Re: イレギュラー虜囚記
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イレギュラー虜囚記(その1) (あんみつ姫, 2007/12/5 11:36)
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あんみつ姫
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一番欲しがる日本軍の航空長靴
ソ連軍では、将校も兵隊も持っている限りの勲章や記章をベタベタと胸に付けている。ロシヤ人の事大気質《大げさに物事を表現する習性》か。勲章と言ってもお粗末の限り。我々はグリコのおまけと呼んでいた。
佐官以上の高級将校は、日本軍と同じ赤鉢巻の軍帽、その他はピロットカ(戦帽)という神主帽を横っちょに被っている。上着はルバーシカ《シャツ》型でロシヤ兵によく似合う。帽子も軍服も将校用の生地は兵用に比べて段違いにいい。
将校は通常拳銃一挺に黒の堤灯長靴。不思議なことに、堤灯のようなくにゃくにゃ胴の長靴が美しい(クラシーバ)と言う。兵隊は足首丈のゲートルだが、日本軍が持ってきた兵用長靴がお気に入り。
航空長靴が出てくると大騒ぎ。二、三日で殆ど全員日本長靴に替えてしまった。服装も大してうるさくないらしい。将校に対しても、直属上官以外は敬礼しない。歩哨も腰を下ろして煙草をすう。中には居眠りしている奴もいる。彼等にやかましのはカラバエフ少佐だけだ。
午後三時頃になると、係のソ連兵も疲れて皆何処かへ行ってしまった。トラックだけはどんどん来る。仕方なく自分が車の誘導を引受ける。ソ連の運転兵連中は何か食う物を呉れ、酒はないかと頼む。酒をがぶ飲みして出てゆく。自動車兵は元気だ。
夜明けと同時にカラバが出て来て大声で下知を下す。プラットフォームをあちこち大股で歩き回る。付いて行くだけで大変。日本軍では少佐ぐらいになるとドッカと腰を据えて口先で指揮するが、赤軍は将校が先に立たないと兵隊が付いて来ないようだ。
この日も通化《吉林省西南部の都市》から一ヶ列車到着。前日と同じ要領で積載要員三百を残し、他は持てる限りの糧秣、装具を担いでラーゲリに入る。通化の一二五師団は関東軍の総予備隊とのこと。道理で被服、装具、糧秣など豊富で新品も多い。
カラバは列車が着くと、先ず日本側輸送指揮官に会い、共に車内巡視。指揮官は大佐だがオタオタしていることが多く、少尉の自分にまで滑稽なほど丁寧なロを利く。馬鹿ばかしくて腹が立つ。
一体どうなるのでしょうかと着くなって尋ねる将校が多く、各車輌で尋ねられるので面倒になり、多分二、三年は強制労働でしょう、何しろラーゲリに入れると言ってますからと突っ慳貪に答えてやると、皆、ウアッと色を失う。
こっちのロシヤ語知識では、ラーゲリ(コンツ・ラーゲリ)イクオル強制労働収容所だったからで、まさかその通りになるとは夢にも思わなかった。
列車は各隊混合で来ているらしく、ソ側の指示をテキパキやる隊と、将校が自身のことに忙しくてラチの開かぬ隊もある。ついこちらも声を荒立てる。但しロスを笠に着て威張るが如き態度は厳に慎しむこと。
カラバは各車輌から酒、ブランデー、ブドウ酒をせしめて悦に入っている。自分にも飲めのめと盛んにすすめるが、日本軍の前でソ連兵と酒盛りするわけにはいかぬ。
各車輌で酒類を探していると素晴らしい航空服が出てきた。カラバはびっくり仰天。直ちに駐屯地司令官(コメンダント)ゲネラルに献上するとて二着抱えてジープで飛んで行った。自分も初めて見て、その贅沢さに驚いた。ヤレ航空食だ、航空ブランデーだと食う事と着る事ばかり。肝心の飛行機は皆無。
翌日、停車場司令部で、牡丹江教育隊時代の教官の出浦少尉や第三区隊長だった大聖寺中尉に出会った。第四区隊の高田候補生もいる。新京の獣医部下士候教育隊で、関東軍司令部と共に通化へ撤退したため吉林へ来るハメになったと。彼等は司令部駅舎の裏側のフォームに下りたので集結完了までそのままで、自分のいい宿泊所になった。
