Re: イレギュラー虜囚記
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イレギュラー虜囚記(その1) (あんみつ姫, 2007/12/5 11:36)
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あんみつ姫
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輜重隊が横道河子手前三粁の糧秣廠に左折し始めたので、衛藤を担架へ移して交替で担いで前進する。
途中で、谷間から路上へ出た挽馬輜重隊に出合う。乗馬の隊長が、牡丹江教育隊で同区隊にいた小岩井候補生であった。
兵隊がほとんど支那帰りで、肉迫攻撃の要領も知らず苦労したとか。中隊長代理で厄介なことだとぼやいていた。彼は樺林《黒龍江省牡丹江市の町》の七〇〇〇部隊。戦車にやられて後尾の車両列が踏み潰され、彼の将校行李《将校に任官すると日常品を入れる私用行李が与えられる(購入)》もなくなったと。
友軍機はどうしたと聞くので、十五日の陛下の放送を説明してやったら驚いていたが、覚悟もしていた様子。お互いの健闘を誓って別れ、小隊を追う。
左は谷、右は山で、茂った木々が重なり合って星空では路上は真暗。焼けた車や馬の死体が転がっていて歩きにくい。通が下りになったところで一塊りになった人影が見え、やっと追いつく。
田中隊長が、野戦病院は戦車が接近したので後退し、前線には繃帯所《簡単な治療所》もないらしい、ここで埋めようと言う。山の斜面で穴を掘る。歩兵の携帯円匙一丁でははかがゆかぬが、一時間ほどで五〇糎の深さになった。
隊長が形見として、遺体の小指の先を軍刀で斬り取ろうとするがうまくゆかず、貴官がやれと押し付ける。軍刀の引き斬りでは、関節に当らなければ骨がキコキコと抵抗する。やっと始末した隊長が指先を紙に包んで上衣のかくしに入れた。
衛藤の軍装を整え、鉄帽もつけ銃を振らせて埋葬。草と木の枝をしっかり被せた。池田雇員が小声で読経、全員挙手の礼で別れを告げる。
道路上へ出て小休止。青い三日月が出ている。ずっと姿を見せぬ石田軍曹を呼びながら元きた道を引き返す。先ほどの糧秣廠付近で他部隊のトラックに乗った石田に出会う。
軍刀を探しているうちに暗くなって隊を見失ったとか。石田によると、我々の焼けた車から前方五〇米の道路上に、二線の歩哨《ほしょう=警戒取締りの兵》が立ち、特別の許可なき限り出入禁止となった。
庄司雇員が本隊から帰ってきたが、歩哨線を越えられず、石田は、我々は前線に戻って突っ込むから、本隊は我々にかまわず下がってくれと伝えたとのこと。庄司はやむなく本隊を追って行った由。海林部隊長後尾の第二中隊第二小隊二十三名、田中中隊長を長として本隊から千切れてしまった。
清水の湧いている道端で小休止。さて、どうするかと隊長。歩哨線は出られぬし、今さら斬込みも無駄。こんごは兵員を損なわぬことが第一。幸い、五軍の月岡参謀が喜野少佐の義兄に当たるので、横道河子に引き返して事情を話すことに決定。
またまた山道を逆行。衛藤を葬った箇所で一礼し、市内に入る。
暗闇の中で各部隊ごった返し。駅構内は、あちこちで焚き火。ロシア人クラブはがらん洞。隊長は司令部を探して横道へ下りて行く。一同玄関階段で休む。夜気が冷たい。クラブ横の建物に、ロウソクをともしてリュック姿の地方人が四、五十人いる。牡丹江の在郷軍人とか。
下士官が一人、司令部を尋ねてきた。掖河で大分斬り込みをやったが、ロスケはワァワァ泣いて逃げ惑い面白かった。敵戦車二両をやっつけた朝鮮人初年兵は金鵄ものだと感心している。暗くて顔は分からぬが、元気のいい下士官だった。
時おり小銃の音がするだけで、夜は戦争も一休みの恰好。三十分ほどで隊長が帰ってきた。月岡さんは司令部の連中と飲んでいる。「明18日正午、五軍は降伏する。ここで武装解除するから、君らは、月岡参謀承認済みと言って後退せよ」と言われたと。我々はあくまでも武装のまま新京本部に至ることとし、再び夜道を撤退行軍開始。
本日、この山道を往復すること四度、約三〇粁。一同疲労甚だし。隊長は手を引いてくれと言う。歩きながらフラフラと眠っている。例の糧秣廠まできたら、「糧秣交付所」の掲示があったので立ち寄る。
