Re: イレギュラー虜囚記
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イレギュラー虜囚記(その1) (あんみつ姫, 2007/12/5 11:36)
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Re: イレギュラー虜囚記 (あんみつ姫, 2007/12/5 11:39)
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あんみつ姫
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新站から大混乱の吉林駅に着く
新站の駐屯部隊は、すでに赤軍が入っている蛟河《吉林省南東に位置する都市》へ移動することになっており、兵器もそこで引渡すと聞いたので、我々もついに決心し小銃、拳銃、手榴弾の残りを処置してもらうことにして完全武装解除《強制的に武器を取り上げる》。
残るは隊長と自分の焼けこげ軍刀のみ。
翌二十五日、前日と同じ客車に乗る。駅に十人ほどの小椅麓な苦力《クーリー=肉体労働者》が居ると思ったら、全員在満邦人の召集兵で、この格好で家族のもとに帰るという。在満召集兵は終戦と同時に除隊になったとか。
わが隊の軍属は内地から来たばかりだから、なんとしても新京本部まで連れて行き、爾後の処置をつけねばならぬ。新站から乗換え駅まで約一時間、蛟河方面からの列車で吉林への経路をとる。
乗換え駅では日本人の子どもが遊んでいた。駅長の子どもとかで、二、三日前匪賊《ひぞく=一般住民から食料や貴金属を強奪する集団》が来たので、皆で山へ逃げたと事もなげに話す。ロスはときどき汽車で通ると言う。これでは吉林通過は無理のようだ。
まずいことに客車は総て吉林止まり。吉林からは別の列車が新京へ出ているが、検閲が厳重で簡単には乗れないらしい。しかし何とか本部に行かねばならぬ。
駅で満人からカオズ、ユイピン《月餅》を買って食う。プラットフォームに胡座をかいて、上衣なしの泥まみれ、ヒゲぼうぼうの二十三人がムシャムシャやっている図は可笑しくもあり、口惜しくもあり。
列車は客車で満人と混乗。向かいの席の満人がチェンピン《厚皮に肉や野菜を包んで焼いたもの》とリンゴをくれた。案外民情は良さそうだ。夕方暗くなってから吉林に着く。列車は電灯も点かぬ。列車がゆっくりとプラットフォームに止る。
いるいる、ロスの兵隊が。神主の帽子みたいなものを被って自動小銃を肩からぶら下げている。列車の外には一寸出られぬ。
満人の乗客はさっさと行ってしまったが、我々は状況を探るため、眞暗な客車内でじっと車外の様子を窺うのみ。隣の列車からロスの合唱が聞こえてくる。
いかにも戦争に勝った軍隊らしく活気に満ちている。(註=今から思えば、初めて聞いたこの歌は、「カチューシャ」だった)。
隊長が一人で駅舎の方へ様子を見に行った。駅長の話によると、駅はすでに赤軍停車場司令官の下にあり、吉林市は赤軍の軍政下に置かれているとのこと。
線路を伝って西へ行くと、日本人が集まっている小学校があるというので、ひとまずそこまで行ってみることとし、一人ずつ素早く車を降りてスルスルと移動を開始する。
大分進んだが、眞暗闇で小学校らしきものは見当らぬ。貨車の陰に集って暫く様子を窺う。ソ連兵の歌声しきり。ロシヤ人らしく上手な合唱でメロディーも良い(註=これは「アガニヨーク」(ともしび)だった)。
方々に篝火《かがりび》が見え、思ったより小柄のロスの兵隊が集っている。駅長の話では、日本の軍人は新京には行けぬとのこと。こぅなれば貨車に潜り込んで脱出する以外手はなさそう。
しかし、当って砕けろ、相手がロスならこっちもロシヤ式に堂々と押しの一手だと思い直し、駅に逆戻りする。
