Re: イレギュラー虜囚記(その3)
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イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/16 13:14)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/16 13:21)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/16 13:25)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/16 13:28)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/16 13:33)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/16 13:36)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 16:51)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 16:55)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 17:00)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 17:08)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 17:13)
- Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 17:17)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 17:13)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 17:08)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 17:00)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 16:55)
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Re: イレギュラー虜囚記(その3) (あんみつ姫, 2007/12/18 16:51)
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あんみつ姫
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46号官舎の人々
腹立ち紛れに46号官舎のスプルネンコ大尉にロシヤ人のベゾブラーズィエ(だらしなさ)を嘆いたら、本当にオプラゾーブァンヌイ(教養のある)のインテリ夫婦を紹介してやるとて、同じ建物の二階のポリシチュータ中佐家に案内してくれた。
中佐もアレクサンドラ夫人(サーシャ)もモスクワ大学の工学部出で、共に共産党員。四歳になるアリサという人形のような女の児が一人。
親しくなってみると、物の考え方も感じ方も我々と少しも変らず、違和感がない。
アリサの誕生日は正教通り「名の日」にしており、部屋中人形やリボンで飾っている。ソ連で名の日の祝いはどうかと質問したら、我が国の祭りは血の臭いがする。女の子に向かないという。サーシャ夫人は三十歳半ばの美人だが、言うことがはっきりしている。
二ケ月に一回の師団総合演習に全員出動すると、何をやっていることやらとか、いつか海の向こうで海軍の砲撃演習があったが、標的に全然当たらない。日本海軍なら一発でしょうと手厳しい。軍のだらしなさが腹立たしいようだ。
集会所ホールで米ソ合作のメロドラマ映画があった。ヴァイオリンの名手でオーケストラの指揮者の米国青年と、コルホーズの優秀な働き手で天才ピアニストのロシヤ娘が、モスクワの音楽会で大成功を納めるというわけだが、サーシャ夫人はソ連流の嘘映画だという。
昼間コルホーズでトラクターを運転していた娘が、その夜ピアノの名演奏など出来るはずがない。私もピアノを弾くのでよく分かるとか。成程。
十月中頃、師団長が自宅で奥さんを射殺した大事件があった。縫製作業に通っていた工藤がニュースニュースと飛んで帰ってきた。
それっと伊藤と手分けして街の噂を集めにかかったが、まず手始めにサーシャ夫人を訪ねたら、戦中、戦後のゴタゴタできちんとした結婚をしなかった人もたくさんいるので、貴方たちはそんな事に興味を持ってはいけませんと睨まれ、怖いお姉さんに叱られたようでしゅんとなつた。
スプルネンコにも彼女がいた。ある日曜日彼の部屋へ行ったらなかなかの美人がいた。奥さんかとこっそり訊いたら片目をつぶった。彼女の化粧道具で頬と唇、額にごく薄く化粧して、ゆっくり話でもしてゆけと言い残して司令部の昼食会に行ってしまった。
