Re: イレギュラー虜囚記
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イレギュラー虜囚記(その1) (あんみつ姫, 2007/12/5 11:36)
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あんみつ姫
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8月13日 晴 暑
拳銃射撃の練習ついでに地区司令部を覗く。
兵隊は焼け残った被服倉庫の棚に蚕のように並んで寝ている。司令部の戦闘部隊は飛行場大隊の佐々木警備中隊のみ。
我が方の軍属主体の未教育部隊と共同してもさしたる戦力なし。落下傘兵でも来れば万事終り。敵の航空前進基地になる恐れあり警戒を要す。
本日も早朝から牡丹江、海林の空襲続く。時々敵1~2機が気紛れのように我が方や地区司令部を襲う。被害なし。三八銃《明治38年制定の小銃》で応戦するも効果を認めず。
無駄な行動は敵の注意をひくので大人しく格納庫の煉瓦壁に待避する。機関砲弾が壁に当たってカランカランと賑やかな音をたてる。
無数の中国人が官舎街を襲い、物品略奪。屋根に上る奴もあり、図々しいのは裏庭にまで入って来て追い立てられている。
婆さん一人を掴まえて衛兵所《営内の警備 取り締まりを行なう詰め所》前に一晩縛り付けておいた。蚊に食われてブクブクした顔で帰って行った。
敵の通信状況は最盛時の感あり。無線電話で数字暗号も送っている。
夜、海軍陸戦隊がウラジオに逆上陸したとの噂あり。牡丹江憲兵隊の口伝網《口伝え方法による伝言の組織》による元気付けらしい。海朧では小銃により敵機を撃墜したとか。試しに牡丹江へ電話したら交換嬢が出た。撤退を勧めたら最後まで頑張りますと健気な返事。
牡丹江正面の敵戦車は、一応ムーリン方向へ撃退せりと。戦況やや小康を得た感あり。
午後8時すぎ、ゴウゴウたる爆音を響かせ、初めて敵爆撃機大編隊新京方面に通過す。
五軍司令部より、敵戦車約三〇〇磨刀石《黒龍江省ムーリンにある町》東方に集結中につき友軍機で叩いてくれるよう二航軍司令部へ連絡頼むとの電話あるも、当方も新京との通信杜絶しあり方策なし。
友軍機健在とも思われず。
牡丹江正面のわが軍の兵力は、ニヶ師団、実力一ヶ師団で十五糎重砲数門を持つに過ぎず、専らタコツボに拠る肉迫攻撃に頼っているらしい。
石頭、牡丹江の幹部候補生隊も大部分肉攻に出たとのこと。敵戦車10数両を擱座せしめたりと。(註-作間が掖河にいたとか)
8月14日 快晴 暑
早朝から時々敵機来襲するも被害なし。午前中、小銃、軽機の実包射撃訓練。軍属の中には小銃の扱い方もよく知らないのがいる。兵の中で軽機の実包射撃経験者は石田軍曹のみ。中村隊(標定隊)《電波の発信地を探索する部隊》は初年兵を差し出してきた。
ひどいものだ。それでも何とか全員弾丸だけは発射できるようになった。
牡丹江方面からの避難民が疲れ切って部落内に辿り着く。休ませたり食糧を与えたり。子供や跣《はだし》の女の人もいる。それでも少しでも敵から離れようと急ぐ。気の毒。
(つづく)
拳銃射撃の練習ついでに地区司令部を覗く。
兵隊は焼け残った被服倉庫の棚に蚕のように並んで寝ている。司令部の戦闘部隊は飛行場大隊の佐々木警備中隊のみ。
我が方の軍属主体の未教育部隊と共同してもさしたる戦力なし。落下傘兵でも来れば万事終り。敵の航空前進基地になる恐れあり警戒を要す。
本日も早朝から牡丹江、海林の空襲続く。時々敵1~2機が気紛れのように我が方や地区司令部を襲う。被害なし。三八銃《明治38年制定の小銃》で応戦するも効果を認めず。
無駄な行動は敵の注意をひくので大人しく格納庫の煉瓦壁に待避する。機関砲弾が壁に当たってカランカランと賑やかな音をたてる。
無数の中国人が官舎街を襲い、物品略奪。屋根に上る奴もあり、図々しいのは裏庭にまで入って来て追い立てられている。
婆さん一人を掴まえて衛兵所《営内の警備 取り締まりを行なう詰め所》前に一晩縛り付けておいた。蚊に食われてブクブクした顔で帰って行った。
敵の通信状況は最盛時の感あり。無線電話で数字暗号も送っている。
夜、海軍陸戦隊がウラジオに逆上陸したとの噂あり。牡丹江憲兵隊の口伝網《口伝え方法による伝言の組織》による元気付けらしい。海朧では小銃により敵機を撃墜したとか。試しに牡丹江へ電話したら交換嬢が出た。撤退を勧めたら最後まで頑張りますと健気な返事。
牡丹江正面の敵戦車は、一応ムーリン方向へ撃退せりと。戦況やや小康を得た感あり。
午後8時すぎ、ゴウゴウたる爆音を響かせ、初めて敵爆撃機大編隊新京方面に通過す。
五軍司令部より、敵戦車約三〇〇磨刀石《黒龍江省ムーリンにある町》東方に集結中につき友軍機で叩いてくれるよう二航軍司令部へ連絡頼むとの電話あるも、当方も新京との通信杜絶しあり方策なし。
友軍機健在とも思われず。
牡丹江正面のわが軍の兵力は、ニヶ師団、実力一ヶ師団で十五糎重砲数門を持つに過ぎず、専らタコツボに拠る肉迫攻撃に頼っているらしい。
石頭、牡丹江の幹部候補生隊も大部分肉攻に出たとのこと。敵戦車10数両を擱座せしめたりと。(註-作間が掖河にいたとか)
8月14日 快晴 暑
早朝から時々敵機来襲するも被害なし。午前中、小銃、軽機の実包射撃訓練。軍属の中には小銃の扱い方もよく知らないのがいる。兵の中で軽機の実包射撃経験者は石田軍曹のみ。中村隊(標定隊)《電波の発信地を探索する部隊》は初年兵を差し出してきた。
ひどいものだ。それでも何とか全員弾丸だけは発射できるようになった。
牡丹江方面からの避難民が疲れ切って部落内に辿り着く。休ませたり食糧を与えたり。子供や跣《はだし》の女の人もいる。それでも少しでも敵から離れようと急ぐ。気の毒。
(つづく)
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