硝煙の海 菊池 金雄 17
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編集者
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南方航路
南国で迎春
昭和十五年十二月末、北ボルネオでラワン材を積み込み、同島北岸に仮泊して昭和十六年の新年を迎えた。
私にとっては始めて船上の迎春であったが気候が日本の真夏なのでピンとこなかった。
まず全員が礼装して母国に向かって遙拝後、記念撮影。サロンで賄い部心尽くしの豪華な正月料理を囲み乾杯。平和な海での船内パーテーは、大家族的雰囲気で盛り上がった。
軍のスパイ暗躍
あるときビルマ(現在のミャンマー)のラングーンに外米積み込みに就航した。
従来本船には専任の事務長は不在で、チーフオフィサーが兼務していた。なぜかこの航海に事務長なる人物が乗り込んできた。彼は英語が得意なので、現地で買い物するときなど皆から重宝がられていた。私も彼の巧みな話術に便乗して、背広の生地を買った筈である。
某日。サンパンで帰船する船員に紛れ込み、事務長と一緒に現地青年数人が密かに乗船してきた。多分、日本への留学生なのかと思っていた。
数学が得意の電気技師の出問に正解するなど、教養のある青年たちのようだった。
荷役が終わったので日本向け帰港の途につき、マラッカ海峡を通過してシンガポール沖にさしかかったとき、英軍機が一機飛来した。
そのとき事務長が、デッキに出ていたこの青年たちに「すぐ室内に入れ」と、厳命していた。一体彼らは何者だろうと船員たちは不審に思っていた。
東京に入港間近になったとき、彼の事務長が参謀本部に「託送品授受」の電報を打ったので、やっと彼は軍の諜報機関の者と推察された。
この青年たちは戦中、戦後どのような人生をおくったことであろうか。