カラバと一緒では、鶏の水炊きと冷酒ばかりで彼の相手にはなれぬ。何しろ、毎日夜になると、必ず二升半の日本酒を一升瓶から一息に呑み干し、トラックの荷台や米俵の上で眠ってしまう。恐るべきエネルギーである。
このカラバが大慌てしたことがあった。
夜遅くトラックで駆け付けたカラバが、閣下(ゲネラル)が到着したから直ぐ食糧を準備せよと言う。
大いに慌てているので、大分偉い将官らしいと想像しながら、各車輌から米や缶詰、酒等を集めていると味噌も必要だという。赤軍のゲネラルはミソを食うのかと訊いたら、何を言うか、お前等のゲネラルだ、早くはやくと急がせる。積込みがすむや否や大急ぎで出かけて行った。
閣下ともなると、日本軍のゲネラルでもソ連軍の将校を慌てさせる。カラバは生粋の軍人だから余計緊張したようだ。
カラバとプラットフォームを歩いていた時、出浦少尉が走って来て、赤軍の将校がピストルで脅して隊長の近藤少佐の装具を奪っていると言う。ソレッと駆けつけると、ちょうど一人の将校が毛布に物品を包み込み、絵で描いた泥棒よろしくの態で逃げ出す所だった。
カラバはそいつをムズと掴んで引戻す。相手は中尉だ。毛布を拡げて見ると長靴、図嚢、財布、軍服等総て近藤少佐の物ばかり。カラバは例の如く顔を真っ赤にして怒鳴りつけ、司令官に報告するとて、通信紙二枚に報告書を書き、中尉の肩章を剥ぎ取ってしまった。
我々は中尉が可哀相になって、酒の上のこと、品物が返れば許してやってくれと頼んだが、カラバは頑としてきかぬ。
件の中尉は大声を上げてオイオイと泣く。
かれこれ二時間泣き続けたのには驚いた。日本の兵隊も笑うが、ロシヤの兵隊もニヤニヤ笑って見ている。
日本人の前で格好が悪いというような見栄は丸でないらしい。ロスの兵隊は総じて純朴なのが多い。
日本軍の将校が軍刀で立木の試し斬りをすると、遠巻きにして目を丸くして感心している。夜間各所に日ソ両方から歩哨を立てるが、日本側は棒の先に銃剣を結び付けて規定通り「腕に銃」の構えをとると、相棒の赤兵が危ないから真っ直ぐに持てと警戒する。
ところが夜が更けると皆眠ってしまい歩哨は日本兵ばかり。
食糧にしても別に炊サンをやっているようすはなくほったらかし。兵隊は日本軍の缶詰や干メンボを噛ったり、パン代わりにチェンピン《煎り餅》を食ったりして自給自足。
臨機応変、甚だ野戦向きで手のかからぬ兵隊どもではある。
(つづく)
ソ連軍では、将校も兵隊も持っている限りの勲章や記章をベタベタと胸に付けている。ロシヤ人の事大気質《大げさに物事を表現する習性》か。勲章と言ってもお粗末の限り。我々はグリコのおまけと呼んでいた。
佐官以上の高級将校は、日本軍と同じ赤鉢巻の軍帽、その他はピロットカ(戦帽)という神主帽を横っちょに被っている。上着はルバーシカ《シャツ》型でロシヤ兵によく似合う。帽子も軍服も将校用の生地は兵用に比べて段違いにいい。
将校は通常拳銃一挺に黒の堤灯長靴。不思議なことに、堤灯のようなくにゃくにゃ胴の長靴が美しい(クラシーバ)と言う。兵隊は足首丈のゲートルだが、日本軍が持ってきた兵用長靴がお気に入り。
航空長靴が出てくると大騒ぎ。二、三日で殆ど全員日本長靴に替えてしまった。服装も大してうるさくないらしい。将校に対しても、直属上官以外は敬礼しない。歩哨も腰を下ろして煙草をすう。中には居眠りしている奴もいる。彼等にやかましのはカラバエフ少佐だけだ。
午後三時頃になると、係のソ連兵も疲れて皆何処かへ行ってしまった。トラックだけはどんどん来る。仕方なく自分が車の誘導を引受ける。ソ連の運転兵連中は何か食う物を呉れ、酒はないかと頼む。酒をがぶ飲みして出てゆく。自動車兵は元気だ。
夜明けと同時にカラバが出て来て大声で下知を下す。プラットフォームをあちこち大股で歩き回る。付いて行くだけで大変。日本軍では少佐ぐらいになるとドッカと腰を据えて口先で指揮するが、赤軍は将校が先に立たないと兵隊が付いて来ないようだ。
この日も通化《吉林省西南部の都市》から一ヶ列車到着。前日と同じ要領で積載要員三百を残し、他は持てる限りの糧秣、装具を担いでラーゲリに入る。通化の一二五師団は関東軍の総予備隊とのこと。道理で被服、装具、糧秣など豊富で新品も多い。
