自分誌 鵜川道子・12
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編集者
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結婚式の翌朝姑は私達の家を見に来た。新婚旅行にも行かずの第一日目の早朝の訪問にびっくりして飛び起き不意をつかれた私のうろたえた姿は筆舌には表わすことの出来ないものである。姑の目から見た私達の姿はきっと頼りない幼な子のように写ったであろうか、四月二十八日の出来事であった。
夫昭の四月分の月給までまだ日があるからと何がしかのお金と今まで使用していたと云う印鑑を私に預けて行ったのである。しかし印鑑は預ったものの一冊の通帳もなく一カ月分の食費を手渡されたのである。
兄姉達からのお祝いだと云って洋服ダンスとベビーダンスと飯台が用意されていた。私の親からはお祝いと云って弐萬円也を頂き下駄箱と鏡台そして台所用品等を買い揃えたのだった。ふとんは、使用していたものの綿を打ち返して用意したような気がする。ただこれだけの家庭用品が新しい小さな家の中に運びこまれて形だけは何とか生活が始められた。五月の末になり主人から初めての月給を生活費として受け取ったのだが、とても頼りない収入であることを実感した。口に出してはまだ云えず困惑した。しかし二、三ヶ月経っても充分生活して行くことには程遠い収入でだんだん不安がつのって来たのである。
昭は朝会社へ行く様な格好で家を出るのだが真直ぐに会社に出勤していないことが、会社からの電話によりだんだん分って来たのだ。思い余って理由を問い正してもなかなか真相が分らず給料日になるとその結果が否応なく出てくるのである。こうなっては私も家で内職などはしていられないと勤めに出ることを考えずには居られなくなった。何となくあせりのような気持ちになり近くの工場に働きに行ったり亀戸の化粧品会社の事務員として手伝いに行くことになったが、若い頃の高望みは一斉捨ててパートの様な勤務体形の会社ばかりに他ならなかった。私が一年半位働いている間に昭は大っぴらに会社を休んでは家で寝ていることが多くなっていった。
クリスチャンとして聖日には教会へ行き礼拝をし清く正ししい生活がお互いの基盤と考えていたが、結婚前の約束などいつしかくずれ去って行くのが何ともくやしい思いであった。神前で誓った永遠に幸せな夫婦生活を夢見ていたのに現実は全く逆の方向に走っている思いがつきまとう様な気がしてならなかった。それでも日曜日になると教会に足が向いて行き夫婦で同じ信仰の道に進みたいたいと夫には何度も誘ったのだが。