Re: イレギュラー虜囚記(その2)
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イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/8 22:02)
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- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/13 16:25)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:40)
- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 12:47)
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- Re: イレギュラー虜囚記(その2) (あんみつ姫, 2007/12/16 13:05)
あんみつ姫
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豊満発電設備解体、コーカサスヘ 二十年九月未~十一月六日
発電所には、ウエスチングハウス、AEG、日立の発電機が八基据えられており、ダム高約90米、第二松花江を堰き止めるこのダムが崩壊すれば、吉林市は僅か二分で水没するという巨大なもの。
従業員の豊満村もあり、将来は国立公園になる予定だった風光明媚な処。
作業は、岩崎中尉の209、加藤中尉の211計二千名で昼夜兼行、午前八時から午後八時までの一日12時間労働。ただし、人員受渡しの点呼が、五人縦列をラス、ドヴア《1,2》と数えてゆくのだから大変。小一時間はかかる。作業終了で帰隊した時も同じ。間違えるとラスからやり直し。これにはホトホト閉口した。
負傷、病欠は各大隊50名までというソビエト式にも困った。作業現場で要領よく休ませるのが当方の主任務となった。二言目には射殺するぞと怒鳴る作業指揮のソ軍工兵隊将校と喧嘩腰の交渉。こっちも負けずに射つなら射て、俺達は奴隷じゃないぞとやり返す、考えてみれば危いことではあった。
技術的な指揮は佐官の技術将校がやるが、歩哨の話では、豊満作業だけに選抜された民間人とのこと。道理で物腰が柔らかい。解体発電設備は六基、大型変圧器も含め、ウェスチング《米国ウエスチング社》と日立の製品を選んだ。
発電機の基礎はエヤーハンマー、ドリルぐらいではどうにもならず放棄となった。解体した部品は、毎日100人を派遣している製材所で作った木箱に容れる。
無蓋貨車一輌に一ヶ乃至二ヶの超大型木箱。腹に「前線からの贈物(パダーロク オット フロンタ)「満州の勝利品(トロフェィ マンジューリ)」「赤軍万才(スラバ クラスノイ アールミー)」等と書いてあり、一輌に一人ずつ輸送警戒兵が上乗りして毎朝出発。輸送した満鉄の機関車、貨車はソ連へ行ったきり帰って来ないらしい。
最終段階では、走った跡のレール、枕木も剥がして持ち去ったとか。シベリヤ《ロシア連邦東部シベリア地方》をドイツと二分して、この発電所の電力を使うつもりだったろうが、コーカサスで我々を照らしてくれるぜと憎まれ口を利く奴もいた。
機材のほか、電業の技術者も半強制でコーカサスへ連れ去られた。発電所長は久我という腰の低い、いつも我々にご苦労様でございますと会釈してゆく小柄の人。赤軍歩哨連もバリシャヤ ガラバー大した頭脳の人と畏敬《いけい=恐れ敬う》の眼差しで見ている。
中将待遇の由。奥さんには四輪馬車が当てがわれ、少佐が護衛に同乗。乗り降りにうやうやしく手を差し伸べるので奥さん大弱り。ソ連へ送る久我家の家財は、二米立方の木箱がNo1からNo9まであった。
当方の仕事は、千人の現場引渡しに立ち合うほかは、悶着がなければ作業交替まで大した用はない。歩哨長の中尉と現場を一わたり見回ったら、あとは機械工場や製材所の事務室で駄べっているだけ。
女をどうして手にいれて、どうしたかを得意気にしゃべるのをフンフンと聞く。いつだったか、中隊長の大尉の巡視があり、その場に居合わせたトロプキン、カブルイギンと三人、直立不動の姿勢で、こつてり絞られた。日ソの兵隊が苦労して働いているのに、若い将校が何をしておるのかというわけ。
怖い中隊長の目をかすめて、立入り禁止の満人バザール《参加者を限定しない商店街》へもときどき足を伸ばす。散髪中に巡察が現われて、トロプキン中尉と一目散で逃げたこともあった。
バザールには、蜂蜜や豚肉、綿布など何でもある。英国のウエストミンスターという高級煙草が山積みされて一箱15円だった。満洲国建国以来持ち続けていたらしく、少々カビ臭い。どうやら日本人は、孫悟空よろしく、支那人の掌の上で暴れていたに過ぎなかったのか。
