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特殊潜航艇「海龍」・第三章 その1

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通常 特殊潜航艇「海龍」・第三章 その1

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/4/12 7:37
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 第3章 潜水学校

(1)勝つ方法は自分で考えろ
(2)予科練の歌う「若鷲の歌」
(3)防空壕での煙草
(4)柳井分校へ
(5)SS金物と対面
(6)あんなもので勝てるか
(7)操縦訓練
(8)達着訓練
(9)マストの先でも持って帰れ
(10)蛟龍組と海龍組に分かれる
(11)辞世


潜水学校(1)勝つ方法は自分で考えろ―――――――――――――――――

 昭和20年2月末、武山での海軍予備学生の基礎教育を終わって、広島県大竹の海軍潜水学校に向かう。
 ここで、旅順で基礎教育を受けた予備学生、予備生徒と合流し、総勢340名が潜水艦に関する教育を受けることになる。教官は大尉1名、中尉2名のたった3名である。

 潜水学校入校時の写真より
 第1列向かって左端が筆者



           






 教育は朝から夜9時過ぎまで、ほとんど座学で、屋外に出ての体育関係は、ほんの息抜き程度にしかやらない。階段教室での授業は、巡検《就寝前の兵舎内外の点検》時間になっても、おかまいなしに続けられた。
 最初の講義で、大尉の教官は、黒板に大きな日本地図を掲げる。関門海峡、豊後水道、紀伊水道など、日本の海の出口に赤い点がいっぱい打ってある。海峡を護る帝国海軍の艦艇が、その赤点で示してあるのかと安心する。
 「この赤い点は、敵潜水艦の所在を示す点である」。エーっ。日本全体が敵の潜水艦で取り囲まれているじゃないの。
 「これから教えることは、我々がこうして負けたということしか教えられない。どうやって勝つかは、諸君が自分達で考えた貰いたい」
 冗談じゃないよ。基礎教育を終わったばかりの我々に、どうやって勝つかが分かる訳がないだろ。
 武山での教育は勝つための精神教育であったが、大竹での教育は負けたことの認識(戦訓)教育であり、その落差の激しさに、驚いた初日であった。


潜水学校(2)予科練の歌う「若鷲の歌」――――――――――――――――

 潜水学校での我々の宿舎は、大竹海兵団の隅ッこにあった。
 朝礼の時、我々は宿舎の前の整列位置に、駆け足ではあるが、個々に集まっていると、運動場の彼方から、予科練(正確には甲種飛行予科練習生)が、それぞれ自分達の宿舎の前から、4列縦隊の隊伍を組んで、行進してくる。こちらは草色の第3種軍装であるが、彼等は真っ白な作業衣である。
   「わーかーい ちーしおーの よーかーれーんーのーー
    なーなーつ ボータンは  さーくらーに いーかーりー」
 歌声とともに整列位置まで行進して来る千人以上の真っ白な服の集団は壮観である。
 海軍内部で、こういう娑婆《しゃば=自由を謳歌できる世界》の歌は歌っていなかったが、この「若鷲の歌」は予科練を主題にした歌で、当時大流行していたので、志気高揚のため特別に許可していたのだろう。
 ああ、彼等も乗る飛行機が無く、特殊潜航艇に回されたのかと思った。
 いま記録を見ると、彼等は第14期で、1年間の基礎教程の終了(3月末)間近の連中であったようだ。


潜水学校(3)防空壕での煙草―――――――――――――――――――――

 大竹の潜水学校では、3人の教官から潜水艦の構造、魚雷、天文航法《天体の位置を測り機体の位置を測定》、地文航法《地形や地上物体を観測し機体の位置を測る》、水中聴音器などを、朝から晩まで座学の連続で教わった。
 なにしろ半年前までは、経済学、経営学、民法、商法、植民政策などを習っていた文科系学生が、基礎知識無しで学ぶのだから、教えるほうも教わるほうも大変である。
 昭和20年3月17日か18日、潜水学校に行ってから2週間そこそこの時であるが、敵艦載機による呉空襲があった。
 防空壕《敵機の攻撃から身を護る壕》に逃げ込んで、外を覗いていたら、陸軍機がやられて、防空壕から数百メートルの所に墜落した。
 防空壕に待避していたのは1時間くらいであったろうか、壕から出てきたら昼食の時間であった。ところが、教官が「防空壕の中で煙草を吸っていた学生がいる」と怒りだした。
 教官が3人でこちらが340人だから、殴っては来なかったが、ご機嫌斜めであった。
 「防空壕に待避している間といえども、本来は授業中であり、教官の管轄、統制下だ」と言いたいのであろう。こちらにすれば「対空戦闘の配備があるわけではなし、することがないのだから、煙草くらい吸って何が悪い」と、教官の怒りを無視して昼食を始めた。
 あとで、教官から「貴様達は集団で抵抗しおる」と言われた。

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