イレギュラー虜囚記(その2)
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イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/8 22:02)
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- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/13 16:25)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:40)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:47)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:51)
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投稿日時 2007/12/8 22:02
あんみつ姫
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とうとう部隊を離れて通訳稼業へ
一服していると、前方から何か騒ぎが移ってくる。ロスの兵隊が、時計、万年筆、シガレットケース、皮製品など金目のものを日本兵から巻き上げているらしい。
寝台車から田中隊長が戻ってきて、輸送本部へ来いという。行ってみると車の中程に佐官《さかん=将校の内大佐中佐少佐級の人》が五、六人いる。
「やあ、君はロシヤ語がうまいそうだね。まあ坐り給え」といやに愛想がいい。隊長の話では、最初我々の合流を嫌がっていたが、ロシヤ語の分かる者がいると知って直ぐ承諾したとか。現金なものだ。
車内は上級将校と女、子供ばかり。のべつにソ連兵が入ってきて、長靴を寄こせの、図嚢《ずのう=地図などを入れる皮製のカバン》だ、時計だと奪いに来る。自動小銃や剣付き狙撃銃を突きつける。
しかたなく自分が出て、「そんな事をすると本部(シタープ)へ報告するぞ、向うへ行け」と追っ払う。びっくりしたような顔をする奴、ぐずぐず言う奴などさまざまだが、何も取らずに次の車輌に移る。
中には「ニッポンバンザイ、両手を上げて降参したろ、何を文句言うか」と捨てぜりふで行く奴もいる。あちこちの車輌から通訳さん来て下さいと喧しい。いちいち聞いていたらラチが開かぬ。
停車場司令部へ行って頭のツルリと禿げた人の良さそうな少佐をつかまえ、状況を訴えて取締りを頼む。彼は「なに、そんな悪い兵隊がいるのか。そりゃいかん。君、そんなのがいたら俺の所へ引っ張って来てくれ。厳しく処罰するから」と言う。
「冗談じゃない。自分は日本軍の将校ですぜ。ロシヤの兵隊を捕まえられますか」「いやいや、何でもない。連れてきてくれ」と、この少佐め、うまく逃げて兵隊の掻払いを黙認する気だ。
列車は、朝から止っているが、ソ連側から何の指示もないとのこと。昨夜の近歩一《近衛歩兵第一連隊》はどこかへ移動したらしい。青木中佐の命令でときどき司令部に指示を求めに行くが、「すぐだ」と言うだけでさっぱり要領を得ぬ。随分呑気な軍隊もあるものだ。
午後三時すぎ、やっと恰幅の良い大佐が馬に乗って来て、全員下車して被服、糧秣を降ろせと言う。入れ代わりに精悼な顔付の大尉が来て、積み卸し司令の少佐の代理だ、米は米、被服は被服と類別せよとテキパキ指示を出す。
被服梱包の中には、結構将校行李《将校用の私物身の回り品を入れる行李》が多い。蓋が明いて、細君のらしい派手な着物がこぼれている。
二時間で積卸し完了。トラックへの積載要員三百名を残し、他は駅から六粁の吉林師道大学のラーゲリに入ることになった。
自分は、日ソ両方から通訳さん、ベレヴォッチク《通訳》とあちこちへ引っ張り回されて大忙し。我が小隊も出発することになった。
ソ軍の積み卸し司令は昨夜見かけたアバタ面のカラヴァーエフという大男。誠に口喧しく、かつ歩き、かつ怒鳴り、寸時も止まるところ知らず、なかなかこの大将に付いて回るのは骨が折れる。
「小隊が出発するから一緒に行く」と言ったら、「いや、お前は我々と一緒だ」ときた。えらい事になった、こんなのに捉まったらどうなるかと心配していると、少佐は気配を察したか、「なに、通化《つうか=中国吉林省西南の都市》から毎日二本列車が入る。それが済んだら万事終りだ」と言う。致し方なく承諾。
これで、本隊から千切れ、自分の小隊からも千切れて、到頭一人ぼっちになってしまった。
カラヴァエフ少佐、精悼な大尉のプーシキン(註=目付役のゲペウ《ソ連代表部警視庁》だったかも知れぬ)に青木中佐と副官、自分の五人が積み卸し本部だ。カラヴァの動くところ必ずその後について回ることになった。
何軒目かの貨車でひょっこり牡丹江教育隊時代の中里候補生に出会い、夏上衣をもらった。これでやっと将校らしく格好がつく。階級章がないと軍属通訳と間違えられる。
