画像サイズ: 688×458 (65kB) | よく写る西のテレビ
夕食を終えて、ホテルにもどるとまだ7時だ。部屋にあったテレビをつけてみた。ニュースをやっている。キャスターは熟年の女性でいかにもオバチャンといった感じのひとだが、たんたんと語っている。チェルノブイリという言葉がきこえてくる。画面ではヨーロッパの地図に各地で測定された放射能の価が示されている。言葉はわからなくても何の話題か、およその見当はつく。これは西側からきている電波なのである。ほかのチャンネルにかえてみた。こちらは東ドイツの放送である。が、さっきの西からの放送のように画面が鮮明ではない。西のニュースは、チェルノブイリの話題につづいて東京サミットの話をしていた。天気予報では東西両ドイツの予報を公平に報じていた。
先刻、車内で会ったエンジニアさんの話では東部の一部地域を除いた大部分の東ドイツで西のテレビ放送が視聴できるとのこと。特に西部地域では東ドイツの放送よりも鮮明に見えるといっていたがその通りであった。なんでも、西ベルリンに電波塔がありそこから強力な電波を送りだしているのだそうだ。当然、東ドイツ国民はこの西の番組をみている。だから、チェルノブイリのこともよく知っている。チェコやハンガリーでも西のテレビ番組は視聴できるらしいが、こうは行かない。 西ベルリンのような飛地があるわけではないので、西との国境から遠いところまでは電波は届かない。そのうえ、また、すべての国民がドイツ語がわかるわけでもない。これをみても、東ドイツが東欧諸国のなかでも特異な立場にあるのがよくわかる。
エンジニアさんもいっていたが東ドイツのひとたちはチェルノブイリのことをひそかに心配しているらしい。しかしポーランドのように声をあげてソ連を非難することはしない。 電波は国境を越える。壁があっても地雷が埋めてあっても。ひとむかし前とは違い政府が情報操作をすることは難しくなってきている。 そのとき「もし今の東西分離の壁が壊れるとしたら、それは東ドイツからではないか。そして、その時期は、そんなに遠くないのではないか」と思った。 (実際に3年後に崩壊した)
―――なにもかにも知っていながらこの国のひとは今後もだまっているのだろうか。そんなことを考えているうちに、いつしか眠ってしまった。 |