製材所責任者の大尉が歯痛を起し、日本人の歯科医院に同行した。若い奥さんは、よく口の回る大阪弁の人で、紅茶を出して遊んで行けと勧める。ソ連兵が金歯好きで注文殺到の由。前歯にべッタリ金を被せてもらい、丸で獅子舞のお獅子のようだ。
金の手持ちが少くなってきたとか。道理でソ連兵が日本兵の金歯を欲しがるはずだ。金歯を外して売ってくれとせがむ。夫婦は開業出来るならソ連へ行ってもよいと言っていた。
(つづく)
発電所には、ウエスチングハウス、AEG、日立の発電機が八基据えられており、ダム高約90米、第二松花江を堰き止めるこのダムが崩壊すれば、吉林市は僅か二分で水没するという巨大なもの。
従業員の豊満村もあり、将来は国立公園になる予定だった風光明媚な処。
作業は、岩崎中尉の209、加藤中尉の211計二千名で昼夜兼行、午前八時から午後八時までの一日12時間労働。ただし、人員受渡しの点呼が、五人縦列をラス、ドヴア《1,2》と数えてゆくのだから大変。小一時間はかかる。作業終了で帰隊した時も同じ。間違えるとラスからやり直し。これにはホトホト閉口した。
負傷、病欠は各大隊50名までというソビエト式にも困った。作業現場で要領よく休ませるのが当方の主任務となった。二言目には射殺するぞと怒鳴る作業指揮のソ軍工兵隊将校と喧嘩腰の交渉。こっちも負けずに射つなら射て、俺達は奴隷じゃないぞとやり返す、考えてみれば危いことではあった。
技術的な指揮は佐官の技術将校がやるが、歩哨の話では、豊満作業だけに選抜された民間人とのこと。道理で物腰が柔らかい。解体発電設備は六基、大型変圧器も含め、ウェスチング《米国ウエスチング社》と日立の製品を選んだ。
発電機の基礎はエヤーハンマー、ドリルぐらいではどうにもならず放棄となった。解体した部品は、毎日100人を派遣している製材所で作った木箱に容れる。
無蓋貨車一輌に一ヶ乃至二ヶの超大型木箱。腹に「前線からの贈物(パダーロク オット フロンタ)「満州の勝利品(トロフェィ マンジューリ)」「赤軍万才(スラバ クラスノイ アールミー)」等と書いてあり、一輌に一人ずつ輸送警戒兵が上乗りして毎朝出発。輸送した満鉄の機関車、貨車はソ連へ行ったきり帰って来ないらしい。
最終段階では、走った跡のレール、枕木も剥がして持ち去ったとか。シベリヤ《ロシア連邦東部シベリア地方》をドイツと二分して、この発電所の電力を使うつもりだったろうが、コーカサスで我々を照らしてくれるぜと憎まれ口を利く奴もいた。
機材のほか、電業の技術者も半強制でコーカサスへ連れ去られた。発電所長は久我という腰の低い、いつも我々にご苦労様でございますと会釈してゆく小柄の人。赤軍歩哨連もバリシャヤ ガラバー大した頭脳の人と畏敬《いけい=恐れ敬う》の眼差しで見ている。
中将待遇の由。奥さんには四輪馬車が当てがわれ、少佐が護衛に同乗。乗り降りにうやうやしく手を差し伸べるので奥さん大弱り。ソ連へ送る久我家の家財は、二米立方の木箱がNo1からNo9まであった。
当方の仕事は、千人の現場引渡しに立ち合うほかは、悶着がなければ作業交替まで大した用はない。歩哨長の中尉と現場を一わたり見回ったら、あとは機械工場や製材所の事務室で駄べっているだけ。
女をどうして手にいれて、どうしたかを得意気にしゃべるのをフンフンと聞く。いつだったか、中隊長の大尉の巡視があり、その場に居合わせたトロプキン、カブルイギンと三人、直立不動の姿勢で、こつてり絞られた。日ソの兵隊が苦労して働いているのに、若い将校が何をしておるのかというわけ。
怖い中隊長の目をかすめて、立入り禁止の満人バザール《参加者を限定しない商店街》へもときどき足を伸ばす。散髪中に巡察が現われて、トロプキン中尉と一目散で逃げたこともあった。
バザールには、蜂蜜や豚肉、綿布など何でもある。英国のウエストミンスターという高級煙草が山積みされて一箱15円だった。満洲国建国以来持ち続けていたらしく、少々カビ臭い。どうやら日本人は、孫悟空よろしく、支那人の掌の上で暴れていたに過ぎなかったのか。
製材所責任者の大尉が歯痛を起し、日本人の歯科医院に同行した。若い奥さんは、よく口の回る大阪弁の人で、紅茶を出して遊んで行けと勧める。ソ連兵が金歯好きで注文殺到の由。前歯にべッタリ金を被せてもらい、丸で獅子舞のお獅子のようだ。
金の手持ちが少くなってきたとか。道理でソ連兵が日本兵の金歯を欲しがるはずだ。金歯を外して売ってくれとせがむ。夫婦は開業出来るならソ連へ行ってもよいと言っていた。
(つづく)
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あんみつ姫