カラバは列車が着くと、先ず日本側輸送指揮官に会い、共に車内巡視。指揮官は大佐だがオタオタしていることが多く、少尉の自分にまで滑稽なほど丁寧なロを利く。馬鹿ばかしくて腹が立つ。
一体どうなるのでしょうかと着くなって尋ねる将校が多く、各車輌で尋ねられるので面倒になり、多分二、三年は強制労働でしょう、何しろラーゲリに入れると言ってますからと突っ慳貪に答えてやると、皆、ウアッと色を失う。
こっちのロシヤ語知識では、ラーゲリ(コンツ・ラーゲリ)イクオル強制労働収容所だったからで、まさかその通りになるとは夢にも思わなかった。
列車は各隊混合で来ているらしく、ソ側の指示をテキパキやる隊と、将校が自身のことに忙しくてラチの開かぬ隊もある。ついこちらも声を荒立てる。但しロスを笠に着て威張るが如き態度は厳に慎しむこと。
カラバは各車輌から酒、ブランデー、ブドウ酒をせしめて悦に入っている。自分にも飲めのめと盛んにすすめるが、日本軍の前でソ連兵と酒盛りするわけにはいかぬ。
各車輌で酒類を探していると素晴らしい航空服が出てきた。カラバはびっくり仰天。直ちに駐屯地司令官(コメンダント)ゲネラルに献上するとて二着抱えてジープで飛んで行った。自分も初めて見て、その贅沢さに驚いた。ヤレ航空食だ、航空ブランデーだと食う事と着る事ばかり。肝心の飛行機は皆無。
翌日、停車場司令部で、牡丹江教育隊時代の教官の出浦少尉や第三区隊長だった大聖寺中尉に出会った。第四区隊の高田候補生もいる。新京の獣医部下士候教育隊で、関東軍司令部と共に通化へ撤退したため吉林へ来るハメになったと。彼等は司令部駅舎の裏側のフォームに下りたので集結完了までそのままで、自分のいい宿泊所になった。
カラバと一緒では、鶏の水炊きと冷酒ばかりで彼の相手にはなれぬ。何しろ、毎日夜になると、必ず二升半の日本酒を一升瓶から一息に呑み干し、トラックの荷台や米俵の上で眠ってしまう。恐るべきエネルギーである。
このカラバが大慌てしたことがあった。
夜遅くトラックで駆け付けたカラバが、閣下(ゲネラル)が到着したから直ぐ食糧を準備せよと言う。
大いに慌てているので、大分偉い将官らしいと想像しながら、各車輌から米や缶詰、酒等を集めていると味噌も必要だという。赤軍のゲネラルはミソを食うのかと訊いたら、何を言うか、お前等のゲネラルだ、早くはやくと急がせる。積込みがすむや否や大急ぎで出かけて行った。
閣下ともなると、日本軍のゲネラルでもソ連軍の将校を慌てさせる。カラバは生粋の軍人だから余計緊張したようだ。
カラバとプラットフォームを歩いていた時、出浦少尉が走って来て、赤軍の将校がピストルで脅して隊長の近藤少佐の装具を奪っていると言う。ソレッと駆けつけると、ちょうど一人の将校が毛布に物品を包み込み、絵で描いた泥棒よろしくの態で逃げ出す所だった。
カラバはそいつをムズと掴んで引戻す。相手は中尉だ。毛布を拡げて見ると長靴、図嚢、財布、軍服等総て近藤少佐の物ばかり。カラバは例の如く顔を真っ赤にして怒鳴りつけ、司令官に報告するとて、通信紙二枚に報告書を書き、中尉の肩章を剥ぎ取ってしまった。
我々は中尉が可哀相になって、酒の上のこと、品物が返れば許してやってくれと頼んだが、カラバは頑としてきかぬ。
件の中尉は大声を上げてオイオイと泣く。
かれこれ二時間泣き続けたのには驚いた。日本の兵隊も笑うが、ロシヤの兵隊もニヤニヤ笑って見ている。
日本人の前で格好が悪いというような見栄は丸でないらしい。ロスの兵隊は総じて純朴なのが多い。
日本軍の将校が軍刀で立木の試し斬りをすると、遠巻きにして目を丸くして感心している。夜間各所に日ソ両方から歩哨を立てるが、日本側は棒の先に銃剣を結び付けて規定通り「腕に銃」の構えをとると、相棒の赤兵が危ないから真っ直ぐに持てと警戒する。
ところが夜が更けると皆眠ってしまい歩哨は日本兵ばかり。
食糧にしても別に炊サンをやっているようすはなくほったらかし。兵隊は日本軍の缶詰や干メンボを噛ったり、パン代わりにチェンピン《煎り餅》を食ったりして自給自足。
臨機応変、甚だ野戦向きで手のかからぬ兵隊どもではある。
(つづく)
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