我が軍隊的自叙伝 緒方 惟隆 19
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中隊長の章 1
六月十三日。「第四中隊附」
到着して直ちに、聯隊幹部に「お世話になる」旨の御挨拶を済ませ、すぐ編成業務に取り掛かった。その日から一週間は目の廻る程の忙しさであった。羅南の師団司令部へ兵器の受領に行ったり、召集兵や入営兵の受入れをしたり、身上調書を整理したりして毎日を過ごした。営庭から見える白頭山の頂は、まだ雪が残っている。六月の中旬だというのに肌寒いので、セーターを着込んだ。北朝鮮は緯度が高いので大分内地とは気温が違う。
六月二十日。「編成完結。同月同日。第四中隊長ヲ命ゼラル」
海上輸送第三十大隊の幹部は次の通りであった。
大隊長 香川純一大尉 副官 大谷剛一郎少尉
本部中隊 長 千田清一郎少尉
本部附 副島 益雄見士 田中 江見士 伊藤田 豊見士 谷口 快男見士(経理) 安藤洲二郎見士(軍医)
第一中隊 長 小倉 忠清少尉 中隊附 山本 実見士
第二中隊 長 柳井 義正見士 中隊附 木戸 光彦見士
第三中隊 長 小森 和男少尉 中隊附 三村 正三見士
第四中隊 長 緒方 隆少尉 中隊附 鈴木健一郎見士
第五中隊 長 松原 信定少尉 中隊附 野中 正義見士
材料廠中隊 長 城戸 純彦少尉 中隊附 鈴木千賀治見士
戦争末期、如何に下級将校が不足していたかが伺われるスタッフである。中隊長が見習士官とは恐れ入る。大谷、小倉各少尉は第七期、千田、城戸各少尉は第八期、小森、松原、私は第九期の幹部候補生、柳井見習士官は第十一期幹部候補生、その他の見習士官は全員、第十二期の幹部候補生であった。
これより先、六月十五日。第十六方面軍の隷下に入った。第十六方面軍は本土決戦のために新設され九州地区を担当する方面軍で、軍司令官は横山勇陸軍中将であった。
さて、編成を完結したとはいっても、小銃は十人に一挺。しかもその小銃たるや遊底覆・照尺板・木被・下帯顧環・床尾顧環・負い革等は全て省かれ、床尾板は木製。最も肝心な腔綾は無く、まるで散弾銃である。コンボ剣の鞘と水筒は竹製。
何ともひどい装備で、これでは戦争に勝てないと思った。
私の中隊は、私以下六十八名。現地召集者は全部日本人で、現地入営の新兵は全部朝鮮人であ。た。彼等は比較的早婚で新兵の半数以上は妻帯者であった。六月二十八日。中隊長会議があり、任地までの輸送計画を打ち合わせた。
1、朝鮮の人は、朝鮮半島を離れる(自分の意志以外で)のを極端に嫌う。だから任地は鎮南浦と発表すること。(行先を釜山だと発表すれば、半島を離れることが察しられるので脱走する恐れがある。殊に新婚が多いのでその公算が大である)
2、脱走兵を出さないことを最重点とすること。
3、(以下略)