陸軍登戸研究所:瞬発通信に人生を悟る
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かんぶりあ
投稿数: 11
【登戸研究所の思い出(5)】
「顕微鏡、どこへ行った? 送っちまったのか!」
朝から小肥りの○○見習士官が、ひとしきり騒いでおります。 (この○○は失念のため)
和紙の繊維の状態を見るためにあった顕微鏡が見当たらないのです。
ありきたりの光学顕微鏡です。
「フ号作戦」の気球は和紙をグリセリンで処理してあるのですが、少しでもピンホールがあると水素が洩れるので、その検査用らしいのです。
「知ってねえや …」
と、近在の古参の作業員。
今もこう言い方をするのでしょうか? あの辺りの人 …
「昨日荷造りしてましたよ」と、別の誰かが言う。
「弱ったな … 君、○○で借りて来て貰えんかな」と、私を振り返る。
「嫌だなあ、あそこは …」
この○○は、失念ではなく、言いたくない○○。
細菌がくっ付いて来そうだもんね … ま、そういう部署もあったわけ。
「ありました!」 向うで誰かが叫びます。
荷造りしたまま、まだ送っていなかった模様。やれやれ助かった!
軍用トラックが行ったまま、なかなか帰って来ません。また故障かな。
「顕微鏡、何に使うんです?」
「あ、これなんだがね。ちょうど訳して貰おうと思ってたんだ」
何かタイプしたものを渡されました。
うん? Punkt Methode … またドイツ語だ。
何だろう?「点」方式って … よく見ると書類を縮小してフィルムに写すと言うことらしい。縮小には顕微鏡を逆にして感光させる、とあります。
その小さな点の中に、書類の内容が凝縮されて写っているわけか …
今で言うマイクロフィルムを更に微小にしたもののようです。
マイクロマイクロフィルム、つまりピコフィルムってとこか …
この小さな点を、何かの書物のピリオードの上に貼って送るらしい。
なるほど、スパイ用か … これを顕微鏡で見ると読めるわけですね。
なる程、そう言うことか。盟邦ドイツもなかなかやるじゃありませんか。
ソ連原産の例のモールス発信板より高級感があります。
そう言えば、デカンショ節にありますね。
どうせやるなら 小さいことなされ、蚤のキンタマ 八裂きに …
(失礼しました)
このところ鬼畜米英と言い、ソ連と言い、盟邦ナチスと言い、それぞれに色んなものを工夫して居りますが、わが「大日本帝国」は、もう一つパッと致しません。
「大和魂」と言うものがあるのだから、竹槍で戦車に立ち向かえ、なんて婦女子まで鉢巻ともんぺ姿で竹槍訓練してるけど、無理だと思うけどねえ。
こちらへ来て、実態を知れば知るほど、心細さが身に沁みて行きます。
でも、この縮小文書がヒントなって、秘密通信法を思い付くことになりました。ドイツ式の「面積の縮小」を「時間の縮小」に置き換えるのです。
オッシロの蛍光膜を移動する光の点を音声で変調すると、濃淡の点が走ります。これは今のテレビと同じことですが、もっとゆっくり移動させます。
縦横に走査する点もテレビと同じですが、残光性で画像は一枚限りです。
目で見るのじゃなく、X線用のフィルムに撮り、これを現像します。
現像したフィルムをオッシロの上に貼って位置を合わせ、同じように光点を走らせますが、今度は変調せずに、一定の明るさです。
これを光電管で電流に変換すると、先程の音声が聞こえます。
ここまではトーキーと同じですから、当たり前。
トーキーのように細長いフィルムではなく、一枚の面になります。
ここで走査を百分の一秒でパッと走らせると短いパルスになり、その一発のパルスの中は音声で変調されています。
打ち合せた時刻に、この一発だけのパルスを受信した方は、送信側と逆の手続きでフィルムに感光させて再現させますが、なにせ通信時間が短かいので、第三者は探知出来ません。
今なら画面一枚のテレビみたいなものですから別に不思議ではありませんが、当時としては画期的なものでした。
私にとっては、本格的な戦時研究の第一号になりました。
そして、これには更に大きな副産物がありました。
10ワットの送信管で数KWの尖頭出力が出るのです。
時間が短いので、平均消費電力が少なくなり、発熱しません。
電源の方は大容量の蓄電器に充電して置いてパッと一気に放電させます。
今のキセノン管のフラッシュみたいなものですね。
ただ瞬間光るのではなく、一瞬、電波がポツッ、と出るわけです。
「瞬発通信」と名付け、説明にはハンマーの例をよく挙げました。
板に釘を当てて、その頭をハンマーでただ押しても、釘は中に入って行きません。大の男が力任せに押しても、釘は入って行かないばかりか、下手をすると手が滑って怪我をします。
然るにハンマーを振り上げ、こんこん、と叩くとスイスイ釘は入ります。
小さな子供でも、この「こんこん」で釘は打ち込めます。
人間も、無思慮にただ連続した努力で汗水流すより、思慮深く充分余力を蓄え、ここぞ!と言う要点で電光石火やってのける方が成功率が高いらしいと悟りました。
人生、金槌方式で、気楽にやってのけましょう。
【本日の教訓】 ただ一生懸命やるよりも たまには寝転ぶほうがいい
=== 新多 昭二(Shinta Shoji)記 ===
「顕微鏡、どこへ行った? 送っちまったのか!」
朝から小肥りの○○見習士官が、ひとしきり騒いでおります。 (この○○は失念のため)
和紙の繊維の状態を見るためにあった顕微鏡が見当たらないのです。
ありきたりの光学顕微鏡です。
「フ号作戦」の気球は和紙をグリセリンで処理してあるのですが、少しでもピンホールがあると水素が洩れるので、その検査用らしいのです。
「知ってねえや …」
と、近在の古参の作業員。
今もこう言い方をするのでしょうか? あの辺りの人 …
「昨日荷造りしてましたよ」と、別の誰かが言う。
「弱ったな … 君、○○で借りて来て貰えんかな」と、私を振り返る。
「嫌だなあ、あそこは …」
この○○は、失念ではなく、言いたくない○○。
細菌がくっ付いて来そうだもんね … ま、そういう部署もあったわけ。
「ありました!」 向うで誰かが叫びます。
荷造りしたまま、まだ送っていなかった模様。やれやれ助かった!
