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陸軍登戸研究所:着想一閃身を扶く

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かんぶりあ

通常 陸軍登戸研究所:着想一閃身を扶く

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/2/6 7:37
かんぶりあ  新米   投稿数: 11
【登戸研究所の思い出(4)】

 タイマー信管暴発の件は、コンデンサーの容量抜けと判明しました。
 容量がなきゃ電源が入った途端に爆発します。遅延時間=ゼロだもの。

 黒い煙の出る発煙筒でテストしたらしく、人的被害はなかった模様。
 でも、乗る身になってやってくれ、と苦情があったとか。やれやれ!

 複数のコンデンサーを並列にすることで問題は解決しました。
 一個容量抜けがあっても点火位置が狂うだけ。瞬時爆発は避けられます。

 一件落着と思いきや、早速つぎの案件を持ち込まれました。
 これらは正式の仕事ではなく、自発的にやって居ります。

 研究所そのものは、解体と梱包、そして搬送と移転の最中ですが、軍用トラックも人手も足りなくて作業は遅々として居ります。従って暇だらけ。

 偉い人も人員も登戸側と信州側に2分されてるし、設備はなにしろ解体中ですから、とても纏まったことは出来ません。

 各国立大学に戦研として委託研究のための連絡も仕事なのですが、万事が延び延びで「フ号作戦」が中止になったのも、真相は水素工場が爆撃されてガスが来なくなったため。とにかく資材は新しく調達出来ません。

 戦争に勝つとか負けるとかは、とっくに超越して居ります。
 万事、戦えるような状態じゃない。とにかくその日が無事かどうか。

 「撃ちてし止まん!」なんて標語が、やたらアチコチに貼ってありますがもう撃てなくなってんだから、そろそろ止めたらどうなんだろう、と心に思えど口には出せぬ今日この頃のご時勢。

 内心は既に敗北主義の非国民状態になって居ります。
 「やむにやまれぬ大和魂 …」う~む、大和魂ってのは止められないのか。

 そんな中で、何かせねば、と同じ立場の同輩と色々考えて居りました。
 とにかく、何かしてなきゃ不安です。

 そうこうしてるうち、米軍の近接信管を解明したことが評判になっているらしくて、色んな案件を持ち込まれます。

 さあ困ったぞ! あれだって、すんなり判ったわけじゃあない。
 あんなのが次々に持ち込まれたら大変だ! とてもこの身が持ちません。

 でもまあ、手に余るような難しいものなら「出来ません」で済むことだ。
 そう思ったら幾分気が楽になりました。でもやはり変な物を持って来る。

 見ると、なんだかベークライトの板に数字が書いてあります。
 夫々の数字の下に溝が掘ってあり、長短の金属片が埋め込んである。

 これをリードの付いた金属棒でなぞって、モールス信号を出すとのこと。
 満州のソ連のスパイの携帯品がヒントとか。なるほど! 考えましたね。

 いや、これは便利だ! 第一、モールス信号を知らなくても使えます。
 数字の羅列で暗号を送るスパイ用には便利でしょうね。

 「面白いですね。ところで、これがどうかしたのですか?」

 「リード線がすぐ切れるんですよ。金糸線は半田付けが利かなくてね」

 金糸線とは繊維の周りをリボン状の金属を捲いたもので屈折疲労に強い。
 でも、実に扱い難い!半田付けしようとすると中の繊維が焼けるのです。

 しかし、です … 以前、何か似たような経験がある。
 確か、リード線を使わない方法があった筈。あ、思い出した、あれだ!

 「これですがね、リード線なんか要りませんよ」

 「え?」

 「V字状の溝の両側に、互いに絶縁した金属を埋め込めばいいのです」

 「絶縁されてたら電流が流れないでしょう?」

 「だからその溝を金属棒で擦るのです」

 「あ、そうか! どうして気が付かなかったんだろう …」

 「いざとなったら、一銭銅貨で擦ってもいいわけだし」

 「その辺の釘でもいいわけか … 金属なら何でも使えますな …」

 「断線も接触不良も起らない。いつも擦ってるから錆びません」

 その後このことが話題になり、難問を数秒で解決したと言うので、かなり評判になりました。でもこれは、そのとき考えたものではありません。

 実はかって実習時間のとき、PO-BOX(平衡ブリッジの抵抗測定器)を使って測定するとき、少々難儀をしたことがありました。

 こいつはテーパーの付いた銓を割れ目で絶縁したテーパー穴に差し込み、両側の金属を導通させる、と言う仕組みになって居りました。

 これを強く捩じ込むのですが、埃なんかがこびり付いて、低い抵抗値では誤差が生じるので測るたびに値が違って出ます。

 そのたびにアルコールで拭いたりするのですが、常時擦って自動浄化する方法はないものか、といつも対策を考えて居りました。

 恐らくそれが、脳裏のどこかに潜在意識になって潜んでいたのでしょう。
 無意識に顕れる潜在意識がインスピレーションになるのでしょうか。

 それにしてもこの「導通棒」式モールス信号発生器、費用も掛からず訓練も要らず、故障もしないし嵩ばらない。それに軽くて量産が可能です。

 このときの強烈な印象は爾来、未だに人生の良き教訓となって居ります。
 Simple is Best とは、まさにこのことなんですね。
 
 複雑な難しい「からくり」よりも、単純で簡単な物の方が実際の役に立つことがある。これなんか、その良い例ではありますまいか。

 戦後15年目に創業し、電子制御のオートメーション機械を設計するたびに、いつもこの例を挙げては周囲と自分自身に訓戒を垂れて居りました。

 とかく技術屋さんは、物事を難しく、難しく、してしまいます。
 過剰機能で、炊飯器も電子レンジもビデオ録画もクソ難しくて使えない。

 この件を持ち込んだのは近在の農家の人らしく、それ以来、芋だの米だのことあるごとに頂戴して、お陰で慢性飢餓から脱することが出来ました。

 瞬間の閃きが我が身を扶けることもある。
 難しく考えても解決しないこともある。

 でも何かを考え続けていると、別のことの解決に役立つこともあるようですから、人間、取り敢えずは脳味噌のあるうちに考え続けて行きませう。

                         (つづく)
 
       ==== Pre Cambrian ***** S.Shinta ====

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