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Re: イレギュラー虜囚記(その3)

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あんみつ姫

通常 Re: イレギュラー虜囚記(その3)

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2007/12/18 16:55
あんみつ姫  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 485
 ホールの内装は漆喰を削り落し、天井、壁を総て塗り直す。
天井の回り縁、壁の葡萄浮彫り模様、シャンデリヤ吊りの天井円型二重浮彫りなどは竹内、和田両専門職の独壇場。ロシア人は全員下働き。

竹内の梯子の中段で漆喰上げの中継ぎをしていた女に、下で足場を支えていた女が呼びかけたが、返事がないので「ヘーいグルハヤ・ビズダー」とは恐れ入った。顔をみたら、さすがに照れ笑いをしていた。

野外ダンスホールの手摺りのデザインは小林隊長が受持った。

(註=小林中尉は美校出身で化粧品会社のパピリオ(伊東胡蝶園)の宣伝部で花森安治と仕事をしていて絵が上手。ソ連将兵の似顔を措いて煙草を稼いでくれた。
伊藤清久死去の前年葬儀があって伊藤と共に参列したが、その当時既に伊藤は相当苦しそうだった)

 集会所ホールのあと、引続いて海岸寄りの見晴らしの良い場所にある大きな本建築のロシヤ家屋の内装工事があった。
天井剥がしでバサリと大きく落ちてきた下地に大正七年の日本の新聞一部が現れた。アメリカから有名な某女史が来て西洋料理の講習をやったが、集まった上流婦人連がゾロリとした錦紗の着物姿だったので女史にたしなめられたという記事が読みとれた。

横にいたガラス屋の爺さんに訊いたら此処は昔、日本軍の女郎屋だったとか。「唐様で書く三代目」《注》の悲哀が身に染みた。

 官舎の薪作りは毎日あり、二人一組で各家に配給された原木丸太を二人引き鋸でペチカ火床の長さに輪切りする。これは一寸した重労働。鋸の目立てが肝心。斧(タポール)で割り揃えるのは簡単。
何度も通ううちに日露双方親しくなり、親切なマダムは病欠の兵隊さんに砂糖を持って見舞に来てくれる。良い娘を紹介するからソ領に残れと勧める人もいる。

 司令部のニーニン中佐は娘を日本人に娶わせ度いらしく、娘を連れて時々ラーゲリに来る。娘は物静かなはにかみ屋だが、何しろおやじに似て六尺近い大女。日本側の希望者なし、それでもニーニン一家は日本人に親切だった。

  クニヤーゼフ所長の花嫁

 七月末クニヤーゼフ所長に嫁さんが来た。将校を夕食に招待して披露した。
バラバーシ軍団の掃除婦の娘だが、郡には稀なスタイルの良い美人。アメリカの女優ロレッタ・ヤングに似ている。ときどき手料理を作って我々にも振舞ってくれた。

 クニヤーゼフが可愛がり過ぎて二週間ほど経ったら体調不良になった。呼び出されて栗沢軍医と行ってみたらヘッポコ軍医のチモフエーエフが寝ている彼女の左脇腹を押さえて痛いかと訊いている。

アペンディチット(盲腸炎)は右だろと言ったらアアそうだそうだと頼りないこと。これでモスクワ第二陸軍軍医学校出身というのだから恐れ入る。
栗沢軍医の診断で運動過剰の筋肉痛と伝えたが、クニヤーゼフはキョトン。彼女は赤くなって毛布を被ってしまった。

それ以降余り元気ではなかったが、クニヤーゼフが半月ほど出張している間に、人員受取りに来るジュワーキン大尉と親しくなり、歩哨に知られて歩哨全員にも〝愛″を配給した。
我らがロレッタも所詮だらしないロシヤ女に過ぎなかった。

                           (つづく)

注 初代が苦労して築いた財産も三代目ともなれば 没落して つ  いに自分の家も売り出す

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あんみつ姫

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