我が軍隊的自叙伝 緒方 惟隆 11
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編集者
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騎兵学校の章 3
七月か八月か日は覚えていないが、千葉県の白浜海岸へ、速射砲の実弾射撃演習に行った。演習とは名ばかりで、実際は海水浴であったか、射撃演習か名目なのだから、やらない訳にはいかない。速射砲を一の宮海岸の砂浜に海に向けて据付け、三、四百米程沖に浮かぶ目標的に実弾を発射した。この速射砲は故障が多いのか、或いは暴発弾が多いのか、発射する際は、測距手も射手も十米程後方に下がり、引き鉄にロープをつないで、それを引いて発射した。何とも不思議な実弾射撃演習であった。演習も終わってあとは水泳である。泳ぎの達者な者は白帽、暫くでも浮いていられる者は白赤のタングラ帽、金槌は赤帽であった。川口と私はまずまずの方(川口は抜群の運動神経の持ち主で、何をやらしても、私など足元にも及ばない程であった)だったので、ともに白帽をかぶった。一しきり泳いだあとすぐ側の川で黄色火薬の爆破実験をすることになり、区隊附下士官が五十糎立方位に梱包した黄色火薬を用意して川の中央に沈めた。川は、ほぼ私の背丈程の深さで、幅は河口なので三十米位はあったと思う。「危険だから皆、岸へ上がれ、爆発のあと魚が浮いたら飛び込んで拾へ」ということで、私達はあわてて川岸へ上がった。区隊附下士官がスイッチを入れた。大爆音と共に直径二米位の水柱が、二十米程の高さに真っ直ぐに上がった。子供の頃「少年倶楽部」などで、日露戦争の日本海海戦の挿絵があったが、その中で軍艦の周囲に上がっている水柱が真っ直ぐなのを不思議に思っていたが、全くその絵の通りなので、成程水中で爆発か起きると真っ直ぐ上に水柱か上がるのだと納得したことであった。さて北支中支の戦線で、池に手榴弾を投げ入れると、魚が一面に白い腹を見せて浮き上がるということを聞いていたので、目を皿のようにして水面を見ていたか、一向に一匹も浮いて来ない。不思議に思いなからしばらく待っていたけれども浮いて来ないので飛び込んで泳いでいると、背中や脚の方々で何かが触れる。手をやって見ると、大小の魚が浮力を失って水中を漂っている。失神しているのだろう。何匹も足の指で挟んだり手で掴み取ったりして、区隊附下士官が乗っている舟に投げ込んだ。その日の夕食にそれらの魚が、食卓に上がったのは言うまでもない。それにしても、何故魚が浮かなかったのか不思議でならない。
また或る日。「緒方候補生、面会だぞ」と誰かが知らせてくれた。ハテナ?こんな処まで誰が面会に来てくれたのかな、と不審に思いながら面会所に行くと次兄か立っていた。久し振りだったので色々な話をしたと思うが、最後に軍刀を買ってやるからそのつもりでという。大変嬉しい話。やっぱり兄貴である。他人ではこんな嬉しい話はしてくれない。有難く感謝してご厚意に甘えることにした。後日東京へ出て九段のあたりで、細身の長い騎兵向きの軍刀買って貰った。沢山の軍刀の中から選び抜いて、とっても気に入って買い求めた銀いぶしの軍刀だったので、終戦になるまで私の腰から離れたことはなかった。