彼女はこちらのおでこに前髪が触れるほど顔を寄せてアルバムの説明をしてくれるのでスプルネンコに悪いような気がして早々に退散した。
スプルネンコの隣りが司令部のユダヤ人中尉。日本人贔屓で作業に来た兵隊に鍵を預けパンヤ煙草の場所を教えて出勤する。隣の小学校の女先生と夫婦気取り。
一番北の端にミナコーワというユダヤ姉妹が住んでいる。姉は集会所の事務方の主任で人使いが荒い。
妹のニーナは十五歳。二十歳くらいに見える濃艶型美女。作業の兵隊連中には際どいこともやるらしい。スラビヤンカの不良三人娘の一人で若い兵隊は喜んで作業に行く。
彼女と話をしろと盛んに勧めるので立寄ってみた。案外本もよく読んでいてゾーシチュンコの作品のレコードを聞かせてくれたり、オネーギンのタチャーナのような生活も悪くないなどと言う。プリポイの「對馬」は三日で読み上げたとか。
伊藤が何処かでせしめて来たツシマを我々は辞書片手にやっと読んでいたので、この小娘の読書力にいつ追いつけるのかと一寸がっかりした。
結局彼女はいい娘に返り、兵隊の期待には沿えなかった。
もう一人の不良は検事少佐の娘。ニーナに輪をかけたヴアンプ型で、クニヤーゼフの後任所長のアパートに出入りしていた。父親の検事少佐は娘の教育が悪かったとこぼしていた。
(つづく)
腹立ち紛れに46号官舎のスプルネンコ大尉にロシヤ人のベゾブラーズィエ(だらしなさ)を嘆いたら、本当にオプラゾーブァンヌイ(教養のある)のインテリ夫婦を紹介してやるとて、同じ建物の二階のポリシチュータ中佐家に案内してくれた。
中佐もアレクサンドラ夫人(サーシャ)もモスクワ大学の工学部出で、共に共産党員。四歳になるアリサという人形のような女の児が一人。
親しくなってみると、物の考え方も感じ方も我々と少しも変らず、違和感がない。
アリサの誕生日は正教通り「名の日」にしており、部屋中人形やリボンで飾っている。ソ連で名の日の祝いはどうかと質問したら、我が国の祭りは血の臭いがする。女の子に向かないという。サーシャ夫人は三十歳半ばの美人だが、言うことがはっきりしている。
二ケ月に一回の師団総合演習に全員出動すると、何をやっていることやらとか、いつか海の向こうで海軍の砲撃演習があったが、標的に全然当たらない。日本海軍なら一発でしょうと手厳しい。軍のだらしなさが腹立たしいようだ。
集会所ホールで米ソ合作のメロドラマ映画があった。ヴァイオリンの名手でオーケストラの指揮者の米国青年と、コルホーズの優秀な働き手で天才ピアニストのロシヤ娘が、モスクワの音楽会で大成功を納めるというわけだが、サーシャ夫人はソ連流の嘘映画だという。
昼間コルホーズでトラクターを運転していた娘が、その夜ピアノの名演奏など出来るはずがない。私もピアノを弾くのでよく分かるとか。成程。
十月中頃、師団長が自宅で奥さんを射殺した大事件があった。縫製作業に通っていた工藤がニュースニュースと飛んで帰ってきた。
それっと伊藤と手分けして街の噂を集めにかかったが、まず手始めにサーシャ夫人を訪ねたら、戦中、戦後のゴタゴタできちんとした結婚をしなかった人もたくさんいるので、貴方たちはそんな事に興味を持ってはいけませんと睨まれ、怖いお姉さんに叱られたようでしゅんとなつた。
スプルネンコにも彼女がいた。ある日曜日彼の部屋へ行ったらなかなかの美人がいた。奥さんかとこっそり訊いたら片目をつぶった。彼女の化粧道具で頬と唇、額にごく薄く化粧して、ゆっくり話でもしてゆけと言い残して司令部の昼食会に行ってしまった。
彼女はこちらのおでこに前髪が触れるほど顔を寄せてアルバムの説明をしてくれるのでスプルネンコに悪いような気がして早々に退散した。
スプルネンコの隣りが司令部のユダヤ人中尉。日本人贔屓で作業に来た兵隊に鍵を預けパンヤ煙草の場所を教えて出勤する。隣の小学校の女先生と夫婦気取り。
一番北の端にミナコーワというユダヤ姉妹が住んでいる。姉は集会所の事務方の主任で人使いが荒い。
妹のニーナは十五歳。二十歳くらいに見える濃艶型美女。作業の兵隊連中には際どいこともやるらしい。スラビヤンカの不良三人娘の一人で若い兵隊は喜んで作業に行く。
彼女と話をしろと盛んに勧めるので立寄ってみた。案外本もよく読んでいてゾーシチュンコの作品のレコードを聞かせてくれたり、オネーギンのタチャーナのような生活も悪くないなどと言う。プリポイの「對馬」は三日で読み上げたとか。
伊藤が何処かでせしめて来たツシマを我々は辞書片手にやっと読んでいたので、この小娘の読書力にいつ追いつけるのかと一寸がっかりした。
結局彼女はいい娘に返り、兵隊の期待には沿えなかった。
もう一人の不良は検事少佐の娘。ニーナに輪をかけたヴアンプ型で、クニヤーゼフの後任所長のアパートに出入りしていた。父親の検事少佐は娘の教育が悪かったとこぼしていた。
(つづく)
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あんみつ姫