Re: イレギュラー虜囚記(その2)
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イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/8 22:02)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/8 22:08)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/9 14:38)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/9 14:56)
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- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/13 16:19)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/13 16:25)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:40)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:47)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:51)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:58)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 13:05)
あんみつ姫
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図們(トゥーメン)を経て琿春へ
丁度その頃、突然検査があって、ナイフ、爪切り、鋏まで取上げられた。栄光ある赤軍が捕虜日本軍の鋏が怖いのかと皮肉ったら昨日、十粁程向うに日本軍が現れ、ソ連兵が大分刺殺されたという。勇ましいのがいるものだ。内心快哉を叫ぶ。
十月未、ヤコブレフ少尉が吉林へ味噌受領に行くから一緒に来いという。前日歩哨に誤射されて両脚貫通の男二人と患者一人を連れてスチュドベーカーで出発。運転は日本人。吉林の街外れの旧満軍病院に引渡し、師道大学へ。
将校団はもういない。
満州人造石油会社の社員、赤ん坊もいれた家族約80人がいた。内地に帰ると言っていたが、ソ連は入ソさせて人造石油関係の仕事に就かせる予定のようだった。別の教室棟に満軍40人と、殆んど地方人の抑留者が50人ほどいる。自分が此処の責任者にされた。211大隊ともお別れだと思った。
棟の半分は少佐を長とする満軍《満州国の軍人》。彼らは我々が豊満へ行く前から居たが、今は半分に減っている。抑留者はやはり吉林在住の地方人で、警察官が多い。将校室と称する部屋に、日系の満軍大佐を長として満軍関係の日本人将校六人と、日本軍軍医が二人居る。
最初は何故自分を長とするのかと思ったが、夜になって分かった。抑留者は吉林に家族のある人で軍人でもないのに満人の手でソ連側に引渡されたのだから、四六時中逃亡の機会を窺っている。夜中は建物の周囲に煌々と電灯を点け、四隅に歩哨が立つ。就寝中でも消灯は許されない。
逃亡者はヒューズを切って五、六人一斉に逃げる。電灯がバッと消えると、歩哨は外から室内に盲射《めくらうち》ちで自動小銃をぶち込む。真暗な中を青い光がパチパチと壁で光る。ヒューズを入れるまでシャワーのように射ち放し。危いことこの上なし。
爾後、電気が消えたら寝台代りの机から飛び下りて床に伏せる要領を覚えた。照明が回復した時は脱走劇は終り。
将校室からも一人逃げた。中年の満軍中尉で、毎日綿入れリュックを縫っていた。頭に被って弾除けにするというので冗談だと思っていたら到頭逃げた。自分が毎朝、逃亡者の件で所長から怒鳴られて苦労しているのを知り乍らひどい奴だと思ったが、逃げた以上無事を祈るのみ。
最も下手だったのは、朝の歩哨交替引継ぎ中を見澄まして逃げ出した連中で、上香山班の歩哨に追い詰められて二人射殺された。交替中は歩哨の数が二倍になることを計算しなかったのか。
所長が、日本人か支那人が調べて証拠を持って来いという。一粁ぐらい先の畑の中で20米ほど離れて二人転っている。一人は左耳にポカリと大穴が開き脳漿が流れ出し、もう一人は左半身上から下まで蜂の巣状にポツポツと黒い穴。自動小銃の弾は、あまり貫通はしないようだ。生暖かくて白眼、鼻汁の死体を転がしてポケットを探るのはいい気持ではない。家族のことも思いやられる。
