Re: イレギュラー虜囚記(その2)
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イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/8 22:02)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/8 22:08)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/9 14:38)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/9 14:44)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/9 14:48)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/9 14:51)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/9 14:56)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/9 14:59)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/13 15:57)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/13 16:06)
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Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/8 22:08)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/13 16:19)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/13 16:25)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:40)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:47)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:51)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:58)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 13:05)
あんみつ姫
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初めての入ソ
二月になつてスチエードベーカーでクラスキノ《ソ連沿海州最南端の町-》まで食糧受領に行った。初めてソ連の土を踏むわけで、いささか興奮した。国境のノーバヤデレブニヤは丘の上にあり、煉瓦建ての兵舎が二棟と、日本兵の幕舎が数十張り並んでいる。
国境に白黒段だらに塗った遮断機を備えた検問所があって、ここを通る車は必ず食糧なり、何なり相当量召し上げられる。
さらに進むと、大きな兵舎が点々と見え、五十メートル幅の河を渡るとクラスキノの街に入る。街は寒々として何となく荒れ果てた感じ。物資の不足がそのまま表に現れたうらぶれた街並。薄汚れた空屋に入って行く気分だ。
総選挙のポスターだけが嫌に赤々と目立つ。白く塗ったレーニン、スターリンのでかい像が立っているのは学校や公共建物らしい。どの家も、壁や屋根はボロボロの凹凸。その日その日「食うこと」だけで精一杯の様子。
ヒトラーが最後の五分間を頑張っておればと想像する。
しかし、軍倉庫は満洲からの略奪物資で溢れんばかり。クラスキノ駅で分遣隊に会った。元気で肉の塊を担いで集積作業をしている。肉を掻っ払う時は弾丸除けに肉を頭から被るそうだ。ロスケ同士肉の争奪で銃撃戦をやらかすとか。帰りは乾草を満載し、その上に座る。
女が二人琿春へ買出しに行くと乗ってきたが、検問所で引きずり下ろされた。
クーロフ所長の君臨
