に見える」という、衛士がそういう台詞を語るところがある、あのサロメの劇の中のその血の色の月の色という、それ連想して・・・
その53音声を聞く
気がついた時はもう部屋の隅っこに、もう先生も看護婦も患者もひとかたまりになって、こう、吹き付けられとったわけですね。ほいで、物が壊れたりなんかした煙で、息ができないんですね。それでなんとか息をしたいと思って、ちょうど三階におったですから、屋上が四階ですけども、屋上にまず駆け上がろうと思って廊下の方に出たらですね、廊下ももう足の踏み場もないんですね。
でも、やっとその倒れた物のあいだを通って、屋上に出たんですよ。その時に、この、外がなんとなく明るく見えてきて、そしてもう見渡す限りペシャンコになっている。最初に外来で患者を診とった時はですね、自分だけがまぁ、やられたんではないかと思ったんですけれどね、屋上に上がって初めてその、見渡す限りがもう跡形ない、ということを見て本当にもうぞうっとしたですね。
そして玄関のところまでやっとまぁ、玄関と言うのは病院の玄関ですね、降りてきたんですが、もうその玄関の入り口あたりはもう、重傷者がうめいているわけですね。そのほとんどが着ている衣類が吹っ飛ばされている、あるいはもう手足が吹っ飛んでいるという状態で・・・
その54 音声を聞く
もう病院の方に向かってですね、坂道を沢山の人が上がってきよる。その人を見るというと、もう体じゅうが焼けただれて、そして着物はボロボロに焦がれてですね、下のほうは着物が焼けて切れて落ちてしまっている、そういう患者が救いを求めてですね、「喉が渇く」、「水が欲しい」、「助けてくれ」と言うて上がってきよる。
けども、私はもう何にも材料もないし、初めのうちはいくぶんか、診察着を裂いて縛ってやった人も一、二はあったと思うけれど、その診察着ももうそういう余裕はないほどであるし、来た人の話によると、これはその「至近弾が自分の近くに落ちた」と。「そこで自分は大学病院のほうに助けを求めて治療を請うためにやってきた、きよる」。ところがきてみたら、どこも同じようなことだ、というので、みんな驚いておるような様子でしたね。
その55 音声を聞く
天井からコンクリが落ちてくる、どげんしたらよかろうか。そしてひょっと見たら、一間ばっかし先のほうがもう火の海でございましたもんね。ほいて先生方も誰も、もう鞄はさげながら立ち往生しとんなさるでしょうが。それから私も逃げなきゃ、ここ逃げていかなくちゃ、もうできないと思って、こんなにしとったら死んでしまう、どうしようかと思いましてね。
こっちからは煙が来よる、こっちからは火が来よる、こらもぅ地獄じゃろかと思ってですね、もう「助けてください」、ほんと「助けてください、助けてください」っておめいたですけども、誰一人、死にかかって転んどる人ばっかりでしょう。でもう、私はもう仕方なかと思ってこう寝とったら、向こうの方から「何とかしても這うてきなさい」とおめきなさるとですよ。
ほんとですね。なんとかして逃げなくては、これはもう、自分だけなら死んでもよかばってん、もう、子供や主人がもし生きていたならねぇ、かわいそうだからって言うてですねぇ。
「あなたの顔は化けもんのごとある」と私に言うて、自分も化けもんのごとなっていとんなさったですもん。カトリックの人だったから、今度はあの、自分の宗旨のね、お祈りでしょうか、しよんなさった。そうしてもう泣いて見たり、笑ろうてみたりして・・・
その56 音声を聞く
大学病院の裏手の、その小高い丘の上まで逃げまして、ここまでくればいいかと思ってひょっと病院の方を見たんです。その瞬間でした。窓という窓から一斉に火を噴いたんです。あれはすぐ火が出るんじゃないんですね。
当時そうですね、いい小父さんに見えましたから、40か50くらいの方だったんでしょうか、お腹が切れちゃってるんです、かなり深く。両掌で腸が外に出てくるのを押さえているんです。その指の間から腸が出てくるんですねぇ。手をこう、交互に上下しながら盛んにそれを押さえてうずくまっていた方がありましたねぇ。
それとですね、下級生です。商業の、一年生か、せいぜい二年生ですか、当時学校に行っていた子は。窓枠、サッシというのは怖いもんです。あれが、爆風でしょうねぇ、飛んできまして、腹から背中へ貫通、じゃないです、盲管ですね。そばを通る私を見かけまして、その子が「取ってくれ」て泣くんですが、学生さんがとっちゃ駄目だと言われたんです。
ま、今考えてみると出血多量を言ったんだと思いますが、痛がるんですね。痛がって、「抜いてくれ」と言うんですが、「抜いたら死ぬから駄目だ」と言われて・・。
もちろん私たちも逃げていかなくちゃなりません。
その57 音声を聞く
そのうちにあのう火が出始めたんですよ。ことにあのう火の出る場所があっちこっちで、それで非常に急いで、その重傷者を早く助け出そうということになったんですけど、どんどん、どんどん燃え始め、もうちょっと危ないからということで諦めて、山手のほうにみんな避難させたんですね。その間、雨がちょっときましたですねぇ。
で、重傷者をだいぶ山手の方に担ぎ上げたわけですよ。ずうっともう斜面ですね、あの病院から穴弘法(寺)に、相当こう急な斜面ですけども、そこはもう、やっとそこまで這い上がってきた連中、あるいは助けながら運んできた重傷者が、もううめいてるわけですよ。そしてもう、すでにそのあたりでこと切れている人もおりましたし。
でもだんだん、だんだん火が近くで燃えるもんだから、熱くておれなくてね、ほいで、ずーっと山の上に登っていったわけです。そこで、その病院が真っ赤に燃えている、そして基礎教室ももう炎に包まれとったですね。情けなかったちゅうかねぇもう、ほんとに、これでもう、この世の中は終わりっていうような気がちょっとしたですね。
その58 音声を聞く
そしてしばらくして、あのう玄関の方へ患者さんを担架で、そうですねぇ、十往復くらいしたでしょうか、救出したんですけれども。そして、しばらくしまして街を見ますと、もう、病院から見渡しますと火の海ですもんね。
ずいぶん遅くまで病院の中へいたわけですけれども、最後に、火が病院にもう移ったと、これでもういよいよ逃げなければ危険だと、玄関でみんな集まって、それから途中の患者さんを救出しながら、あの穴弘法(寺)のすぐ下のほうの所まで行くんだということで、生き残りの者いっしょにそこからずっと、まぁ患者さんを助けながら登っていったわけです。で、途中で角尾学長が倒れておられたわけですね。
そうしますと永井先生は「ここに学長がおられるから、大学の本部はここだ」と、「みんな集まれ」というようなことで、大学本部としてのシンボルをですね、それこそ作って立てるんだということで、古い破れたシーツを取り出して、その中にみんなが倒れるようにして、自分の体についている血液で日の丸を描いたわけですけれども、私にもずいぶんつきましたけれども。
見る見るうちにその日の丸が出来上がりましてね。それをそこへ高く掲げまして、「大学本部はここだぞー、学長はここだぞー」って「みんな職員は集まれー」っていうようなことを永井先生が大きな声で叫ばれましたんですが・・・