特攻インタビュー(第8回)・その13
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特攻インタビュー(第8回) (編集者, 2013/5/17 6:31)
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編集者
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◆特攻出撃三十分前 2
--------遺書とかを書きましたか?
粕井‥いや、遺書は書いてないです。というのも、他の部隊の場合、特攻に行くというのは最初からわかっているわけです。例えば、詫間で一緒にいた連中なんか、詫間で爆弾を積んで指宿まで行っています。零式水上偵察機に積む800㎏爆弾が指宿にないんです。だから、詫間で積んで指宿まで飛んでいる。九四式水偵の場合、500㎏爆弾は指宿にあったから何も搭載しないで飛んで、指宿で500㎏爆弾を積んで出撃する。だから、詫間を出るときには、もう突っ込むということがわかっているんです。
ところが、私たちの場合、とてもじゃないが沖縄まで飛べない。しかも練度は低い。だから、いよいよ、敵が日本本土に接近してきた時に、何でも使って少しでも敵の上陸を阻止しなければいかんという切羽詰った状態で出撃するわけです。戦術的には最後の手段だったわけです。
戦後、戦友会に200人の中、50人か60人ほど来ましたが、特攻隊から外れた連中もたくさんいる。むしろ、その方が多いんです。それから特攻でも、その日のメンバーはたった12人ですから、その12人のうち、士官や下士官を除いた練習生は7、8人ですから、誰がメンバーだったかはっきりわからないし、その話になると皆、あまり話たがらない。ですから、その時の真相は未だにぼんやりしています。私の飛行機に燃料をどれだけ積むかと整備員が言った時、「半分でいい」と答えた隊員がいた。それを知ったのは戦後のことなんですけど、それを聞いていたのは、私の仲人をしてくれた男ですが、これも死んでしまいまして。なんかこう、未だに雲に包まれたような状態のままです。
--------30分前待機になった時、出撃する場所は決まっていたのですか?
粕井‥いや、敵の艦船の位置がはっきりわからないんです。だから、位置はどこそこから南南東何マイルのところ、艦船はどういう構成で、どの方向に進んでいるかという具体的なことがわからない。輸送船なのか、軍艦なのか、軍艦でもどういう種類なのかという、それも、全然わからないわけです。だから、その偵察もどの程度、本当だったか。日向灘で偵察機がよく落とされていました。九州には佐伯とか博多とか水上基地がたくさんありましたが、三座水偵の偵察機がよく落とされました。機銃が旋回銃1挺しかないですから。私の教官だった松阪中尉も哨戒で戦死しています。その前に電信を打つわけですが、それも打っている途中で撃墜されると敵機が空母からのものなのか、あるいは基地からの飛行機なのかということもはっきりわからないままで、情報も非常に不正確になるんです。
--------出撃命令が出た8月10日と言えば、すでに広島と長崎に原爆が落とされていますが、ご存知でしたか?
粕井‥広島ははっきり聞きました。長崎に落ちたぞということも聞きました。ピカツと光ったら物陰に隠れろというわけです。軍服も全部カーキ色に染めました。ところが、カーキ色の服は新型爆弾に弱いというわけです。白い服だったら反射して被害が少ないから白を着ろというのですが、白い服なんてありませんもの。そういうことで、情報というのは断片的に聞こえてくるわけですが、それが噂だったり、誇大だったり、あるいは過小に握りつぶされたりでした。
--------赤トンボの特攻は最後の手段というお話がありましたが、その頃は、その最後の手段を使わなければならない状況だったようですね。
粕井‥そうです。東京も大阪も焼け野原。大阪の私の家も残っているかどうかわかりません。何万人も被災して殺されている。言ったら戦地も銃後もないわけです。どっちが安全かと言っても、自宅にいても、全然、安全じゃないわけです。じゃあ、同じ死ぬなら戦果を立てて潔く死のうじゃないかと。一対一で戦っても1人殺せるかどうかだけど、飛行機に乗ってうまくぶち当たれば何百人と刺し違えることができる。わが家は兄や弟もおる。兄は長男で家を継がなきゃいかん。弟はまだ小さい。なら、次男の俺が死ぬのは当たり前じゃないかと。戦友もずいぷんと倒れていった。じゃあ、俺も、恥ずかしくないような死に方をしようということです。