特攻インタビュー(第1回) 後編 その3
投稿ツリー
-
特攻インタビュー(第1回) 後編 (編集者, 2011/12/12 7:39)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その2 (編集者, 2011/12/13 8:35)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その3 (編集者, 2011/12/14 8:07)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その4 (編集者, 2011/12/15 8:02)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その5 (編集者, 2011/12/16 7:31)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その6 (編集者, 2011/12/17 9:23)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その7 (編集者, 2011/12/18 9:27)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その8 (編集者, 2011/12/19 8:21)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その9 (編集者, 2011/12/20 7:31)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その10 (編集者, 2011/12/21 8:14)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その11 (編集者, 2011/12/22 8:09)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その12 (編集者, 2011/12/23 8:48)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その13 (編集者, 2011/12/24 9:04)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その14 (編集者, 2011/12/25 8:54)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その15 (編集者, 2011/12/26 9:04)
- 特攻インタビュー(第1回) 後編 その16 (編集者, 2011/12/27 7:41)
編集者
居住地: メロウ倶楽部
投稿数: 4298
陸軍航空特攻 前村 弘氏(後編)その3
◆初陣!「攻撃ハ特攻トス」(3)
--------目的地までは、どんな様子だったのでしょうか?
前村‥予想到着時刻は午後6時と機長に伝えて前方銃座に移動し、機関砲の操作要領を確認したりで忙しくしていました。洋上はわずかばかりの白波が見え、ときおり綿のような雲がふわふわと浮かんで天候は上々に思えました。目的地まであと15分くらいあたりから天候が次第に悪くなり、洋上は雲に遮られ周囲が見えなくなってきたんです。
「目的地到着!」と機長に連絡するや、「よし、降下するぞ。各人は索敵を怠るな!」という声が重々しく伝わって来ました。機は雲の中を突っ込んで降下を始めたんです。私は続けていた航跡図の記入を止めて前方銃を握り締め、このまま敵艦に体当たりするような気がしてきました。「そし敵艦が見えたらバリバリと撃ちまくり頭から突っ込んでやれ!」と思い、腹這いの姿勢になりました。
なかなか洋上が見えず機体は雲中を降下していました。するとだんだん緊張した頭の中に様々な思いがよぎってくるんです。お袋の顔、親父の姿、兄弟、姉妹、田舎の景色、勤務先であった会社の建物、友人の顔等々……。
ふと我に返り、「これではいかん、落ち着いてないから、シャバのことが浮かんで来るのだ! いかんいかん」と妄想を打ち消すよう努力しました。「そうだ何か食べれば気持ちが落ち着くだろう」と、持ち込んでいた航空食糧、乾パン、元気食、チョコレートなどを手当たり次第、口に頬張って機関砲の引き金に神経を集中していたんですよ。
--------緊張感が高まりますね。
前村‥突然上の方からバリバリと音がして、後上砲の今軍曹が撃ち始めました。「敵機来襲っ!」と機長が怒鳴る声も聞こえました。その瞬間に左前方から黒い影のような機影が交差して見えなくなった。これは敵戦闘機だなと思いました。今度来たら撃ち落としてやれと身構えて注意を払っていたんですが、これがなかなか来ない。右後方から曳光弾が激しく飛んできては、大きく弧を描いて空に消えてゆくんです。外はほとんど暗くなって僚機の影も見えません。
「よーし、この下に機動部隊がいるぞ、もっと突っ込むから注意しろよ!」と機長の声がしました。「はいっ!」と言って眼を皿のようにして索敵しました。洋上が見えたのですが、暗くて視界は300mあったかなかったかでした。
機長は500mくらいの高さで飛行を続けて時々旋回をしていました。10分も経過した頃でしょうか、突然パーツと機内が明るくなり、パーン!と炸裂音が機内に響きました。しまった!高射砲にやられたっ!と思ったのですが、エンジン音に変化はなく機は順調に飛び続けていました。
--------そのときの機内の皆さんの様子はいかがでしたでしょうか?
前村‥伝声管から「前村! お前どこかケガをしたろう!」と機長の声がしました。「いいえ大丈夫です」「いや何処かケガをしたはずだ、もう一度体を触って見ろ!」。私は足の先から頭まで触って見ましたが、どこもケガはなかったんです。「大丈夫です」と答えると機長は「良かったなあー、充分気をつけろ!」と安心された様子でした。間もなく「どうも (敵機動部隊が)見つからん、燃料もないから浜松に帰るぞ、針路は何度か?」と私に尋ねられました。
しまった!航跡図は目標地点から何もやっていない、さあ困ったぞと思ったのですが、とっさに考えました。目標地点から測定すると大体358度の方向だったので、念のため2度ほど修正して「356度!」と機長に答えたものの、気が気ではなかったです。ええい!何とか陸地に着くだろうと、運を天に任せました。