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Re: イレギュラー虜囚記(その3)

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あんみつ姫

通常 Re: イレギュラー虜囚記(その3)

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11
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/12/18 17:17
あんみつ姫  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 485
   ジダーノフ布告

 三月頃からプラウダ紙に、スターリンへの誓いの手紙というのが再々載るようになった。戦後復興のために労働者、農民は労働の生産性を飛躍的に高めることを誓うという手紙が全国各地から同志スターリンのもとに連日届いている。
ソ連国民の自覚の素晴らしい光景であるという具合。

フーンと思っていたら裏があった。間もなくプラウダに発表あり。即ち、我が国の働く者の自覚のもとに、生産性が目覚ましく発展した。従って爾今、ノルマ一一〇%を一〇〇%に置き換えると。

 この論法は二十三年から激しくなった収容所の民主化運動でも使われている。即ち、我々日本人は民主主義に賛成である。ソ同盟(左翼リーダーはソ連邦とは言わない)は世界の民主主義の砦である。従ってソ同盟強化のために我々は労働に励まなければならないというワケ。

 四月の初め、ソ連共産党の思想総元締めのジダーノフの論文がプラウダ紙に三ページにわたって大々的に掲載された。紙面の写真ではジダーノフは堂々たる押し出し。論文の主旨は、文化、芸術面で思想の強化を図れというにある。

 独逸を破り、意気軒昂であるはずの国民に何でまたと思ったが、戦争で各地の資本主義国を見た連中がどっと復員し、いわゆる「害毒」を流し始めたからかとも考えた。

 七月十六日、一年ニケ月のスラビヤンカ生活を終ってダモイが決定した。ラーゲリに司令部の将校連が見送りに来た。スプルネンコ(少佐になつていた)にまた騙されるのかと言ったら、君と僕の問で嘘をつくと思うのかと実に悲しげな顔をした。
最後の最後に悪いことを口にしたと後悔した。

 マナユーヒン少尉を先頭にトラックでバンプーロボ駅へ。駅から貨車に乗って出発。ところが我々の貨車は列車の最後尾に付けられ、あちこちの駅に置き去りにされる。
仕事はなし、食糧はある。駅の風景を楽しんだり、川で水浴したり頂好頂好(テンハオテンハオ)。五時間余りで行ける浦塩へ三日経っても到着しない。

ある駅でマチエーヒンと線路の上を散歩していたら、向うから中佐が来て日く。
「君たちは一体何をしていたのだ。何処かで蜘妹の巣にでも引っ掛っているのかと一駅一駅探しながら来た。予定のダモイ列車は行ってしまった。君たちはシマコフカで草刈りだ」と言う。

草刈りしながら次の列車を待つのかと思ったら大違い。元の捕虜労働に返ってしまった。スプルネンコの真実がそのまま実らないのがソビエト連邦なのである。
                         (おわり:あとがきに続く)  

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あんみつ姫

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