紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡--妻は・5
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紅葉の影に--ある牧師の戦時下の軌跡-- (編集者, 2009/1/2 8:08)
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編集者
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バス停でかんかん照りの太陽にさらされながら帰りのバスを待っていると、目からハラハラと涙が流れ、とまらなかった。七か月の身重になっていた。血の気が引いていき、このまま倒れるのではないかと思った。
家にもどり聖書を開いた。十字架にかけられる前、最後の晩餐《ばんさん》の席でイエスが弟子たちに語っている場面であった。「人々は理由もなく、わたしを憎んだ」 (ヨハネ一五・二五)。イエスを信じる者もまた憎まれるという、迫害の予告の個所だった。
祈って床に就いたが、夜中に目が覚めた。身体の変調はここから始まった。
昼間聞いたことが思いだされ、鼓動が急に激しくなった。脈は数えられないほど速く打った。
真っ暗な闇へ沈んでいくようで、とても横になってはいられず、起き上がった。自分の右手で左手を握りながら、寝室のなかを歩き回った。ふと鏡に映った自分の顔を見ると土気色をしていた。覚悟を決めて隣家へ行き、戸を叩いて起こし牧師館まで来てもらった。ちょうどその時、野菜泥棒などを見張る夜警が鈴(りん)を振って通りかかるのが聞こえたので、近くの医者まで走って呼んでもらった。「心悸高進」(しんきこうしん)と診断された。
その後、何をしても動悸が速く食事も作れなかった。むつみは、望月で小学校の教員をしている弟保芳に電報を打った。妻の三枝が、二歳と三歳の娘を連れて早速手伝いにきてくれた。そのお陰で、二、三日床に着いて休めた。
娘の礼子は、同じ年ごろの従姉妹と遊べることで興奮し、食事もほぼ同量を食べた。しかしちょぅど離乳ができた時期の胃腸には、あまりにも負担が大きかった。皆の帰った夜、はげしく下痢をし、熱は四十度を越えた。大腸カタルだった。けいれんを起こした。舌を噛まないように、口に箸をかませようとしてガーゼを巻くのが間に合わず、指を突っ込んだほどだった。往診の医者はブドウ糖の注射をしてくれたが、次の注射は一週間後だと、申し訳なさそうに言った。薬は配給で、入手の方法は他になかった。
徹夜の看護がつづき、どうにか峠を越えた。
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編集者 (代理投稿)