Re: イレギュラー虜囚記
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イレギュラー虜囚記(その1) (あんみつ姫, 2007/12/5 11:36)
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あんみつ姫
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8月12日 快晴 暑気厳
暁方、隣接する海林地区司令部炎上。謀略かと見たが間もなく、地区司令部より通達あり、海林所在の各部隊はそれぞれの本隊へ引き揚げよと。
兵舎の窓硝子をすべて破壊し、室内備品、各自の私物を床に撒き散らして焼却準備完了。一同乾杯。
続いて、司令部より、海林駅に列車準備しあり、急ぎ乗車せよとの通達あり。軍属家族は一人トランク一個。駅まで二粁弱、特種受信機をはじめ、重要機材を真先に送り出す。
兵舎以外の通信室、倉庫、格納庫などに火を放つ。黒煙濛濛として一面薄暗くなる。飛行場の燃料庫に火が入って、ドラム缶が大爆発を起し小山のような粘っこい焔を吹き上げる。流出したガソリンが我が隊の方向に迫る。地区司令部は完全に焼け落ちた。
午前11時、最終トラックで駅に向う。海林市内は中国人、朝鮮人が右往左往し、邦人住宅の家財を運び出しあり。一ケ月程前から朝鮮人が赤腕章を巻いているので義勇隊かと思っていたが、ソ連軍の進攻を予期した識別用であったらしい。成程と妙に感心する。
駅の列車には、既に地区司令部全員とその家族が乗っており、我が方も急ぎ通信機などを積み込む。二連装高射機関銃が設置され心強い。敵機上空にあるも何故か攻撃してこない。乗車完了を待って叩く気か。
出発準備ができた頃、突如喜野隊長より命令あり、田中大尉以下自分の小隊22名は、自動車行軍にて哈爾浜経由新京《しんきょう=中国東北部吉林省の現在の長春》本部に至るべしと。これで本隊とお別れ。トラック2輌で元の兵舎に引返す。
軍属たちは本隊とともに撤退したい様子ありあり。無理もなし、トラック行軍は途中の暴徒、満軍《満州国軍》の襲撃を覚悟せねばならぬ。
本日暑熱焼くが如く、加えて地上各所の火災、爆発のため、焦熱地獄もかくやと思わる。直ちに行軍準備開始。燃料ドラム缶各車3本、食糧一週間分、弾薬多数を積込む。
海林上空の敵機が攻撃を始む。機関砲の音激し。本隊の無事を祈りつつも、自動車行軍の方が空襲時の待避は容易だと考える。
出発前の小休止中、思いがけず本隊帰着。海林地区の撤退は時機尚早、別命のあるまで現地を死守せよとの命令の由。牡丹江の第五軍の命令か。
兵舎を残しておったので直ちに空中線を展開し、夕刻傍受可能となるも、新京本部と連絡取れず空しい努力ではないかと感ずる。
敵戦車は既に牡丹江正面に達した模様。友軍の軽戦車10数両全速力で横道河子《おうどうこうし=中国黒龍江省の海林市にある町》方面に撤退。トラックの後退が激増し、終夜エンジン音が響く。
昨日から、夕暮れの敵機のいない間、九七偵《陸軍九七式偵察機》がブルンブルンと飛ぶ。戦争中友軍機を見たのはこれ一機だけ。本日高射砲一門海林に入り鎌首をもたげて頼もしかったが、何時の間にか影も形もなくなっていた。
本日午後、連絡に出た城所が、引揚げ列車は今日で最終との情報を掴み、機関車で飛んで帰ってきた。曹長ほか兵三名を付け軍属家族を送り出し、無事牡丹江の最終列車に乗車せしむ。牡丹江市内は避難民で溢れているとか。
(つづく)
暁方、隣接する海林地区司令部炎上。謀略かと見たが間もなく、地区司令部より通達あり、海林所在の各部隊はそれぞれの本隊へ引き揚げよと。
兵舎の窓硝子をすべて破壊し、室内備品、各自の私物を床に撒き散らして焼却準備完了。一同乾杯。
続いて、司令部より、海林駅に列車準備しあり、急ぎ乗車せよとの通達あり。軍属家族は一人トランク一個。駅まで二粁弱、特種受信機をはじめ、重要機材を真先に送り出す。
兵舎以外の通信室、倉庫、格納庫などに火を放つ。黒煙濛濛として一面薄暗くなる。飛行場の燃料庫に火が入って、ドラム缶が大爆発を起し小山のような粘っこい焔を吹き上げる。流出したガソリンが我が隊の方向に迫る。地区司令部は完全に焼け落ちた。
午前11時、最終トラックで駅に向う。海林市内は中国人、朝鮮人が右往左往し、邦人住宅の家財を運び出しあり。一ケ月程前から朝鮮人が赤腕章を巻いているので義勇隊かと思っていたが、ソ連軍の進攻を予期した識別用であったらしい。成程と妙に感心する。
駅の列車には、既に地区司令部全員とその家族が乗っており、我が方も急ぎ通信機などを積み込む。二連装高射機関銃が設置され心強い。敵機上空にあるも何故か攻撃してこない。乗車完了を待って叩く気か。
出発準備ができた頃、突如喜野隊長より命令あり、田中大尉以下自分の小隊22名は、自動車行軍にて哈爾浜経由新京《しんきょう=中国東北部吉林省の現在の長春》本部に至るべしと。これで本隊とお別れ。トラック2輌で元の兵舎に引返す。
軍属たちは本隊とともに撤退したい様子ありあり。無理もなし、トラック行軍は途中の暴徒、満軍《満州国軍》の襲撃を覚悟せねばならぬ。
本日暑熱焼くが如く、加えて地上各所の火災、爆発のため、焦熱地獄もかくやと思わる。直ちに行軍準備開始。燃料ドラム缶各車3本、食糧一週間分、弾薬多数を積込む。
海林上空の敵機が攻撃を始む。機関砲の音激し。本隊の無事を祈りつつも、自動車行軍の方が空襲時の待避は容易だと考える。
出発前の小休止中、思いがけず本隊帰着。海林地区の撤退は時機尚早、別命のあるまで現地を死守せよとの命令の由。牡丹江の第五軍の命令か。
兵舎を残しておったので直ちに空中線を展開し、夕刻傍受可能となるも、新京本部と連絡取れず空しい努力ではないかと感ずる。
敵戦車は既に牡丹江正面に達した模様。友軍の軽戦車10数両全速力で横道河子《おうどうこうし=中国黒龍江省の海林市にある町》方面に撤退。トラックの後退が激増し、終夜エンジン音が響く。
昨日から、夕暮れの敵機のいない間、九七偵《陸軍九七式偵察機》がブルンブルンと飛ぶ。戦争中友軍機を見たのはこれ一機だけ。本日高射砲一門海林に入り鎌首をもたげて頼もしかったが、何時の間にか影も形もなくなっていた。
本日午後、連絡に出た城所が、引揚げ列車は今日で最終との情報を掴み、機関車で飛んで帰ってきた。曹長ほか兵三名を付け軍属家族を送り出し、無事牡丹江の最終列車に乗車せしむ。牡丹江市内は避難民で溢れているとか。
(つづく)
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あんみつ姫