@





       
ENGLISH
In preparation
運営団体
メロウ伝承館プロジェクトとは?
記録のメニュー
検索
その他のメニュー
ログイン

ユーザー名:


パスワード:





パスワード紛失

Re: イレギュラー虜囚記

投稿ツリー


このトピックの投稿一覧へ

あんみつ姫

通常 Re: イレギュラー虜囚記

msg#
depth:
9
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2007/12/6 23:11
あんみつ姫  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 485
   8月17日やっと横道河子までさがる

 8月17日 晴  
早朝、路上で干麺包の朝食。直ちに出発。横道河子市内の混雑を予想し、車両を先行させ、人員は徒歩行軍。五軍主力は、夜間に我々を追い越したらしく、前方約五〇〇米の地点を、敵機が銃撃を反復し追跡してゆく。
さらに前方、横道河子入口付近は激しい銃爆撃を受けている。敵機は反復掃射15分、弾薬、燃料補給に40分姿を消す。毎回同じ形式。編隊は3~9機。

 横道河子市内に入る。停車中の貨物列車の側面に、ポカリポカリと規則正しい機関砲弾の穴が並ぶ。谷あいの射撃にしてはなかなか正確な狙い。街中後退兵で充満し、街角に五軍《第五軍団》から将校が出て交通整理。「行先不明者集合地点」などの貼紙もある。

駅のプラットホームは地方人、兵隊で一杯。駅正面のロシア人クラブらしい建物が五軍司令部となり、玄関の階段上に、少佐参謀がどっかと椅子に腰を据え、部隊行動をとらない兵隊を大声で追い返す。

 街を抜け、峠手前の糧秣廠付近で部隊集結を図る。空襲に備えて、車両を道路両側に分散配置し終わったところへ、前方から、大佐の乗った指揮車とトラック一両が現れ、通行妨害になるから車両を片側に寄せろと怒鳴る。
止むなく、進行方向右側へ一列に並べ変えた途端、敵機!の叫び声。峠の東側山沿いに敵三機迂回中。道路左側は大きな凹地、右側は疎林《木のまばらな林》

凹地斜面の松の根方に伏せる間もなく、稜線を越えて第一回の銃爆撃。小型爆弾は、爆発しても細分化せず土塊と共に蛸足のように飛ぶ。品質が悪いのか、山土のせいか、威力なし。ただし、機関砲は危ない。ビュンビュンと唸りながら松の枝を散らす。敵機は上昇反転して背後から襲う。

凹地が広いので、反対斜面への移動は無理。やむなくそのままやり過ごす。凹地の底で輜重馬が五、六頭無心に草を食っている。敵機は、道路右側の車両縦列を狙って三回反復攻撃し姿を消した。

 路上に上がって点呼。人員に異常なし。武藤車は、ラジエーターに被弾、運転席の硝子吹っ飛ぶ。自分の車は左後輪外側タイヤパンク。道路右側の林に退避した者は被害甚大。一中隊の上原属即死、大野曹長胸部貫通、志治伍長掌《手のひら》負傷。

他部隊では、腹を抉られた者、足首の砕けた者など、草いきれと血の臭い。一中隊水谷衛生兵が他隊の重傷者にも手当てを施し大活躍。喜野隊長が死者、負傷者を野戦病院に運ぶべく横道河子へ逆行する。

 このままでは再度やられる、車を分散すべしということで、城所車と自分の車が峠を越えて前進。坂道を下り切って、道路と浜綏線が平行している平坦地で道路外の草地に停車、城所車はさらに前方一〇〇米まで出る。他部隊の車両もどんどん後退する。

 飯盒炊さんとタイヤ交換作業を開始。空襲時の退避地点を、道路左三〇米の浜綏線《ハルピンと牡丹江を結ぶ鉄道》向う側の凹地と決める。道路右側は山の緩やかな斜面で退避には不適。対空監視に臆病者の雇員をつける。怖くて一心に見張るはずだ。

横道河子上空の敵機の一部がときどき眞一文字に突っ込んでくる。反射上昇時に、後部座席の射手が天蓋を開けて下を覗きながら旋回機銃で狙い射。こっちも数回小銃で射ってみたが、効果があるはずもなく、爾後大人しく逃げ回ることとする。

 パンク補修が完了してタイヤに空気を入れる。空気入れが自転車用でなかなか規定圧まで上がらぬ。敵機が見えると、空気栓を閉める余裕もなく、一目散で突走る。

敵機が向って来ると分かって数歩走る問に、先ず、ビュンビュンと弾丸が掠め、そのあとで爆音と発射音がかぶさってくる。タイヤ圧あと少しとなると敵機の繰り返し。丸で賽の河原だ。 
                           (つづく)

--
あんみつ姫

  条件検索へ