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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡・妻は・1

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通常 紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡・妻は・1

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2009/1/10 8:04
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 第3章・1

 妻・銃後の守り……………………………一九四三年

 一九四二年のホーリネス系牧師一斉検挙のあと、政一の妻むつみは、夫にも「その時」が来るかもしれないと思った。もし万一来たら、おそらく教会はやっていけないだろう、と夫婦で語りあいもした。しかし「その時」、妻の自分になにが始まるのか、具体的なことは見当がつかなかった。

 むつみは、一九〇九年(明治四二) 佐久の農家の生まれで、八人兄弟姉妹のなかでそだった。
 幼いころ姉について佐久中込ホーリネス教会に通ったのが、キリスト教との出会いだった。野沢女学校を卒業したあと、内務省の役人だった長兄の世話で、東京高井戸の浴風園という身よりのない老人のホームで働いていたが、その兄が板橋で薬局を開いたときから兄を手伝い、日本基督教会角筈《つのはず》教会で洗礼をうけた。その後東京聖書学校で学んでいたときに、聖教会の年会に行き、佐久教会の女性牧師の紹介で政一と出会ったのだった。
 「来るものは、やはり来るのだ……」
 というのが、夫連行の朝の心境だった。
 夫がその信仰と伝道のためにこういうことになるのなら、あとはわたしが守っていかなければならないのだと、しつかりと 「銃後の守り」《注》 の覚悟はした。
 子どもたちは父親が手術をしたことを知っていたから、おとうさんはまた入院したと話した。
 しかし長男の大作には、そんな話は幼い妹たち向けだとわかっていた。

 その夜子どもたちが寝静まったあと、むつみは、本が持ち去られてすっかり空っぽになった本棚やリンゴ箱をしみじみと眺めた。日々の糧として政一が読んでいた書物は政一と不可分だった。普段元気で明るいむつみではあったが、痛みと悲しみで胸は張り裂けそうだった。階下に降りて電灯をつけ、会堂に入った。座布団を一枚とりだして座り、声に出して祈った。願わくはわが往くべき道を照らしたまえ。

 与えられた聖句は、『詩篇』 二三篇だった。

  たとい、われ死の陰の谷を歩むとも、災いを恐れじ
  なんじ、我と共にいませばなり

 そうであった。インマヌエル。神われらと共にいます。今日、この恐るべき一日を生きる力を与えられたではないか。明日という日を主にゆだね、ようやく眠りについた。

注 銃後の守り=戦線の後方。転じて、直接は戦争に参加していない一般国民の国内の守り

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編集者 (代理投稿)

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