大釜二つに白飯が一杯。握り飯を鱈腹食ったら眠気に勝てず、苦力用《クーリー=肉体労働者》のアンベラ小屋で南京虫に食われつつ全員泥のように眠る。
(つづく)
途中で、谷間から路上へ出た挽馬輜重隊に出合う。乗馬の隊長が、牡丹江教育隊で同区隊にいた小岩井候補生であった。
兵隊がほとんど支那帰りで、肉迫攻撃の要領も知らず苦労したとか。中隊長代理で厄介なことだとぼやいていた。彼は樺林《黒龍江省牡丹江市の町》の七〇〇〇部隊。戦車にやられて後尾の車両列が踏み潰され、彼の将校行李《将校に任官すると日常品を入れる私用行李が与えられる(購入)》もなくなったと。
友軍機はどうしたと聞くので、十五日の陛下の放送を説明してやったら驚いていたが、覚悟もしていた様子。お互いの健闘を誓って別れ、小隊を追う。
左は谷、右は山で、茂った木々が重なり合って星空では路上は真暗。焼けた車や馬の死体が転がっていて歩きにくい。通が下りになったところで一塊りになった人影が見え、やっと追いつく。
田中隊長が、野戦病院は戦車が接近したので後退し、前線には繃帯所《簡単な治療所》もないらしい、ここで埋めようと言う。山の斜面で穴を掘る。歩兵の携帯円匙一丁でははかがゆかぬが、一時間ほどで五〇糎の深さになった。
隊長が形見として、遺体の小指の先を軍刀で斬り取ろうとするがうまくゆかず、貴官がやれと押し付ける。軍刀の引き斬りでは、関節に当らなければ骨がキコキコと抵抗する。やっと始末した隊長が指先を紙に包んで上衣のかくしに入れた。
衛藤の軍装を整え、鉄帽もつけ銃を振らせて埋葬。草と木の枝をしっかり被せた。池田雇員が小声で読経、全員挙手の礼で別れを告げる。
道路上へ出て小休止。青い三日月が出ている。ずっと姿を見せぬ石田軍曹を呼びながら元きた道を引き返す。先ほどの糧秣廠付近で他部隊のトラックに乗った石田に出会う。
軍刀を探しているうちに暗くなって隊を見失ったとか。石田によると、我々の焼けた車から前方五〇米の道路上に、二線の歩哨《ほしょう=警戒取締りの兵》が立ち、特別の許可なき限り出入禁止となった。
庄司雇員が本隊から帰ってきたが、歩哨線を越えられず、石田は、我々は前線に戻って突っ込むから、本隊は我々にかまわず下がってくれと伝えたとのこと。庄司はやむなく本隊を追って行った由。海林部隊長後尾の第二中隊第二小隊二十三名、田中中隊長を長として本隊から千切れてしまった。
清水の湧いている道端で小休止。さて、どうするかと隊長。歩哨線は出られぬし、今さら斬込みも無駄。こんごは兵員を損なわぬことが第一。幸い、五軍の月岡参謀が喜野少佐の義兄に当たるので、横道河子に引き返して事情を話すことに決定。
またまた山道を逆行。衛藤を葬った箇所で一礼し、市内に入る。
暗闇の中で各部隊ごった返し。駅構内は、あちこちで焚き火。ロシア人クラブはがらん洞。隊長は司令部を探して横道へ下りて行く。一同玄関階段で休む。夜気が冷たい。クラブ横の建物に、ロウソクをともしてリュック姿の地方人が四、五十人いる。牡丹江の在郷軍人とか。
下士官が一人、司令部を尋ねてきた。掖河で大分斬り込みをやったが、ロスケはワァワァ泣いて逃げ惑い面白かった。敵戦車二両をやっつけた朝鮮人初年兵は金鵄ものだと感心している。暗くて顔は分からぬが、元気のいい下士官だった。
時おり小銃の音がするだけで、夜は戦争も一休みの恰好。三十分ほどで隊長が帰ってきた。月岡さんは司令部の連中と飲んでいる。「明18日正午、五軍は降伏する。ここで武装解除するから、君らは、月岡参謀承認済みと言って後退せよ」と言われたと。我々はあくまでも武装のまま新京本部に至ることとし、再び夜道を撤退行軍開始。
本日、この山道を往復すること四度、約三〇粁。一同疲労甚だし。隊長は手を引いてくれと言う。歩きながらフラフラと眠っている。例の糧秣廠まできたら、「糧秣交付所」の掲示があったので立ち寄る。
大釜二つに白飯が一杯。握り飯を鱈腹食ったら眠気に勝てず、苦力用《クーリー=肉体労働者》のアンベラ小屋で南京虫に食われつつ全員泥のように眠る。
(つづく)
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あんみつ姫