二月上旬所長交替。クーロフ大尉着任、第一印象甚だ悪し。黒髪、天狗面。着任当日両大隊の全将校を集め、前任のダ中佐を横に、自らは机の前にデンと座り、「俺はクーロフ大尉である。今まで中佐がやっていた職を大尉の俺が引継ぐ」。どうだ偉いもんだろうと言わんばかり。
補佐はクニヤーゼフ少尉。これはなかなか良い男だ。クーロフは三月に細君を呼ぶから部屋を空けろと要求。二〇九本部は二二第二中隊のいる部屋に移った。
これを機に、笠に着て勝手な振舞いの多かった二〇九の飯田通訳を分遣隊に送り出し、伊藤が二〇九付になつた。二一一の加藤隊長よりも二〇九の岩崎、小林両中尉の方が遥かにインテリ、自分は暇があると大抵二〇九本部で伊藤らと過していた。
三月早々、クーロフの出張中に細君なる女が来た。チモフエーエフ軍医が我々に紹介する。
恥ずかしいのか、なかなか姿を見せぬ。やがて黒いワンピース姿で出て来て、大人しく我々と受け答えし、リユーバはロシア女にしては殊勝な女だと見たが、これがとんだ食わせものだった。
翌日、クーロフが帰って来るや、両大隊将校集合命令。細君を横に侍らせて「ラーゲリ内の道路は雪融けで通れぬ。直ちに処置せよ」と怒鳴りつけ、嬶に良い所を見せる。
公休兵をずらりと正座させ、夫婦で腕を組んで所内巡視がお好み。リユーバはセミチカをポリポリ噛んでペッペッと殻を吐き散らす。ベッドで一緒に寝ながら我々を呼びつけてものを言いつける。人前でキスして二人で相撲をとる。クーロフ出張中は本部のドアを閉めて、当番の小田、コックの山田、ダンスの上手い柿崎と悪フザケをやらかす。
所長が二度交替したのに、ヒリモーノフ中尉が残して行ったエレソフ伍長と兵隊二人がそのままで、食糧を二一一本部に貰いに来る。
靴や毛布を満人に売って食いつないでいる。原隊に行かなければ食糧の手当ては出来ず、琿春駐屯軍はおろか、ラーゲリのソ側本部も相手にしない。それでも、ヒリモが頼んで行ったラジオだけは売払わずに置いている。
三月頃から東京放送が聞けるようになった。毎晩エレソフの部屋へ行ってニュースを筆記する。ジャズが多くて初めての時は上海放送と間違えた。長門美保が唄い、徳川夢声が「風と共に去りぬ」を読み、小学生が「アメリカの兵隊さん」という綴り方を発表している。英語講座もある。
終戦と同時に満人が青天白日旗を出したのと似ていて嫌な気分だ。幣原首相が国民の耐乏を説き、戦争未亡人の問題をとり上げている。その後は漫才、落語、ジャズで、戦後の日本は頗るホガラカ。半分ヤケ気味か。
ソ連放送は五〇〇KC以下なので東京放送の後はタップを切り替えておく。毎回ケースから器械を取り出すので二週間くらいで聞えなくなってしまった。
エレソフに「お前らはヒリモーノフに捨てられたようだ。どうする」とおどすと、心配そうな顔をしながらも、俺たちは戦友だと頑張る。彼らはムーリンで初めての日本軍の強力な抵抗に遭遇し、中隊長、大隊長、遂には連隊長まで日本軍の重機にやられるわ、友軍機に誤爆されるわ散々な目に会ったらしい。
戦車が破壊した重機トーチカに入ると全身に手榴弾を結び付けた日本兵が飛び出してきて自爆した由。夜行軍の列に樹上から斬り込まれたり、剣が飛んできて将校が殺された。特別に訓練を受けたのかと訊く。
ソ連軍はウオツカの勢で前進し、後ろから来る憲兵を警戒しつつ乱暴の限りをつくし、憲兵が現れると前進する。ヒリモ小隊が全員酔払って寝ているところへ少佐が来て前進を命じたが、少佐は拳銃だが、俺たちにゃ自動小銃があると脅かして追っ払ったとか。
非道い奴らだが、日本軍でも弾丸は前からばかりと思うな、後ろからも来ると言われているから五十歩百歩か。
(つづく)
二月になつてスチエードベーカーでクラスキノ《ソ連沿海州最南端の町-》まで食糧受領に行った。初めてソ連の土を踏むわけで、いささか興奮した。国境のノーバヤデレブニヤは丘の上にあり、煉瓦建ての兵舎が二棟と、日本兵の幕舎が数十張り並んでいる。
国境に白黒段だらに塗った遮断機を備えた検問所があって、ここを通る車は必ず食糧なり、何なり相当量召し上げられる。
さらに進むと、大きな兵舎が点々と見え、五十メートル幅の河を渡るとクラスキノの街に入る。街は寒々として何となく荒れ果てた感じ。物資の不足がそのまま表に現れたうらぶれた街並。薄汚れた空屋に入って行く気分だ。
