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Re: イレギュラー虜囚記(その2)

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あんみつ姫

通常 Re: イレギュラー虜囚記(その2)

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2007/12/9 14:38
あんみつ姫  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 485
 9月1日、

最終集結列車到着。関東軍研究部という部隊もいる。
聞けば、関東軍司令部は八月十一日、通化に移動、航空軍司令部は翌日関東州《注》へ撤退、我が隊の新京本部もこれと行動を共にしたらしい。第一線はほったらかしとは恐れ入った。午後には最終部隊もラーゲリヘ行き、日本人は自分だけ。

ソ側は、カラバも、プーシキン、フラットキン、マーシャまで居なくなって、ジャンギヤバン《フランスの映画俳優》に似た中年の少尉一人。あとは残存物資の警戒兵が少々。少尉は、これからもっと腹の立つことがあるよと教えてくれた。
                    
 昼すぎ、カラバエフがジープで駅に来た。駐屯地司令部へ行こうと言う。丁度そこへ、褌一つで後ろ手に縛られ、顔から血を流している日本人が三人、ソ連兵に連行されて来た。

吉林市内で満人の掠奪騒ぎがあり、日本人の住宅街を襲っている満人の首魁の一人が拳銃を取り出す際誤って自分の手を射ち、それを日本人が射ったとソ連兵に訴えたので捕らえられた。拳銃は無いが、弾を持っていたので連れて来られたと言う。

調べてみると、弾箱には25発きっちり納まっており、使った形跡はない。カラバに話して、とにかく現場に行くことにする。

カラバと自分がジープ、日本人とソ連兵一ヶ分隊がトラックで続く。
初めて見る吉林市街はなかなか美しい。第二松花江のプロムナードに青々とした並木が茂り、一寸したドライブ気分。駅の北方の日本人街に入ると、道路脇に邦人の男女子供約70人が一塊りになって座っており、歩哨が一人護衛している。

住宅街では三百人程の満人が、屋根といわず、物置といわず、黒山のように集って掠奪の真っ最中。瓦や屋根板を剥ぐ者、畳を担いでいる奴、ちゃぶ台と水屋の引出しを持ってヨチヨチ出てくるテン足の女、座布団を抱えて走り出す小孩(ショウハイ)、ワイワイキャーキャーと喧嘩腰で奪い合っている。

ソ連兵も二人だけでは処置なしの体。カラバはヨッブトヴオユとばかり、分隊全員に支那人を追い払えと命じ、住宅街へ踏み込んだ。どの家もすっかり掠奪されており、一軒の家の中に日本人の男性六人が滅多打ちにされて血の海の中で絶命していた。

我々の怒りも爆発し、少佐は手頃な鉄棒、自分は軍刀の峯打ちで手当たり次第満人を撲りつけ蹴り飛ばし大暴れしたが、相手は大人数、抵抗はしないが、蝿と同じで埒があかぬ。到頭カラバは射撃を命じた。

自動小銃を空に向けて脅し、きかなければ脚を射つ。射たれた脚を屋根から垂らして訴えている奴をカラバはムズとつかんで引きずり落し、傷の上を蹴り上げる。「奮戦」約20分、一応日本人街から追い出したが、まだ遠巻きにして此方を眺めている。
何故日本の将校が混っているのか不思議そうな顔付き。

 我々が道路上の邦人の処へ出て来た時、手に繍帯を巻いた満人がそれを見せに来た。カラバは力一杯そいつを撲り倒した。
治安維持会の満警《満州国警察官》がノコノコ現れたので、カラバは二度とやらせたらお前は死刑だと怒鳴りつける。
通訳してやると吃驚したような顔で満人どもを追い立てる。八百長じみて信用できぬ。

 道路上の婦人が「このロシヤと日本の軍人さんに有難うを言いましょぅ」と呼びかけ、全員から最敬礼された。カラバは手にした鉄棒を満人の群にぶん投げた。子供達が兵隊さんと寄ってくるが何にもしてやれない。

 再び駅に戻る。軍人家族の女、子供が取り残されて心細げ。カラバがトラックを仕立てて婦女子収容所へ送り出した。

 カラバとコメンダトウーラへ行く。司令部は第二スンガリーに面した吉林省公署の堂々たるビル。

閣下に会わせてやるとカラバが二階の一室のドアを叩く。元の応接室らしく、日本軍の中将、少将、少佐、准尉、当番の上等兵と、上衣を脱いだ年配の人の計六人。
我々が吉林駅で大慌てで調達した味噌樽が廊下に並んでいた。

                          (つづく)

注 1905年日露戦争後 ポーツマス条約によりロシアから租借地を  引き継いだ 旅順 大連地域の呼び名

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あんみつ姫

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