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Re: イレギュラー虜囚記(その3)

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あんみつ姫

通常 Re: イレギュラー虜囚記(その3)

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9
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2007/12/18 17:08
あんみつ姫  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 485
   ロシヤ人のユダヤ嫌い

 インテリのポリシチユーク夫妻もスプルネンコも酷くユダヤ人を嫌う。ミナコーワ姉妹の話をしたら近づいちゃいけないと真顔でいぅ。
ポリシチユーク中佐が日本じゃユダヤ人をどう扱っていると聞くので、入国したら直ぐアメリカや上海へ送り出し、日本には殆んどいないと答えたら、それがいいと納得している。

ケチのジュワーキン大尉と街でもめていると人々は皆我々につく。彼がユダヤだからだ。

 ある歩哨は、歩いて来た男の子をつかまえて、お前の親父は司令部のユダヤ中佐だ。クゥクゥルーザ(とうもろこし)と言ってみろ、ほら、お前もユダヤだと泣かせてしまった。
ユダヤ人は、「クゥクゥ」の発音が出来ないとか。

この歩哨は、ユダヤ人は頭が良いので主計や軍医で後方におり、第一線で戦死するのはイワンの馬鹿許りと言うが、それにしてもロシヤ人のユダヤ嫌いは我々にはよく分からない。

   所長交替

 十二月初めから所長交替の噂が出た。伊藤が例の調子で、所長は解任が近づくと悪い事をすると口を滑らせてクニヤーゼフをカンカンに怒らせた。

小林隊長と自分、伊藤の三人が所長室に呼び出され「俺は今日まで君らのために出来るだけの事はした。然るに所長交替の日が近づくと、所長としての止むを得ない無理まで取り上げて、クーロフの時と同じように司令部の上級将校に訴えて復讐するつもりか」と顔色を変えている。

伊藤はゼスチュアの大きい男だから涙を流さんばかりに平謝りに謝った。クニヤーゼフには気の毒なことをした。

後任のマチエーヒン少尉は小柄でクニヤーゼフに輪をかけた好人物。翌年七月に別れるまで何の問題もなかつた。もっとも、クニヤーゼフから要警戒の申し継ぎがあったかも知れないが、矢張りマチエーヒンの人柄だと思う。

   ラーゲリ句会

 労働作業もラーゲリ内の生活も定型化して順調に流れ、気になるのはダモイの日だけになってくると、所内で俳句などひねるようになった。

  碩学の咳一咳や菊の花  
  菊の香や老妓住むてう連子窓

などペダンチックなものから    

  野葡萄も交換価値を持つソ連邦
  十五夜をレーニンの子等嘲笑い

と塩の利いたものもあった。

 百人一首をそれぞれが思い出して集めてみたが、六十首余りが限度だった。

 伊藤が何処からかガリ版のワイ歌集を手に入れて二人で迷訳をつけ、伊藤の例の読み易い字で回覧して兵隊連中を喜ばせた。ポケット版赤軍文庫からも回覧を作った。

                           (つづく)

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あんみつ姫

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