特攻インタビュー(第8回)・その4
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編集者
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◆水上機の操縦 1
--------飛行訓練が始まった頃のことを教えてください。
粕井‥私の兄が、川西航空機という飛行艇や水上機を製造している会社の技術者で、戦時中、北浦海軍航空隊(現・茨城県潮来市)で水上機の整備をしていました。そういうこともあって三座水偵……3人乗りの水上偵察機の操縦を希望しました。他の人は大体、戦闘機を希望しましたね。水上機希望者が少なかったせいか、希望通り、水上機操縦の練習航空隊だった博多航空隊に転勤になりました。
練習機教程で最初に飛行機に乗る完熟飛行というのがあります。下士官の教員に乗せてもらって離水するわけですが、エンジンが回ったと思うと水柱というか、すごい波が立って、飛行機が動き始めると、もう波しぶきがいっぱいでしょう。波の抵抗に対して、操縦悍やフットバー(方向舵)をパッパパッパと修正しなければいけない。それが神業のように見えるわけです。
アッと思うと、もう水面が下の方になっている。「うわ、こんな神業みたいなことが果たして俺に出来るんやろか」と思って最初はびっくりしました。しかし、それも慣れで、そのうちに人並みには何とかやれるようになりました。
--------水上機の操縦方法は独特なのですか?
粕井‥上空では地上機とほとんど一緒ですが、水上機の場合はフロートがついていますから空気抵抗があります。宙返りなどの特殊飛行でも、陸上機の方がスピードがつきやすいですから楽です。
一番違うのは離水と着水です。離水する場合、水上機というのは、エンジンを入れるとまず機首が上がるんです。そして、スピードがついてくると機首が下がるんです。ところが、あまり下げすぎると波頭にフロートが突っ込むと危ないわけですから、適当な角度で加速しなきゃいかんわけです。そして最後に、まさに離水する直前にフロートをちょっと、おしりをピュッと上げるんです。ということは操縦悍を前へ倒すんです。そうするとおしりが上がって、スーツと上がっていくんです。ところが陸上機は、エンジン人れて、だんだんとスピードがついてくると機首が下がります。そのままの上昇の角度そのままでスーツと上がっていくんです。だから水上機に比べて陸上機はものすごく楽です。
それから着陸の場合、水上機は波とかうねりにフロートを取られてはいけませんからダウンの格好です。マイナス3度ぐらいの角度で降りていくわけです。そして15mのところでエンジンを絞って、だんだんと機首を上げて、一番機首が高い失速直前のところでチャッと着水するわけです。これが水上機です。ところが陸上機はそうではなくて、ずっと高いところからパス姿勢で入る時にはアップ、たしかI度ぐらいだったと思います。このままの姿勢で降りてくるわけです。そして航空母艦の艦尾、軽い飛行機の場合5mです、5mのところでエンジンをいっぱい絞って三点着陸です。水上機は失速寸前までこうアップする。陸上機は三点着陸ですから、陸上機のほうが楽です。それから陸上機の場合は、いわゆる着陸誘導板というのがありまして、それが赤と白の平行線が一直線に見えるようにエンジンをふかしたり、しぼったりしながら降りていけばいい。水上機の場合はそういうものがありません。海の上ですから。だから非常にそういった点は難しかったです。
--------飛行訓練には練習機教程と実用機教程がありますが、練習機と実用機では操縦方法が違いましたか?
粕井‥昭和19年4月、博多での練習機教程を終え、実用機教程は四国香川県の詫間海軍航空隊に移って行われました。詫間には零式水上偵察機がありました。零式水上偵察機には練習機にない水中方向舵があるんです。練習機ではエンジンと感覚だけで水上を滑走しなければいけない。ところが、水中方向舵があると非常に方向転換がやりやすい。それから実用機になりますと飛行機のプロペラの角度を変えるわけです。離着水のときにはローピッチにして、巡航速度になるとハイピッチにするわけです。それから、エンジンの温度、筒温を上げすぎず、下げすぎないために、エンジンカウリングを開いたり絞ったり。それから、着水離水するときフラップを上げ下げする。練習機と比べて、そういういろいろな操作がありました。
--------お話を聞いているだけで頭が混乱しそうですが、そういうのは、訓練で自然と覚えられるのですか?
粕井‥そうですね。練習機の時は誘導コースを回る時間も短かったですが、実用機で飛ぶ場合は長い距離を飛ぶわけですから。あわてて操作しなくても、順番にやっていけばいいわけです。だからむしろ、長距離の場合、安定した実用機の方が楽です。特に、実用機教程で使った九四式水上偵察機というのは……ガダルカナル攻撃にも使った三座の水上偵察機ですが、上空での操縦性能が非常に安定していましたから、そういう飛行機だと手を離していても、ひとりでに楽に飛んでくれました。
--------水上機の場合、どのような訓練が中心だったのでしょうか?
粕井‥水上機は長距離偵察が重要な任務ですから、訓練では計器飛行が非常に重視されました。天候不良とか夜間の場合には計器飛行の技術が非常に大切ですから。それから潜水艦攻撃です。
「潜爆」と言っていました。潜水艦に対して、30度くらいの緩降下爆撃を行います。空母などから出撃する艦上爆撃機は、急降下爆撃と言って、45度以上で突っ込みましたけど、私たちの場合は30度の角度で潜水艦攻撃をやりました。
それから夜間定着。これが怖いんです。陸上機の場合、夜間でもライトの先ほどに着陸誘導板(誘導灯)というのがあるから進入角度がわかるわけです。ところが水上機の場合、そういうものがありませんから、高度100mからアップ2度からアップ3度ぐらいの姿勢で速度プラス10ノットか15ノットでもってエンジンを絞りながら、そのままずっと降りてくるわけです。そしてフロートが海面に着いたとたんに、エンジンを絞って操縦悍をゆっくり引くわけです。だから、非常に手探りで、特に海面が暗くて見えにくい時は危険が伴いました。