特攻インタビュー(第1回) 後編 その2
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陸軍航空特攻 前村 弘氏(後編)その2
◆初陣!「攻撃ハ特攻トス」(2)
--------でも、そうしているうちにいよいよ出撃の時間が来たわけですね?
前村‥情報によると、敵機動部隊は浜松南方150km付近を北東に向かって進行中ということでした。攻撃機には800kg爆弾を一発のみ装備してあり、爆弾倉に収容出来ないため内部を改造拡大し、しかもワイヤーで落ちないように縛り付けてありました。機首には電気信管が取り付けられて爆弾に配線され、体当たりすることによって爆発するような仕掛けです。
いざ飛行機に乗り込む刹那、片っ方の足が土を離れる瞬間に「これで俺は二度とこの土を踏むことは出来ないのだ!」と感傷的になりました。午後3時40分、隊長機を先頭に西筑波から次々と飛び立って、飛行場を旋回しつつ3機編隊を組み、戦隊長機の直後についたときは進路を伊豆半島方面にとりました。まもなく利根川の流れが鮮明に写し出されるのが見えてきて、それを渡ってしまうと今度は、「ああ、これで利根川が見られなくなるな」と感傷的になりました。後方に利根川が見えなくなった頃、ふと我に返り、あわてて航法諸元の測定に取りかかりました。
高度8000mで飛べという指示があったんです。ところが高度8000mでは飛行機の調子が良くないみたいで、三浦中尉が高度7000mに変更して飛んだ頃には熱海上空でした。
--------高度5000mから見る風景というのは、どんな感じでしょうか?
前村‥高度5000m~7000mで飛ぶときは速度が遅い印象ですね。速度を比較する対象物がどこにもないから速いとは思わないですね。走馬灯のようには見えないでしょ、いつまでも同じ景色が見えるから。ずいぶんゆっくりだなあ、と思いましたね。
下田付近を通る頃は高度7000mの水平飛行を保ち、機長の指示で酸素マスクを着装し機内は静かな緊張した空気に包まれていました。
エンジンの音は「グワーン、グワーン」と快調な爆音を立てていました。僚機を見るとわずかばかり上下運動を行いながらピッタリとついていました。三宅島、御蔵島を左に見て通り、予定の地点から変針し目的地に直進の針路をとりました。非常に印象に残っているのは、静岡の海岸に "銭洲(ぜにす)″という小さな島があります。戦後は米軍がよく爆撃演習の目標に使ったらしいです。釣マニアから、この銭洲に行って魚を釣る話は戦後聞いたことあったけど、戦時中は爆撃照準眼鏡で銭洲を見ているんですよ。"洲″っていうだけに、島よりも小さいのですが、白波の大きさがくっきりと見えるくらい、周囲に白波が一杯立っていました。