Re: イレギュラー虜囚記
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イレギュラー虜囚記(その1) (あんみつ姫, 2007/12/5 11:36)
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- Re: イレギュラー虜囚記 (あんみつ姫, 2007/12/8 21:50)
あんみつ姫
居住地: メロウ倶楽部
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8月19日 晴
夜行軍を続け19日となる。麦畑の中の道路で両側に分かれて休憩中、後方の空に煌々たるヘッドライトの光が反射し、エンジンの響きが聞こえてきた。ソ連先頭部隊だ。あの悪路を早くも越えて来たかと機動力に驚く。
誤射を受けないよう隊長と二人だけ道の真ん中に出て、わざと煙草に火をつける。目を射るような強い光を向けて、先頭はジープ、あと砲を牽引した二両が続く。
ジープのソ連兵が自動小銃を構える。外套をすっぽり被ったロシア人が降りて来て、日本語で「日本ハ降伏シマシタ。モウ戦争ハアリマセン。アナ夕方トハ友達デス」と言って握手を求めてきた。「知っている」とロシア語で答えたら、相手もロシア語になって、「君はロシア語が話せるのか」と尋ねるので「少々やる」と返答。
「ここから新京までどれ位の距離か」田中隊長が怪しいロシア語で割り込んできて、「我々は新京を通った」とやったので、奴さん驚いて「オウ、われわれの通った道には、牡丹江のはかには大きな街は無かったが、通り過ぎたか」と慌てる。
「いや、我々も新京へ行く途中だ。まだ五百粁はある。」と言うと、「そうだろうと思った。時に、ヤプロニーまでどれくらいか」「約二十粁」と答えると、車の将校に伝えてジープに飛び乗った。車の上から日本語で「アナタハロシア語が大変ウマイデス」と言いながら快速で前進して行った。あんな機動力と装備が欲しかったとしみじみ思う。
今まではソ連軍に追いかけられているような気持だったが、とうとう追い越された。こうなれば歩度を落として進むのみ。左側三百米に鉄道線路、その向こうは、ずっと林が連なっており、疲れてくると、それが人家の屋根に見えたり、駅舎に思えたりする。隊員の中には、褌一つになってヨロヨロ歩くのも出てきた。
やっと、側溝に片車両を落とした新しい車両を見つけた。エンジンは未だ温かい。中川運転手が始動すると気持ちよくかかる。先ほどの赤軍ジープに驚いて兵隊が逃げたのだろう。持ち主がいない問に乗り逃げと決め、トラックを押し上げる。荷台を調べると、あるわあるわ、糧秣、被服、白米に牛缶。早速石油缶に一杯白米を炊く。
飯も食ったしさて出発。ところが、五分も走らない中に前照燈が消えた。「くそ、日本のインチキニッサンめ、ド新品のくせにもう故障か、これだから戦争に負けたんだ」と一同カンカン。
そう言えば、15日の夜下ろした新品の将校用編上靴の底に、もう穴があいた。
何たるお粗末!
幸い後方から友軍のトラックが一台追い着いてきた。将校が、「さっきのロシア人は何ですかね」と訊く。「赤軍ですよ」と教えたら、「何でこんな処まで来たのだろう」と日本降伏を知らないらしい。陛下の放送のことを話したら、「道理で」とびっくり驚いていた。
この車に先導してもらって前進。一粁も行かない中にストップ。先鋒の車は20米くらいの所で待ってくれたが、修理に手間取りそうなので先に行ってもらい、車は中川に任せて、他は毛布を被って仮眠。
夜が明けた頃修理完了。一時間くらい走ったらまた故障。配電盤が良くないようだ。五十年配のリュックを背負った夫婦が逃げて来たので車に乗せ出発しようとしたら、昨日の砲兵隊が続々と追い付いてきた。彼らは路上に遺棄トラックがあると、それを横倒しにして道を空ける。ソ連軍が通ったあとは、友軍のトラックが車輪を上にあげて無様な恰好。
我々が行くと、ソ連兵は車を片方に寄せて通してくれる。ヤプロニー手前で遂に完全に故障。車を捨てて徒歩行軍に移る。ソ連軍が道路上を進むので、我々は線路上を歩く。銃を担いでいるが、ソ連側は丸で問題にしていない様子。中型戦車も進出してくる。
