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硝煙の海 菊池 金雄 25

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通常 硝煙の海 菊池 金雄 25

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/3/13 8:08
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298

 マニラ湾に仮泊

 ジャワ島からの帰路、マニラ湾に仮泊したことがあった。港外はうねりがあり、海軍の機動艇移乗はタラップ(舷梯)でなくジャコップ(縄梯子)を使用した。

 うねりで上下する起動艇に飛び下りるタイミングが大変で、上陸をあきらめる者もいた。

 当時各輸送船には海軍の警戒隊員(輸送船装備の武器を取り扱う兵隊)が乗船し、彼らと船員がそれぞれ仲良く上陸した。

 私もマニラは初めてなので仲間と上陸、常夏の繁華街をぶらついた。

 ここはアメリカナイズの色濃く、派手な衣類や日用品等が店々にあふれ、現地女性の強烈な香水が鼻をついた。

 私はここでジレットの安全カミソリを買った記憶がある。

 市街にはほどよく街路樹があり、マニラ湾も絶景で南国のオアシスのように感じた。


 船内刺殺事件発生

 帰船する機動艇に乗り合わせた一人の酒に酔った海兵が、ジャコップ飛びつきに失敗して海に落ち、ずぶぬれのまま何の不満か司厨長室にどなり込む気配があった。

 司厨長はとっさに片手に柳包丁を持ち、ドアを内部から抑えていたが腕力でドアを開け、途端に海兵は柳包丁に自分からのしかかり、運悪く即死するという突発事故が起きてしまった。

 司厨長は「殺すつもりはなかった」と遺体に泣きくずれた姿は哀れであった。

 この海兵の不満の原因は、海兵側の軍票(戦地、占領地で軍が正貨に代えて発行する紙票)交換で事務長に不信があったらしく、司厨長の所掌外のことを誤解していたものと推察された。

 こともあろうに軍属が軍人を刺殺した形となったので、船長は経緯を詳しく軍に説明し、穏便な処理を要望したことは当然である。

 しかし残念ながら彼は拘束され、軍法会議に付されることになってしまった。

 彼は人柄もよくメニューも好評で、船側としては実に痛恨にたえない事件であった。

 当時、蘭印方面の航路は時々敵潜が出没する程度で、海兵たちは通常訓練と見張りが主で、船員からみると、なかば徒食しているようにも見えた。

 彼らと船員との仲は親密であったものの、手持ちぶたさから内心何か鬱積したものがあったのかも知れない。 本件処理は戦時下とはいえ、船員側としては甚だ遺憾にたえないものがあった。

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