紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--3
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡-- (編集者, 2009/1/2 8:08)
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編集者
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読み書きを断たれて暗き鉄窓に黙して待つはいく月年(つきとせ)か(四月九日)
これが検挙後はじめて作った短歌だった。
一週間ほど経って、畳敷きの部屋から板敷きの独房に移された。ケヤキ造りの頑丈で薄暗い部屋だった。部屋はそれでも四畳ぐらいはあった。隅にフタをしたカメがあって、それが便器だった。毎朝八時ごろ、職員がきて部屋の鍵を開け、洗面所に連れていく。カメはそのときに自分で持っていって洗った。春とはいえ寒かった。布団をかぶって多少なりとも暖をとりたかったが、日中は布団を隅に畳(たた)んでおかなければならなかった。
以後、どこへ移されても独房だったが、読むことも書くことも厳禁で、昼間はただ座っている。もちろん寝転んではいけない。人に会うことも許されない。穴蔵か倉庫のような陰気な部屋で、もちろん錠を降ろされている。三〇センチ四方ぐらいの高窓が一つあるだけだ。どうにか字が見える明るさの五燭 (豆電球二つ分ぐらい) の電灯が天井にポッンと一つ付いている。
醒(さ)めやらぬ目(ま)ぶたをしきりにこすりおる祐子よあわれ拘引の朝
鉄窓に許されたるは深呼吸黙想黙祷《もくとう》まわれ右前
春の日はここには入らで寒かりきふとんかずきて今日も温《ぬく》もる
今日もまた取り調べなく過ぐるらし雨の降る日よトタンの壁よ
これやこの人に知られぬ道ならむ黙して仰げ主の十字架を
食事は、官弁(支給食) という差し入れ屋の弁当だ。麦飯とタクアン三片、切り干し大根がちょこっとのっている。あまりにも粗末な弁当なので、政一は長い間、カンベンというのは簡易弁当の略だと思っていた。朝食夕食の変化もない。お茶もない。喉《のど》が渇いたら、見回りの誰かが通りかかるのを待つだけだ。
「お願いしまーす」
「なんだー」
「お湯、お願いしまーす」
一椀の湯と漬け物の簡弁も心やすけくかみて味わう
ひざ頭いだきて扉によりかかり目ぶたをとじて今日もくれゆく
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編集者 (代理投稿)