自分誌 鵜川道子・16
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編集者
居住地: メロウ倶楽部
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私は身体も順調に快方に向ったのでヘルパーの仕事に復帰することが出来た。新しい家に移り住んで初めての試練を経験したのであったが翌年の五月頃のある日仕事を終えて自宅の玄関を開けるとガスの臭いが異様に鼻をつき台所へ行って見ると元栓からホースをつないで応接間へと延びている、急いで引き戸を開けようとしたが動かない。元栓をしめて裏の家に助けを求めた。何と云うことだろう。テーブルの上には酒と睡眠薬のビンが転がっていて殆んど飲みつくした形跡があり、ソファーの上で横たわっている夫の姿に少々やり切れない憤りを感じながら救急車の要請をしたのだった。
近くの病院に運ばれて行く夫の傍で付添い乍ら私は今思い返しても恐ろしい底無し沼に足を引っぱられて行くような思いでどう表現したらよいのかわからない。医師も看護婦も一生懸命甦生処置を施した後、どうしてこんなことをするに至ったのかと問われた。長女が中二、長男は小六の頃のできごとであった。この子供達に影響があるのではないかと心配であったが子供たちは普段の生活が荒れる様子もなく学校生活も特別支障がなかったことで私も胸をなでおろした。
三ヶ月くらいで何とか退院したものの家にとじ込もっているのは良くないと思ったのか年老いた姑が兄の所で働いてはどうかと話しをしてくれたのでプレス工場に2,3日行ってみたものの満足な製品が作れず仕事にならないと断られたのだった。
薬を飲み乍らの労働であったことが原因のようである。電車の中で座るとつい、うとうとして目的地を通り過ぎて何度も行ったり来たりして自分でも困っている様子だったのでその後は家で養生をする様にと二、三ケ月は家に居たが、私としては仕事を休むわけにはゆかず心配ではあったが自分の仕事に日中は没頭することが出来た。
夫は以前から家の中で何もしないで本を読んだりテレビを見ている生活が多かったので、あまり、あてににせずそっと静かにしておこうと云う心境になっていた。
末っ子で育てられた昭は姑や姉達から何もしないたゞ与えられる愛だけを受け乍ら苦労もなく人生を歩んで来た結果だと聞かされたが本人としては別に苦労する必要もなく少年時代を過して来た延長線上に結婚をしてしまったのかも知れないと思った。