夕暮れになって夕立があった。米俵のシートの下で雨宿り。カラヴァが「雨の降る日は酒を飲むのがいいな」と笑う。サケ、フムフムと青木少佐が愛想顔を作るが、ぎこちなくて哀れに見える。カラヴァの尻について回る自分も哀れだ。
夜に入って、スチエードベーカー《米国製トラック》が三十両到着し山のような物資の徹夜輸送開始。眩いばかりのヘッドライト、落着いた力強いエンジンの響き、外国の近代的軍隊の感が強い。前車輪も起動式になっているのには驚いた。
米国からの援助物資は相当なものらしい。ソ連兵の缶詰まで米国製だ。ツションカ(牛缶)と大きくロシア文字が出ており、星条旗が描かれイリノイ州と印刷されている。
(つづく)
一服していると、前方から何か騒ぎが移ってくる。ロスの兵隊が、時計、万年筆、シガレットケース、皮製品など金目のものを日本兵から巻き上げているらしい。
寝台車から田中隊長が戻ってきて、輸送本部へ来いという。行ってみると車の中程に佐官《さかん=将校の内大佐中佐少佐級の人》が五、六人いる。
「やあ、君はロシヤ語がうまいそうだね。まあ坐り給え」といやに愛想がいい。隊長の話では、最初我々の合流を嫌がっていたが、ロシヤ語の分かる者がいると知って直ぐ承諾したとか。現金なものだ。
車内は上級将校と女、子供ばかり。のべつにソ連兵が入ってきて、長靴を寄こせの、図嚢《ずのう=地図などを入れる皮製のカバン》だ、時計だと奪いに来る。自動小銃や剣付き狙撃銃を突きつける。
しかたなく自分が出て、「そんな事をすると本部(シタープ)へ報告するぞ、向うへ行け」と追っ払う。びっくりしたような顔をする奴、ぐずぐず言う奴などさまざまだが、何も取らずに次の車輌に移る。
中には「ニッポンバンザイ、両手を上げて降参したろ、何を文句言うか」と捨てぜりふで行く奴もいる。あちこちの車輌から通訳さん来て下さいと喧しい。いちいち聞いていたらラチが開かぬ。
停車場司令部へ行って頭のツルリと禿げた人の良さそうな少佐をつかまえ、状況を訴えて取締りを頼む。彼は「なに、そんな悪い兵隊がいるのか。そりゃいかん。君、そんなのがいたら俺の所へ引っ張って来てくれ。厳しく処罰するから」と言う。
「冗談じゃない。自分は日本軍の将校ですぜ。ロシヤの兵隊を捕まえられますか」「いやいや、何でもない。連れてきてくれ」と、この少佐め、うまく逃げて兵隊の掻払いを黙認する気だ。
列車は、朝から止っているが、ソ連側から何の指示もないとのこと。昨夜の近歩一《近衛歩兵第一連隊》はどこかへ移動したらしい。青木中佐の命令でときどき司令部に指示を求めに行くが、「すぐだ」と言うだけでさっぱり要領を得ぬ。随分呑気な軍隊もあるものだ。
午後三時すぎ、やっと恰幅の良い大佐が馬に乗って来て、全員下車して被服、糧秣を降ろせと言う。入れ代わりに精悼な顔付の大尉が来て、積み卸し司令の少佐の代理だ、米は米、被服は被服と類別せよとテキパキ指示を出す。
被服梱包の中には、結構将校行李《将校用の私物身の回り品を入れる行李》が多い。蓋が明いて、細君のらしい派手な着物がこぼれている。
二時間で積卸し完了。トラックへの積載要員三百名を残し、他は駅から六粁の吉林師道大学のラーゲリに入ることになった。
自分は、日ソ両方から通訳さん、ベレヴォッチク《通訳》とあちこちへ引っ張り回されて大忙し。我が小隊も出発することになった。
ソ軍の積み卸し司令は昨夜見かけたアバタ面のカラヴァーエフという大男。誠に口喧しく、かつ歩き、かつ怒鳴り、寸時も止まるところ知らず、なかなかこの大将に付いて回るのは骨が折れる。
「小隊が出発するから一緒に行く」と言ったら、「いや、お前は我々と一緒だ」ときた。えらい事になった、こんなのに捉まったらどうなるかと心配していると、少佐は気配を察したか、「なに、通化《つうか=中国吉林省西南の都市》から毎日二本列車が入る。それが済んだら万事終りだ」と言う。致し方なく承諾。
これで、本隊から千切れ、自分の小隊からも千切れて、到頭一人ぼっちになってしまった。
カラヴァエフ少佐、精悼な大尉のプーシキン(註=目付役のゲペウ《ソ連代表部警視庁》だったかも知れぬ)に青木中佐と副官、自分の五人が積み卸し本部だ。カラヴァの動くところ必ずその後について回ることになった。
何軒目かの貨車でひょっこり牡丹江教育隊時代の中里候補生に出会い、夏上衣をもらった。これでやっと将校らしく格好がつく。階級章がないと軍属通訳と間違えられる。
夕暮れになって夕立があった。米俵のシートの下で雨宿り。カラヴァが「雨の降る日は酒を飲むのがいいな」と笑う。サケ、フムフムと青木少佐が愛想顔を作るが、ぎこちなくて哀れに見える。カラヴァの尻について回る自分も哀れだ。
夜に入って、スチエードベーカー《米国製トラック》が三十両到着し山のような物資の徹夜輸送開始。眩いばかりのヘッドライト、落着いた力強いエンジンの響き、外国の近代的軍隊の感が強い。前車輪も起動式になっているのには驚いた。
米国からの援助物資は相当なものらしい。ソ連兵の缶詰まで米国製だ。ツションカ(牛缶)と大きくロシア文字が出ており、星条旗が描かれイリノイ州と印刷されている。
(つづく)
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あんみつ姫