朝鮮人が万才万才と歓迎し、中には戦車に飛び乗る奴もいる。線路上はバラバラと日本兵、ムーリン《牡丹江の北東の黒龍江省の町》の八八部隊らしい。祖泉(隆平)が五月に入隊した部隊だ。
(つづく)
夜行軍を続け19日となる。麦畑の中の道路で両側に分かれて休憩中、後方の空に煌々たるヘッドライトの光が反射し、エンジンの響きが聞こえてきた。ソ連先頭部隊だ。あの悪路を早くも越えて来たかと機動力に驚く。
誤射を受けないよう隊長と二人だけ道の真ん中に出て、わざと煙草に火をつける。目を射るような強い光を向けて、先頭はジープ、あと砲を牽引した二両が続く。
ジープのソ連兵が自動小銃を構える。外套をすっぽり被ったロシア人が降りて来て、日本語で「日本ハ降伏シマシタ。モウ戦争ハアリマセン。アナ夕方トハ友達デス」と言って握手を求めてきた。「知っている」とロシア語で答えたら、相手もロシア語になって、「君はロシア語が話せるのか」と尋ねるので「少々やる」と返答。
「ここから新京までどれ位の距離か」田中隊長が怪しいロシア語で割り込んできて、「我々は新京を通った」とやったので、奴さん驚いて「オウ、われわれの通った道には、牡丹江のはかには大きな街は無かったが、通り過ぎたか」と慌てる。
「いや、我々も新京へ行く途中だ。まだ五百粁はある。」と言うと、「そうだろうと思った。時に、ヤプロニーまでどれくらいか」「約二十粁」と答えると、車の将校に伝えてジープに飛び乗った。車の上から日本語で「アナタハロシア語が大変ウマイデス」と言いながら快速で前進して行った。あんな機動力と装備が欲しかったとしみじみ思う。
今まではソ連軍に追いかけられているような気持だったが、とうとう追い越された。こうなれば歩度を落として進むのみ。左側三百米に鉄道線路、その向こうは、ずっと林が連なっており、疲れてくると、それが人家の屋根に見えたり、駅舎に思えたりする。隊員の中には、褌一つになってヨロヨロ歩くのも出てきた。
やっと、側溝に片車両を落とした新しい車両を見つけた。エンジンは未だ温かい。中川運転手が始動すると気持ちよくかかる。先ほどの赤軍ジープに驚いて兵隊が逃げたのだろう。持ち主がいない問に乗り逃げと決め、トラックを押し上げる。荷台を調べると、あるわあるわ、糧秣、被服、白米に牛缶。早速石油缶に一杯白米を炊く。
飯も食ったしさて出発。ところが、五分も走らない中に前照燈が消えた。「くそ、日本のインチキニッサンめ、ド新品のくせにもう故障か、これだから戦争に負けたんだ」と一同カンカン。
そう言えば、15日の夜下ろした新品の将校用編上靴の底に、もう穴があいた。
何たるお粗末!
幸い後方から友軍のトラックが一台追い着いてきた。将校が、「さっきのロシア人は何ですかね」と訊く。「赤軍ですよ」と教えたら、「何でこんな処まで来たのだろう」と日本降伏を知らないらしい。陛下の放送のことを話したら、「道理で」とびっくり驚いていた。
この車に先導してもらって前進。一粁も行かない中にストップ。先鋒の車は20米くらいの所で待ってくれたが、修理に手間取りそうなので先に行ってもらい、車は中川に任せて、他は毛布を被って仮眠。
夜が明けた頃修理完了。一時間くらい走ったらまた故障。配電盤が良くないようだ。五十年配のリュックを背負った夫婦が逃げて来たので車に乗せ出発しようとしたら、昨日の砲兵隊が続々と追い付いてきた。彼らは路上に遺棄トラックがあると、それを横倒しにして道を空ける。ソ連軍が通ったあとは、友軍のトラックが車輪を上にあげて無様な恰好。
我々が行くと、ソ連兵は車を片方に寄せて通してくれる。ヤプロニー手前で遂に完全に故障。車を捨てて徒歩行軍に移る。ソ連軍が道路上を進むので、我々は線路上を歩く。銃を担いでいるが、ソ連側は丸で問題にしていない様子。中型戦車も進出してくる。
朝鮮人が万才万才と歓迎し、中には戦車に飛び乗る奴もいる。線路上はバラバラと日本兵、ムーリン《牡丹江の北東の黒龍江省の町》の八八部隊らしい。祖泉(隆平)が五月に入隊した部隊だ。
(つづく)
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あんみつ姫