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Re: イレギュラー虜囚記(その3)

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あんみつ姫

通常 Re: イレギュラー虜囚記(その3)

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2007/12/18 16:51
あんみつ姫  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 485
   仕事のいろいろ

 スラビヤンカへ移動した当初は何をするのか何時まで留め置かれるのか分からずにいたが、毎日の作業で見当がついた。
つまり我々は、吉林駐屯師団の謂わば私用雑役集団で、正規?の捕虜部隊ではないらしい。従って、食糧も師団手持ちのものが支給される。

ソ連各地の収容所では、国際赤十字組織を通じて家郷通信が行われており、「日本新聞」の発行も始まっていたらしいが、我々は一切そんな事は知らなかった。我が家では、シベリヤから便りのある家があちこちに出てきたので、随分心配したらしい。

 日常作業は大体三種に分かれる。

 ▽作業場所が一定のもの。レムバーザ、縫工所、発電小屋、公衆浴場(バーニャ)のポンプ突きなど。カンボイなし。

 ▽ケチ (何の略称か忘れたが、住宅営繕部(クバルチールノ・エクスプルアタチオンナヤ・チャスチ)とでも言うのか)への要求人員の差出し。ジュワーキン大尉がラーゲリへ来て受取り、作業割当を行う。
初めての場所や遠方の作業所にはカンボイ《護送兵》同道。主に各官舎の薪作り、ペチカ造り、内外装石灰塗装、大工、左官工事など。

 ▽ラーゲリ営内作業に係るもの。炊事(ポーヴァル)、鍍金工(ジェスチャンニク)(終日バケツ作り)、厩動作と馬糧草刈り、馬六頭、担当五人。不定期の運送業務。

 概して重労働は無いが、不快な便所造り替えと、単調なポンプ突き、親切な家とコキ使う家があり、割当が不公平にならぬよう伊藤が綿密な一覧表を作成して割当てる。ジュワーキンと衝突することもある。

一方、ときどき要求される農場手伝いは、途中に鮭の上る小川があり、全員衣服を頭に、素裸で渡るのでバーバや娘達(ジエープシキ)のヴィーナス像が拝めるので人気があり、この割当ても公平を期さなければならぬ。
カンボイが小銃で射とめた鮭を土産にくれることがある。

 作業は朝八時から夕方五時頃まで八時間労働、ただしスラビヤンカ時代はノルマというものは知らなかった。

 縫製所には工藤、大西の二人。ともに洋服仕立専門職人。バーバばかりの縫製仕事など朝飯前。工藤は女どもがうるさいとラーゲリ内で仕事をするようにっつた。手ミシン、火のし、物差し、鋏などを運び込んだ。
主として将校の軍服仕立。型紙から起こすのだから本式。

大人気で、生地を抱えた将校がラーゲリに引っ切りなしに来る。そのうち師団長官舎へ通ってマダムのスーツまで作り始めた。
工藤が出来上った閣下の金ピカの上衣を腕に掛けて届けに行ったら街の人々が道を開けたと笑っていた。
軍都スラビヤンカでは師団長がお殿様だ。

 バーニヤの揚水ポンプは明治時代の火消しポンプと同じで二人ずつ背を向けて四人でギツコンパッタン。日中はいいが夕方から混み出すと休憩がなくなる。
我々も週一回最終にバーニャに入る。仕舞い風呂でもシャワーだけだから問題なし。洗濯禁止だが、遅れたバーバらと仲良くゴシゴシ。人が良いのか、捕虜を男と思っていないのか。

 ケチ作業で最もスケールの大きかったのがオハチ(将校のクラブで街の集会所も兼ね、野外ダンスホールもある)の内装工事。初めてオハチへ行ったら日ソ戦のニュース映画を見せられた。

日本軍捕虜の行進やソ連戦車の活躍などお決まりだが、塹壕から両手を挙げて出てきた日本将校が胸にベタべタ勲章をぶら下げていたのでソ側要求のお芝居と分り、馬鹿らしくなってホールから飛び出した。

映画は月に一度の割りで全員に見せてくれた。ここで初めてアメリカ映画の「ハリケーン」を見た。
ドイツによるユダヤ人大量虐殺の映画では頭髪山積の倉庫、金歯付顎骨倉庫、人皮のランプシェード、人間の脂から作った石鹸には驚いたが、ニュールンベルク裁判で絞首刑を宣告されたリッペントロップが画面が変わると死体になって転がっているのを見てギョツとした。

                           (つづく)

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あんみつ姫

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