軍用トラックが行ったまま、なかなか帰って来ません。また故障かな。
「顕微鏡、何に使うんです?」
「あ、これなんだがね。ちょうど訳して貰おうと思ってたんだ」
何かタイプしたものを渡されました。
うん? Punkt Methode … またドイツ語だ。
何だろう?「点」方式って … よく見ると書類を縮小してフィルムに写すと言うことらしい。縮小には顕微鏡を逆にして感光させる、とあります。
その小さな点の中に、書類の内容が凝縮されて写っているわけか …
今で言うマイクロフィルムを更に微小にしたもののようです。
マイクロマイクロフィルム、つまりピコフィルムってとこか …
この小さな点を、何かの書物のピリオードの上に貼って送るらしい。
なるほど、スパイ用か … これを顕微鏡で見ると読めるわけですね。
なる程、そう言うことか。盟邦ドイツもなかなかやるじゃありませんか。
ソ連原産の例のモールス発信板より高級感があります。
そう言えば、デカンショ節にありますね。
どうせやるなら 小さいことなされ、蚤のキンタマ 八裂きに …
(失礼しました)
このところ鬼畜米英と言い、ソ連と言い、盟邦ナチスと言い、それぞれに色んなものを工夫して居りますが、わが「大日本帝国」は、もう一つパッと致しません。
「大和魂」と言うものがあるのだから、竹槍で戦車に立ち向かえ、なんて婦女子まで鉢巻ともんぺ姿で竹槍訓練してるけど、無理だと思うけどねえ。
こちらへ来て、実態を知れば知るほど、心細さが身に沁みて行きます。
でも、この縮小文書がヒントなって、秘密通信法を思い付くことになりました。ドイツ式の「面積の縮小」を「時間の縮小」に置き換えるのです。
オッシロの蛍光膜を移動する光の点を音声で変調すると、濃淡の点が走ります。これは今のテレビと同じことですが、もっとゆっくり移動させます。
縦横に走査する点もテレビと同じですが、残光性で画像は一枚限りです。
目で見るのじゃなく、X線用のフィルムに撮り、これを現像します。
現像したフィルムをオッシロの上に貼って位置を合わせ、同じように光点を走らせますが、今度は変調せずに、一定の明るさです。
これを光電管で電流に変換すると、先程の音声が聞こえます。
ここまではトーキーと同じですから、当たり前。
トーキーのように細長いフィルムではなく、一枚の面になります。
ここで走査を百分の一秒でパッと走らせると短いパルスになり、その一発のパルスの中は音声で変調されています。
打ち合せた時刻に、この一発だけのパルスを受信した方は、送信側と逆の手続きでフィルムに感光させて再現させますが、なにせ通信時間が短かいので、第三者は探知出来ません。
今なら画面一枚のテレビみたいなものですから別に不思議ではありませんが、当時としては画期的なものでした。
私にとっては、本格的な戦時研究の第一号になりました。
そして、これには更に大きな副産物がありました。
10ワットの送信管で数KWの尖頭出力が出るのです。
時間が短いので、平均消費電力が少なくなり、発熱しません。
電源の方は大容量の蓄電器に充電して置いてパッと一気に放電させます。
今のキセノン管のフラッシュみたいなものですね。
ただ瞬間光るのではなく、一瞬、電波がポツッ、と出るわけです。
「瞬発通信」と名付け、説明にはハンマーの例をよく挙げました。
板に釘を当てて、その頭をハンマーでただ押しても、釘は中に入って行きません。大の男が力任せに押しても、釘は入って行かないばかりか、下手をすると手が滑って怪我をします。
然るにハンマーを振り上げ、こんこん、と叩くとスイスイ釘は入ります。
小さな子供でも、この「こんこん」で釘は打ち込めます。
人間も、無思慮にただ連続した努力で汗水流すより、思慮深く充分余力を蓄え、ここぞ!と言う要点で電光石火やってのける方が成功率が高いらしいと悟りました。
人生、金槌方式で、気楽にやってのけましょう。
【本日の教訓】 ただ一生懸命やるよりも たまには寝転ぶほうがいい
=== 新多 昭二(Shinta Shoji)記 ===