ちょうど、通化からの列車が入って、日本兵が駅に溢れている。全員一装用の新品冬服だ。兵器はないが、被服や装具、食料を山のように積んでいる。あたり一面、石鹸や靴下が散乱。通化の近歩一だという。
明日から、通化師団がソ連命令で吉林に集結するらしい。
(つづく)
新站の駐屯部隊は、すでに赤軍が入っている蛟河《吉林省南東に位置する都市》へ移動することになっており、兵器もそこで引渡すと聞いたので、我々もついに決心し小銃、拳銃、手榴弾の残りを処置してもらうことにして完全武装解除《強制的に武器を取り上げる》。
残るは隊長と自分の焼けこげ軍刀のみ。
翌二十五日、前日と同じ客車に乗る。駅に十人ほどの小椅麓な苦力《クーリー=肉体労働者》が居ると思ったら、全員在満邦人の召集兵で、この格好で家族のもとに帰るという。在満召集兵は終戦と同時に除隊になったとか。
わが隊の軍属は内地から来たばかりだから、なんとしても新京本部まで連れて行き、爾後の処置をつけねばならぬ。新站から乗換え駅まで約一時間、蛟河方面からの列車で吉林への経路をとる。
乗換え駅では日本人の子どもが遊んでいた。駅長の子どもとかで、二、三日前匪賊《ひぞく=一般住民から食料や貴金属を強奪する集団》が来たので、皆で山へ逃げたと事もなげに話す。ロスはときどき汽車で通ると言う。これでは吉林通過は無理のようだ。
まずいことに客車は総て吉林止まり。吉林からは別の列車が新京へ出ているが、検閲が厳重で簡単には乗れないらしい。しかし何とか本部に行かねばならぬ。
駅で満人からカオズ、ユイピン《月餅》を買って食う。プラットフォームに胡座をかいて、上衣なしの泥まみれ、ヒゲぼうぼうの二十三人がムシャムシャやっている図は可笑しくもあり、口惜しくもあり。
列車は客車で満人と混乗。向かいの席の満人がチェンピン《厚皮に肉や野菜を包んで焼いたもの》とリンゴをくれた。案外民情は良さそうだ。夕方暗くなってから吉林に着く。列車は電灯も点かぬ。列車がゆっくりとプラットフォームに止る。
いるいる、ロスの兵隊が。神主の帽子みたいなものを被って自動小銃を肩からぶら下げている。列車の外には一寸出られぬ。
満人の乗客はさっさと行ってしまったが、我々は状況を探るため、眞暗な客車内でじっと車外の様子を窺うのみ。隣の列車からロスの合唱が聞こえてくる。
いかにも戦争に勝った軍隊らしく活気に満ちている。(註=今から思えば、初めて聞いたこの歌は、「カチューシャ」だった)。
隊長が一人で駅舎の方へ様子を見に行った。駅長の話によると、駅はすでに赤軍停車場司令官の下にあり、吉林市は赤軍の軍政下に置かれているとのこと。
線路を伝って西へ行くと、日本人が集まっている小学校があるというので、ひとまずそこまで行ってみることとし、一人ずつ素早く車を降りてスルスルと移動を開始する。
大分進んだが、眞暗闇で小学校らしきものは見当らぬ。貨車の陰に集って暫く様子を窺う。ソ連兵の歌声しきり。ロシヤ人らしく上手な合唱でメロディーも良い(註=これは「アガニヨーク」(ともしび)だった)。
方々に篝火《かがりび》が見え、思ったより小柄のロスの兵隊が集っている。駅長の話では、日本の軍人は新京には行けぬとのこと。こぅなれば貨車に潜り込んで脱出する以外手はなさそう。
しかし、当って砕けろ、相手がロスならこっちもロシヤ式に堂々と押しの一手だと思い直し、駅に逆戻りする。
ちょうど、通化からの列車が入って、日本兵が駅に溢れている。全員一装用の新品冬服だ。兵器はないが、被服や装具、食料を山のように積んでいる。あたり一面、石鹸や靴下が散乱。通化の近歩一だという。
明日から、通化師団がソ連命令で吉林に集結するらしい。
(つづく)
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あんみつ姫