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陸軍登戸研究所:新型電子信管暴発!

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かんぶりあ

通常 陸軍登戸研究所:新型電子信管暴発!

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/2/6 7:35
かんぶりあ  新米   投稿数: 11
【登戸研究所の思い出(3)】

 研究所の雰囲気にも大分慣れて来ましたが、驚いたのはその人数の少ないこと!

 朝の朝礼で整列して例の『一つ軍人は …』なんてのをやりますが、数はせいぜい班の規模。

 他の科も同じかしら … でも全部合わせても大したことはなさそうです。

 半数は疎開先の信州の小諸方面に受け入れ準備に行ってるとのことですがここに来るまでは、さぞかし多勢の技術将校や技師達が夜も寝ずに新兵器の開発にいそしんでいるのだろう、とばかり思っていたのにこの有様。

 映画で、軍艦を設計している技師が不眠不休で製図板の前でぶっ倒れる、なんてシーンを見て、何となくそんなことを想像して居ただけに、これはまたとんだ拍子抜け。

 それはともかく、今日は朝っぱらから医務室で予防注射を打たれました。

 3種混合とか言って、20分程したら熱が出て悪寒が2時間続くこともあるそうで、午前中は寝てろ、とのこと。

 でも一向に熱も悪寒も出る気配はありません。
 そのうち、大林曹長が様子を見にやって来ました。

 先日取りに行った荷物の中からウィスキーを一本取り出して進呈したら、その後やけに機嫌がよろしい。どうやら鼻薬が効いたみたいです。

 父が町会長をしていましたが、町内に逓信省の若い局員の寮があって、そこの寮長が色んな付け届けをしに来ます。

 なんでも、転入転出の際の証明に手心を加えて貰うためらしいです。
 色んな隠匿物資を回わしてくれます。その中にウイスキーがありました。

 そんなことしていいのかどうか分らないが、元来『正義』なんてものは、間々自分の都合で変わります。

 『正義は国の数だけある』と言いますが『人の数だけ』かも知れません。

 それは兎も角、このウィスキーは、サイダー瓶のような容器に白ラベルと黒字の印刷で、何の飾り気もありません。

 それに海軍の錨の印。へえ、海軍さんはこんなもの召し上がってるんだ。
 どうせ士官専用でしょうけどね。

 まだ戦局が悪くならない頃のものらしいが、これが巡り巡って帝国陸軍の曹長殿の喉を閏おすことになりました。

 それからと言うものは、何でも便宜を計ってくれます。

 皇軍は「星の数より飯の数」と申しまして、古参の下士官は若い少尉より威張ってます。こういう連中とは可及的仲良くして置いて損はありません。

 そもそも帝国陸軍は万事が『要領』。
 人生要領、メモリー容量、ハードディスクは大容量。

 「どうだい、役所は?」 なる程、ここは『お役所』なんだ。

 「通勤電車が大変で … 時々止まって動かないし」

 「俺は近くだからな。で、混合やったんだって? 調子はどうだい?」

 「全然大丈夫です。何ともないけど、効いてるのかな? 熱も出ないし」

 「体質だろ。出る奴は凄く出る。じゃあ休んでるとこを悪いんだが …」

 何でも三科の連中が困ってるらしい。応援に行ってくれ、とのこと。
 連れられて紹介されたが同類みたいな新米が二人いる。何となく心強い。

 速成教育過程は東大で、住いは滝野川区とのこと。いいなあ、地元で。

 「回路は得意じゃないんです。機械工学で、特に精密機械なもんで …」

 とのこと。なるほど。弱電屋さんは皆信州に行ってるとのことで、彼等は誘導弾のジャイロが専門らしい。

 ロケットてえものは、ジャイロがないと真っ直ぐ飛びませんからね。

 何でもアメリカが『近接信管』とかいうものを使ってるらしく、その資料が手に入ったので試作して見ろと言われたが、チンプンカンプン何も分らんとのこと。

 落とした飛行機とか、沈めた船とか、捕虜の持ち物とか、色んな所からこの種の資料が手に入ります。

 1945 年版の Popular Science も何冊か積まれていました。

 ドイツの図面は腐るほどあって、翻訳をやらされるたびに辟易しますが、まあ、英語ならなんとかなるかも知れません。

 この翻訳作業も、我々の仕事の重要な部分を占めて居ります。
 とは言うものの回路図を見たところ、何のことやらさっぱり分りません。

 受信回路でも発振回路でも増幅回路でもないのです。なんじゃ、こりゃ?
 今度はこっちがチンプンカンプンです。

 文面から察すると発振するらしいのですが、見たこともない回路です。
 大体、これは発振するような回路じゃありません。

 おかしいなあ … 短いダイポール見たいなものだけが2本あります。

 発振状態にするための正饋還(フィードバック)系がどこにも無い!
 然るに『発振状態になったら信管を自動的に点火』云々、とあります。

 やはり発振するらしいのだが … う~む!わけが分らん!と、暫し呻吟。
 あっ、そうか!紙面を見詰めて1時間ほどして、やっと気が付きました。

 地面とか導体が近くにあれば、反射して発振回路を形成するらしい。
 う~む、こんな方法があったのか! 敵もさるもの引っ掻くもの。

 爆弾が地面に潜って破裂しても上に吹き上がるだけだから、地面に伏せてれば助かります。が、地面に達する直前で爆発すれば破壊力が増大します。
 
 概略の説明書を書いて渡し、お礼に Popular Science を頂きました。
 下宿でむさぼり読んで睡眠不足。

 翌日、着地直前で爆発する信管を真空管なしで作れないか、とのこと。
 貴重な真空管を爆発の途ずれには到底出来ん、と言うことらしい。

 こちとら、お家の事情で物量作戦は取れないのです。
 その辺りは持ち前の「大和魂」と言う「精神」で代用します。

 幸い気球の高度制御はお手のもの。高度計とCR時定数を組み合わせれば出来る筈。落下フックと電源投入を同期させれば良いのだし。

 落下中に徐々にコンデンサーの電圧が上がって豆ネオン管を点灯し、そのときの点灯電流を利用して点火させればいいわけです。

 コンデンサーの充電用初期抵抗値は気圧計と連動させます。
 なにせ簡単。突貫作業で試作完成!電光石火の早業。やるときゃやるよ!

 でも内々に手伝ってるだけですから、テスト現場には行けません。
 なんでも近くの飛行場で模擬弾を使う、とのこと。

 やがて、第一報が入って来ました。
 でもそれは …「操縦士の足下で暴発せり」でした! あじゃ~

                          (つづく)

         === 新多 昭二 (Shinta Shoji) ===

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