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Re: イレギュラー虜囚記(その2)

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あんみつ姫

通常 Re: イレギュラー虜囚記(その2)

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2007/12/9 14:59
あんみつ姫  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 485
 製材所には、白系《はくけい=注1》の中年女が通訳として電業村に通って来る。夫はソ軍の徴用でムーリン《牡丹江北東の町》 にいるが、冬物を送ってやる許可が出ないとこぼしていた。

発電所には、警備員など以前から白系が働いていたので通訳の出来るのもいるが、ぞんざいな口の利き方をすると日本兵が怒っている。
日本人が彼らにそんな口調で話していたからだろう。白系の警備主任は銃殺されたとか。

 トロプキンと作業場を歩いていたら、師道大学のフラットキンが現れて通訳してくれと言う。素晴らしい乗用車で中将が来ている。帽子の顎紐も星章、肩章も全て金モール、紺のズボンの脇に真っ赤な太い線、少々チンドン屋気味だが、体格が堂々としているので様になる。日本の将官だったら、さしずめ猿回しの猿だ。

美女もー緒で日本語が上手。ラーゲリで将校団の手紙を検閲しているが、文字が読み辛いので要訳してくれとのこと。ラーゲリで将校団に家郷通信が許可されたが、動向調査に使われただけらしい。

フラットキンの話では、女は中将の情婦で、亭主は東京で服屋を開いていたことがあるらしい。諜報活動でもしていたか。

 驚いたことに、幕舎へ帰ったら自分が山田関東軍司令官の息子になっていた。幾ら否定しても信用しない。作業係のヤコブレフ少尉が、山田閣下の息子だのに名前を変えているのは何故だと言うし、グルジャ系《中国ウイグル自治区出身》と思われる警備隊長の少佐も、閣下の息子を何故作業に出したかと加藤大隊長に詰め寄ったらしい。噂が消えるのに丸一週間かかった。

警備隊長の少佐はチェの発音がテに聞こえるが、部下には厳しく、我々には親切であった。噂以来彼とも親しくなり、一緒に飯を食ったり、衛兵の教練を見たり、少佐のすすめで、ソ連兵に日本軍の「突撃ニ進メ」《注2》の発進要領を披露したりした。

いつか、政治部将校《注3》がスターリンの顔ビラを一抱え持って来て、全幕舎に貼れという。日本人には関係ないとやり合っているところへ少佐が来あわせて、それはやめよと一言で政治部将校を追い返した。余程戦功のある人らしい。

一方、作業係の頭が薄くて少尉のヤコブレフにコキ使われている中尉は「間もなく東京から迎えの列車が来るぞ」というし、この間戦車で東京へ行ってきただの、木造建築は石造よりも文化が低いとか、ドイツは各家にラジオがあったが、ロシヤには各部屋にあると自慢するのもいた。

入ソ後クヴアルチーラ式生活を見て成程と思った。日本女性の写真を沢山集めて高峰秀子に感心し、日本の女は世界一、次がロシヤ、三番はポーランドと言うので、ドイツはと聞いたら、ドイツの女はなっとらん(ツィニャー)だと。

 昼夜兼行の作業で発電設備は全てロシヤへ運び去られたが、これで仕事は終わらない。棟を連ねた倉庫から部品、碍子、セメント、釘、針金、ウェスその他すっからかんに運び出す。

物品ゼロになると、プラットホームまでの運搬用トロッコ列車、そのレール、積込みクレーンまでロシヤ行き。ターピーズ(大鼻)のロスケ奴と満人の怒ること。物資が無くなったので全て終了と思ったが、とんでもない。
次は、倉庫の屋根のトタン、窓ガラスの梱包、外柵の有刺鉄線の巻き取り。果ては外灯の電球、笠まで。
                             (つづく)

注1 ロシアが共産革命の時これを嫌って国外に移住したロシア人
注2 陸軍歩兵操典2編1章に予令(準備)にて右手を以って木被  (小銃の木の部分)の所を確実に握り 銃口を上にして銃を提   げ 動令(始め)で早駆けにて前進する
注3 主に共産系国において 軍隊が政府の政治原則を逸脱しない  よう監視のために派遣する将校

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あんみつ姫

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