総選挙のポスターだけが嫌に赤々と目立つ。白く塗ったレーニン、スターリンのでかい像が立っているのは学校や公共建物らしい。どの家も、壁や屋根はボロボロの凹凸。その日その日「食うこと」だけで精一杯の様子。
ヒトラーが最後の五分間を頑張っておればと想像する。
しかし、軍倉庫は満洲からの略奪物資で溢れんばかり。クラスキノ駅で分遣隊に会った。元気で肉の塊を担いで集積作業をしている。肉を掻っ払う時は弾丸除けに肉を頭から被るそうだ。ロスケ同士肉の争奪で銃撃戦をやらかすとか。帰りは乾草を満載し、その上に座る。
女が二人琿春へ買出しに行くと乗ってきたが、検問所で引きずり下ろされた。
クーロフ所長の君臨
二月上旬所長交替。クーロフ大尉着任、第一印象甚だ悪し。黒髪、天狗面。着任当日両大隊の全将校を集め、前任のダ中佐を横に、自らは机の前にデンと座り、「俺はクーロフ大尉である。今まで中佐がやっていた職を大尉の俺が引継ぐ」。どうだ偉いもんだろうと言わんばかり。
補佐はクニヤーゼフ少尉。これはなかなか良い男だ。クーロフは三月に細君を呼ぶから部屋を空けろと要求。二〇九本部は二二第二中隊のいる部屋に移った。
これを機に、笠に着て勝手な振舞いの多かった二〇九の飯田通訳を分遣隊に送り出し、伊藤が二〇九付になつた。二一一の加藤隊長よりも二〇九の岩崎、小林両中尉の方が遥かにインテリ、自分は暇があると大抵二〇九本部で伊藤らと過していた。
三月早々、クーロフの出張中に細君なる女が来た。チモフエーエフ軍医が我々に紹介する。
恥ずかしいのか、なかなか姿を見せぬ。やがて黒いワンピース姿で出て来て、大人しく我々と受け答えし、リユーバはロシア女にしては殊勝な女だと見たが、これがとんだ食わせものだった。
翌日、クーロフが帰って来るや、両大隊将校集合命令。細君を横に侍らせて「ラーゲリ内の道路は雪融けで通れぬ。直ちに処置せよ」と怒鳴りつけ、嬶に良い所を見せる。
公休兵をずらりと正座させ、夫婦で腕を組んで所内巡視がお好み。リユーバはセミチカをポリポリ噛んでペッペッと殻を吐き散らす。ベッドで一緒に寝ながら我々を呼びつけてものを言いつける。人前でキスして二人で相撲をとる。クーロフ出張中は本部のドアを閉めて、当番の小田、コックの山田、ダンスの上手い柿崎と悪フザケをやらかす。
所長が二度交替したのに、ヒリモーノフ中尉が残して行ったエレソフ伍長と兵隊二人がそのままで、食糧を二一一本部に貰いに来る。
靴や毛布を満人に売って食いつないでいる。原隊に行かなければ食糧の手当ては出来ず、琿春駐屯軍はおろか、ラーゲリのソ側本部も相手にしない。それでも、ヒリモが頼んで行ったラジオだけは売払わずに置いている。
三月頃から東京放送が聞けるようになった。毎晩エレソフの部屋へ行ってニュースを筆記する。ジャズが多くて初めての時は上海放送と間違えた。長門美保が唄い、徳川夢声が「風と共に去りぬ」を読み、小学生が「アメリカの兵隊さん」という綴り方を発表している。英語講座もある。
終戦と同時に満人が青天白日旗を出したのと似ていて嫌な気分だ。幣原首相が国民の耐乏を説き、戦争未亡人の問題をとり上げている。その後は漫才、落語、ジャズで、戦後の日本は頗るホガラカ。半分ヤケ気味か。
ソ連放送は五〇〇KC以下なので東京放送の後はタップを切り替えておく。毎回ケースから器械を取り出すので二週間くらいで聞えなくなってしまった。
エレソフに「お前らはヒリモーノフに捨てられたようだ。どうする」とおどすと、心配そうな顔をしながらも、俺たちは戦友だと頑張る。彼らはムーリンで初めての日本軍の強力な抵抗に遭遇し、中隊長、大隊長、遂には連隊長まで日本軍の重機にやられるわ、友軍機に誤爆されるわ散々な目に会ったらしい。
戦車が破壊した重機トーチカに入ると全身に手榴弾を結び付けた日本兵が飛び出してきて自爆した由。夜行軍の列に樹上から斬り込まれたり、剣が飛んできて将校が殺された。特別に訓練を受けたのかと訊く。
ソ連軍はウオツカの勢で前進し、後ろから来る憲兵を警戒しつつ乱暴の限りをつくし、憲兵が現れると前進する。ヒリモ小隊が全員酔払って寝ているところへ少佐が来て前進を命じたが、少佐は拳銃だが、俺たちにゃ自動小銃があると脅かして追っ払ったとか。
非道い奴らだが、日本軍でも弾丸は前からばかりと思うな、後ろからも来ると言われているから五十歩百歩か。
(つづく)
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あんみつ姫