兄の眠る国 8 山口周行
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編集者
居住地: メロウ倶楽部
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十二 尊敬される山下将軍
十一月六日、長兄が亡くなったとされるウエワクの地へ赴く日です。ウエワクはどんな所か、早くも胸が高鳴ります。
朝オロゲスト・ハウス玄関脇の檻の中にある木の上で、バナナを食べている小型カンガルーのワラビーと同じくらいの大きさで良く似た動物のいることに気づきました。今までに全く見たことのない動物です.尋ねれば『木登りカンガルー』とのこと。名前も、姿も、見たことも聞いたこともない動物を飼育しているのには驚きました。ここは矢張りPNGです。
さて、この日一日はポポンデッタから飛行機を乗り継ぎ、ウエワクへ行く日程です。午前九時、バスでホテル出発、いろいろな人を見かける。七百部族の多民族を反映して、顔立ち、表情,肌の色,言語等多岐にわたるとか,出身地も大体見分けがつくそうです。植物の椰子一つ取っても、ココヤシ、パームヤシ、オイルヤシ、サゴヤシ等々多種多様でその用途も食用、嗜好用、建築用材、油材用など幅広いのにはびっくりです。
途中昨日少し立ち寄ったココダ・トレイルで休息、豪州記念碑だけでも詳しく記録したかったのですが、それも叶わず午前十時五分出発。悔いが残ります。
バス同志が擦れ違う時にはここでも必ず大きな声で手を振り、満面笑みを浮かべて挨拶を交わします。昔からこの地で生活しているような錯覚すら起きます。この親近感はどこから生まれてくるのでしょう。これが伝統的に昔から受け継がれて、今日になっているとすれば、故郷をとおく離れた異郷の地にある兵士たちにとってはどのくらい心を癒されたことか知れません。そう思うと嬉しくなり、長兄に代わって『PNGの人達よ有難う』とお礼が言いたくなりま す。
途中、ポポンデッタのスーパーマーケットへ立ち寄りました。日本を出発する時、長兄の大好物だったと聞いている落花生(あの当時は殻のついているものしかなく、それを自分で炒って殻を剥ぎ、豆だけを缶につめ、母親と一緒に 長兄との最後の面会に持参した)、トマト(生物は航空便持ち込み禁止で持参できず)チューブ入りトマトケチャップ一本と袋入りピーナッツ二袋は日本から供物用に持参していたのでこのマーケットでトマト十個を購入する。小粒な ものしかない。持ち歩いていたが、参拝予定が二日後とのことでガイドさんに食べていただく。
午後一時三十分,エアーニューギニアの双発プロペラ機でギルワ飛行場からポートモレスビーへ向かいました。ここでも二回の厳しい検閲を終えて搭乗しました。テロへの警戒でしょう。でも二回も三回もの検閲はうんざりです。三十五分間で到着.三時二十分いよいよウエワクへの飛行です。下界は深い深いジャングルが続く山並みです。機中でのりあわせたPNG軍隊の兵士たちは我々が日本人と知ると『私たちは山下将軍を尊敬しています。』と口々に言いました。日本人は知らない、忘れているというのに?驚きです。言葉が自由に話せないのが残念です。そして午後五時十分、ついにウエワクにつきました。
空港を出て、何処が何処なのか、西も東も何も分からないまま、バスにゆられて午後六時二十分、海岸波打ち際に建つウインドジャマー・ビーチホテルに降りました。