二人とも良民証を持っていたが、ソ軍はこれを民間人の証明とは見ていない。あくまで脱走日本兵扱いだ。それが証拠に、ソ軍所長は、戦友を捨てて、逃げるような男の遺髪など保存する必要なし、死体は捨てておけと取りつく島もない。逃亡騒ぎが連日続くので歩哨連中も激しく当たってくる。
満軍の方も同じで、夕方20人の作業に出て半分しか帰って来なかった。満軍も抑留される理由がないと不平満々。
ソ側に出す嘆願書を翻訳してくれと隊長の少佐に頼まれた。日本語の上手な若い上品な男だ。所長室で開けてみたら、日本の罪悪を書き連ね、我々をその桎梏《しっこく=束縛》下から開放してくれた赤軍に感謝する。ついては今の抑留からも解放して欲しいと赤軍への阿諛《あゆ=へつらい》と日本の罵倒《ばとう=ののしり》で一杯。概略を説明して「日本軍の将校として、これは翻訳出来ない」と断った。所長も了解してくれた。
(つづく)
丁度その頃、突然検査があって、ナイフ、爪切り、鋏まで取上げられた。栄光ある赤軍が捕虜日本軍の鋏が怖いのかと皮肉ったら昨日、十粁程向うに日本軍が現れ、ソ連兵が大分刺殺されたという。勇ましいのがいるものだ。内心快哉を叫ぶ。
十月未、ヤコブレフ少尉が吉林へ味噌受領に行くから一緒に来いという。前日歩哨に誤射されて両脚貫通の男二人と患者一人を連れてスチュドベーカーで出発。運転は日本人。吉林の街外れの旧満軍病院に引渡し、師道大学へ。
将校団はもういない。
満州人造石油会社の社員、赤ん坊もいれた家族約80人がいた。内地に帰ると言っていたが、ソ連は入ソさせて人造石油関係の仕事に就かせる予定のようだった。別の教室棟に満軍40人と、殆んど地方人の抑留者が50人ほどいる。自分が此処の責任者にされた。211大隊ともお別れだと思った。
棟の半分は少佐を長とする満軍《満州国の軍人》。彼らは我々が豊満へ行く前から居たが、今は半分に減っている。抑留者はやはり吉林在住の地方人で、警察官が多い。将校室と称する部屋に、日系の満軍大佐を長として満軍関係の日本人将校六人と、日本軍軍医が二人居る。
最初は何故自分を長とするのかと思ったが、夜になって分かった。抑留者は吉林に家族のある人で軍人でもないのに満人の手でソ連側に引渡されたのだから、四六時中逃亡の機会を窺っている。夜中は建物の周囲に煌々と電灯を点け、四隅に歩哨が立つ。就寝中でも消灯は許されない。
逃亡者はヒューズを切って五、六人一斉に逃げる。電灯がバッと消えると、歩哨は外から室内に盲射《めくらうち》ちで自動小銃をぶち込む。真暗な中を青い光がパチパチと壁で光る。ヒューズを入れるまでシャワーのように射ち放し。危いことこの上なし。
爾後、電気が消えたら寝台代りの机から飛び下りて床に伏せる要領を覚えた。照明が回復した時は脱走劇は終り。
将校室からも一人逃げた。中年の満軍中尉で、毎日綿入れリュックを縫っていた。頭に被って弾除けにするというので冗談だと思っていたら到頭逃げた。自分が毎朝、逃亡者の件で所長から怒鳴られて苦労しているのを知り乍らひどい奴だと思ったが、逃げた以上無事を祈るのみ。
最も下手だったのは、朝の歩哨交替引継ぎ中を見澄まして逃げ出した連中で、上香山班の歩哨に追い詰められて二人射殺された。交替中は歩哨の数が二倍になることを計算しなかったのか。
所長が、日本人か支那人が調べて証拠を持って来いという。一粁ぐらい先の畑の中で20米ほど離れて二人転っている。一人は左耳にポカリと大穴が開き脳漿が流れ出し、もう一人は左半身上から下まで蜂の巣状にポツポツと黒い穴。自動小銃の弾は、あまり貫通はしないようだ。生暖かくて白眼、鼻汁の死体を転がしてポケットを探るのはいい気持ではない。家族のことも思いやられる。
二人とも良民証を持っていたが、ソ軍はこれを民間人の証明とは見ていない。あくまで脱走日本兵扱いだ。それが証拠に、ソ軍所長は、戦友を捨てて、逃げるような男の遺髪など保存する必要なし、死体は捨てておけと取りつく島もない。逃亡騒ぎが連日続くので歩哨連中も激しく当たってくる。
満軍の方も同じで、夕方20人の作業に出て半分しか帰って来なかった。満軍も抑留される理由がないと不平満々。
ソ側に出す嘆願書を翻訳してくれと隊長の少佐に頼まれた。日本語の上手な若い上品な男だ。所長室で開けてみたら、日本の罪悪を書き連ね、我々をその桎梏《しっこく=束縛》下から開放してくれた赤軍に感謝する。ついては今の抑留からも解放して欲しいと赤軍への阿諛《あゆ=へつらい》と日本の罵倒《ばとう=ののしり》で一杯。概略を説明して「日本軍の将校として、これは翻訳出来ない」と断った。所長も了解してくれた。
(つづく)
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あんみつ姫