紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--5
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡-- (編集者, 2009/1/2 8:08)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--2 (編集者, 2009/1/3 8:27)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--3 (編集者, 2009/1/4 8:06)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--4 (編集者, 2009/1/6 8:25)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--5 (編集者, 2009/1/9 8:24)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡・妻は・1 (編集者, 2009/1/10 8:04)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡・妻は・2 (編集者, 2009/1/14 8:40)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--妻は・3 (編集者, 2009/1/17 8:16)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--妻は・4 (編集者, 2009/1/18 8:39)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--妻は・5 (編集者, 2009/1/19 8:37)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--妻は・6 (編集者, 2009/1/20 7:49)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--妻は・7 (編集者, 2009/1/21 8:28)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--妻は・8 (編集者, 2009/1/22 9:28)
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--妻は・9 (編集者, 2009/1/25 8:13)
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編集者
居住地: メロウ倶楽部
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最晩年に、娘の祐子の質問に政一は答えている。
娘「……それで、なんと答えたの」
父「答えもしない。答えることもない。答えさせる余裕も与えなかった。だって説明させておいて、いきなり怒鳴(どな)りつけたんだから。『そこへ座れッ。土下座して謝れッ』 って」
娘「……それで、謝ったの」
父「……『はあ、申し訳ありません』て言うしかなかった」
娘「……手記に、土下座してその罪を懺悔(ざんげ)したって書いてあったけど…」
父「国体に背いたことに対する謝罪、天皇に背くことなんか考えたこともなかったから…」
娘「……その上に立っていこうと決意していた教義が、国体に反すると言われたときは、どんな気持ちだったの」
父「そんなこと、とんでもない、と思ったよ。自分は、キリストの救いの恵みを受けているし、福音は世界唯一のものとして、自分の人生を導いているし。そういう信仰で、日本人を教化していくのは、国のためにも最善をつくしていることだと信じていた。……だから、ああ断絶した、という思いだった」
娘「非国民て言われることは」
父「国民としてとんでもないことである、って気持ち」
娘「国のために一生懸命やっているのにって」
父「そうだよ。善良な、忠良な国民であるのに、非国民なんてね。不逞な教義を宣布活動するなんて言われてね。その断絶感がね……。正しいと思っていたことが否定されたんだから。圧倒的に踏みにじられたっていう感じ。国家に」
娘「そのとき、国家とか、そういう言葉で、考えたの」
父「言葉にすれば、誠意が通じない圧倒的ななにかがわたしを踏みにじっているつて感覚だよね。はじめは、訳がわからないさ。言葉が浮かぶゆとりもない。でも、それは国家さ。当時は 『国体』といっていたがね」
- その日、政一はそれで独房にもどされた。
政一は打ちのめされた。込み上げる鳴咽(おえつ)をおさえられず、慟哭(どうこく)した。
翌朝は、まぶたがはれて、人に顔をあわせられないほどだった。幸か不幸か、看守以外誰とも顔をあわすことはなかったが。
また、無為のままの日々が始まった。
鉄窓の霊なる我は悟れども肉なる我はいたく悩めり
まのあたりあいまみゆるはいつの日か妊《みご》もる妻よいとしの子らよ
聖僧の如く悟りて坐りませ飢えも渇きも責めも恥をも
娘「……それで、なんと答えたの」
父「答えもしない。答えることもない。答えさせる余裕も与えなかった。だって説明させておいて、いきなり怒鳴(どな)りつけたんだから。『そこへ座れッ。土下座して謝れッ』 って」
娘「……それで、謝ったの」
父「……『はあ、申し訳ありません』て言うしかなかった」
娘「……手記に、土下座してその罪を懺悔(ざんげ)したって書いてあったけど…」
父「国体に背いたことに対する謝罪、天皇に背くことなんか考えたこともなかったから…」
娘「……その上に立っていこうと決意していた教義が、国体に反すると言われたときは、どんな気持ちだったの」
父「そんなこと、とんでもない、と思ったよ。自分は、キリストの救いの恵みを受けているし、福音は世界唯一のものとして、自分の人生を導いているし。そういう信仰で、日本人を教化していくのは、国のためにも最善をつくしていることだと信じていた。……だから、ああ断絶した、という思いだった」
娘「非国民て言われることは」
父「国民としてとんでもないことである、って気持ち」
娘「国のために一生懸命やっているのにって」
父「そうだよ。善良な、忠良な国民であるのに、非国民なんてね。不逞な教義を宣布活動するなんて言われてね。その断絶感がね……。正しいと思っていたことが否定されたんだから。圧倒的に踏みにじられたっていう感じ。国家に」
娘「そのとき、国家とか、そういう言葉で、考えたの」
父「言葉にすれば、誠意が通じない圧倒的ななにかがわたしを踏みにじっているつて感覚だよね。はじめは、訳がわからないさ。言葉が浮かぶゆとりもない。でも、それは国家さ。当時は 『国体』といっていたがね」
- その日、政一はそれで独房にもどされた。
政一は打ちのめされた。込み上げる鳴咽(おえつ)をおさえられず、慟哭(どうこく)した。
翌朝は、まぶたがはれて、人に顔をあわせられないほどだった。幸か不幸か、看守以外誰とも顔をあわすことはなかったが。
また、無為のままの日々が始まった。
鉄窓の霊なる我は悟れども肉なる我はいたく悩めり
まのあたりあいまみゆるはいつの日か妊《みご》もる妻よいとしの子らよ
聖僧の如く悟りて坐りませ飢えも渇きも責めも恥をも
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編集者 (代理投稿)