我が軍隊的自叙伝 緒方 惟隆 7
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我が軍隊的自叙伝 緒方 惟隆 (編集者, 2013/4/5 7:48)
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新兵の章 3
演習は楽しかった。気を遣わねばならない古年次兵は居らず周囲は全部同年兵だったからである。演習が一区切りついて休憩するときの「誉」の一ぶくは特にうまかった。乗馬演習での鐙上げ速足は、最もつらい訓練の一つで、膝の内側で鞍をはさむので、馬が走り出すと擦り剥けて、ひどい者は血で袴を真っ赤に染めて実に気の毒な有り様であった。私は袴を血で染めたことは無かったけれども、厠で用を足すとき会陰の部分か突っ張り、痛くてしゃがむのに苦労をした。しかし訓練が進むに従って痛みなど何処かに消えて、連日の乗馬演習も平気になった。こうして乗馬か楽しくなって来た或る日、野外の乗馬訓練があった。大亀谷の桃山練兵場への坂を上っていたとき、愛馬「大地」が何かにつまずいてガク。と膝を折った。
まだまだ騎座が甘い時期だったので、手綱に引っ張られ馬の頭を飛び越して物の見事に一回転して落馬した。「しまった」と思い、すぐさま馬の前脚の膝を見た。無情にも愛馬「大地」の膝は、毛が擦り切れて血が溶んでいた。「ああ、とうとうやってしまった」。常日頃、古年次兵から「冠膝をやったら馬の値打ちが半分になるぞ。馬は兵器だ。兵器を傷付けると、重営倉だぞ」とやかましく、しかもおどかし半分に注意されていたので、往生してしまった。仕方がない。度胸を決めて、藤岡教官に報告した処「曳き馬で帰れ」と言われたので、トボトボと曳き馬をして厩舎まで帰り、馬の手入れをしていると、長谷川(栄)君が私と同じ様に一人曳き馬で帰って来た。「どうしたんだ」と聞いて見ると彼も、私と全く同じ状態で落馬して冠膝をやったという。同犯が出来て幾分気は楽になったが、班長に報告しなければならないので憂鬱だった。しかも、同じ班の馬が二頭も一っぺんに冠膝をやったのである。班長の怒りが目に見える。しかし、どうし様もないので二人揃って班長室へ入り尾崎班長に報告した。果たして目玉が飛び出る程叱られて、挙句の果ては、二人で対抗ピンタを命ぜられた。全くお粗末の一席であった。この対抗ピンクの話は長谷川君と会う機会があると、今でも必ず出てくる。
「乗馬」は乗り手が意のままに馬を御してこそ乗馬である。三回位馬に乗っても単に馬に「乗せて貰った」のであって、「乗った」のではない。徴兵検査官の「ニヤリ」の意味が、この頃になってようやく判って来るのである。馬を扱っていて、最初の一ヶ月位は馬の習性か判らないので馬がこわい。このこわい時期を通り越すと全くこわさを忘れてしまう。この時期が最も危険な時で、冠膝をしたり蹴飛ばされたりして怪我をするのはこの時期であると思う。そして又五・六ヶ月も経つと再び馬がこわくなる。(馬に乗り始めの時のこわさと違って、馬の習性が判ってのこわさである)