「村松の庭訓を胸に 平和の礎となった少年通信兵」・4
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「村松の庭訓を胸に 平和の礎となった少年通信兵」 (編集者, 2009/2/8 9:23)
- 「村松の庭訓を胸に 平和の礎となった少年通信兵」・2 (編集者, 2009/2/10 8:10)
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二、村松における訓育(厳格な中に慈愛ある教育)
前項の本川氏は陸軍少年通信兵教育の特殊性について、次のように述べています。
往時の陸軍諸学校の生徒が皆そうであつたように、少年通信兵もまた、在校中の全期間を校舎内において起居した。こうすることによって一般軍隊と同じ形の軍隊内務を経験し、戦場生活の予習を行うとともに一元的、効果的な教育が出来た。即ち、生活の全期間が、教育訓練人格陶冶《じんかくとうや 注1》の場となったのである。
訓育と学術科教育の両面から行うことは、学校令等にも明記されていた。
そのうち訓育は軍人、特に指揮官、幹部としての人格の陶冶、いわゆる徳育を意味しており、これは学術科教育と別個に対置してあるものでなく、学術科教育を通じて日常、行住座臥《ぎょうじゅうざが=注2》の間あらゆる機会と場所を捉えて行われたものである。
陸軍の教育においては一貫して人格面(精神要素)の涵養《かんよう=注3》が重視された。従って、個々の生徒や兵を仮に点数で評定するとすれば、人格面に少なくとも総点の五十パーセントの配点をするのが普通であつた。
少年通信兵教育の特徴を知るには、まず少年通信兵に期待される人間像を見るのが手っ取り早い。その人間像とは「無線通信士(オペレーター)」と「無線技術士(エンジニヤ)」の両方の技能を併せ持ち、至誠純忠、年少気鋭の優秀な通信部隊初級幹部(下士官)」と要約することができる。
また、その延長として、本人の努力によって将来将校になり得る素地を与えることも、この制度を企画した関係者や、直接教育に当たつた校長以下の念頭に強く存在したことは疑いない。従って少年通信兵教育の方針は以上の二点を軸として貫かれている。
実際の教育においては、厳格な中にも家庭内の子供に対するような慈愛深い面があり、また情操、品性の陶冶に意が注がれた。そして、教育を受ける側の生徒は、年少であるがゆえに純真で向学心に燃え、心身ともに柔軟かつ敏捷であって、よく薫陶《注4》を受け入れ、卒業後は優秀な下士官として各部隊で好評を得た。
少年通信兵教育の特徴をもうひとつの角度から眺めてみよう。それは少年通信兵が備えなければならない精神的素質の面についてである。
少年通信兵は学校を卒業して部隊に配属後は、兵営生活においては内務班長として、教育の場においては助教として、作戦行動中は分隊長、小隊長または通信所長として、その外、初級幹部として様々な任務を与えられる。これらの任務を遂行するためには軍人として、軍隊幹部として、また軍隊指揮官として身に着けていなければならない多くの素質があるが、その中でも通信兵として特に強く要請されるものが幾つかある。必通の信念、犠牲的精神、緻密性、沈着性、耐忍性、機密保持性などがこれである。
もともと通信兵の本領は、戦役の全期にわたり指揮統帥の脈絡を成形して、戦闘力統合の骨幹となり、もって全軍戦捷の途を拓くにあるから、どのように困難な状況下においても身命を賭して通信網を確保するという〝必通″の信念こそ、全通信兵の基本的な精神要素である。
通信兵は他兵種の作戦を、縁の下の力持ちとなって支えるのが任務であるから、徒に外見の華々しさを競うことなく、功を包み、名を求めず、困難に耐えて黙々と任務を遂行し、全軍の犠牲となる気迫を持つべき宿命を担っている。
通信兵はまた、精巧な科学機器を駆使し、秒単位で行動を律し、敵に開放されている空間に電波を放ち、常時暗号書を携行使用する兵種であるから、どのような場面においても常に冷静沈着な動作と機密保持の確実さが要求される。
戦況不利にして玉砕の運命を担った部隊に於いて、最後の電波を送り終え、従容として通信機を破壊し、暗号書を焼き、自らも敵陣に突入した先人の偉績にこそ、通信兵精神の極地を見る思いがするのを禁じえない。
(昭五六 毎日新聞社刊「陸軍少年兵」 収載)
注1 人格陶冶 =生まれついた性質や才能を鍛えて練り上げる
注2 行住座臥 =日常の立ち居振る舞い
注3 涵養 =水が自然にしみこむように、少しずつ養い育てること。
注4 薫陶=徳の力で人を感化し、教育すること
前項の本川氏は陸軍少年通信兵教育の特殊性について、次のように述べています。
往時の陸軍諸学校の生徒が皆そうであつたように、少年通信兵もまた、在校中の全期間を校舎内において起居した。こうすることによって一般軍隊と同じ形の軍隊内務を経験し、戦場生活の予習を行うとともに一元的、効果的な教育が出来た。即ち、生活の全期間が、教育訓練人格陶冶《じんかくとうや 注1》の場となったのである。
訓育と学術科教育の両面から行うことは、学校令等にも明記されていた。
そのうち訓育は軍人、特に指揮官、幹部としての人格の陶冶、いわゆる徳育を意味しており、これは学術科教育と別個に対置してあるものでなく、学術科教育を通じて日常、行住座臥《ぎょうじゅうざが=注2》の間あらゆる機会と場所を捉えて行われたものである。
陸軍の教育においては一貫して人格面(精神要素)の涵養《かんよう=注3》が重視された。従って、個々の生徒や兵を仮に点数で評定するとすれば、人格面に少なくとも総点の五十パーセントの配点をするのが普通であつた。
少年通信兵教育の特徴を知るには、まず少年通信兵に期待される人間像を見るのが手っ取り早い。その人間像とは「無線通信士(オペレーター)」と「無線技術士(エンジニヤ)」の両方の技能を併せ持ち、至誠純忠、年少気鋭の優秀な通信部隊初級幹部(下士官)」と要約することができる。
また、その延長として、本人の努力によって将来将校になり得る素地を与えることも、この制度を企画した関係者や、直接教育に当たつた校長以下の念頭に強く存在したことは疑いない。従って少年通信兵教育の方針は以上の二点を軸として貫かれている。
実際の教育においては、厳格な中にも家庭内の子供に対するような慈愛深い面があり、また情操、品性の陶冶に意が注がれた。そして、教育を受ける側の生徒は、年少であるがゆえに純真で向学心に燃え、心身ともに柔軟かつ敏捷であって、よく薫陶《注4》を受け入れ、卒業後は優秀な下士官として各部隊で好評を得た。
少年通信兵教育の特徴をもうひとつの角度から眺めてみよう。それは少年通信兵が備えなければならない精神的素質の面についてである。
少年通信兵は学校を卒業して部隊に配属後は、兵営生活においては内務班長として、教育の場においては助教として、作戦行動中は分隊長、小隊長または通信所長として、その外、初級幹部として様々な任務を与えられる。これらの任務を遂行するためには軍人として、軍隊幹部として、また軍隊指揮官として身に着けていなければならない多くの素質があるが、その中でも通信兵として特に強く要請されるものが幾つかある。必通の信念、犠牲的精神、緻密性、沈着性、耐忍性、機密保持性などがこれである。
もともと通信兵の本領は、戦役の全期にわたり指揮統帥の脈絡を成形して、戦闘力統合の骨幹となり、もって全軍戦捷の途を拓くにあるから、どのように困難な状況下においても身命を賭して通信網を確保するという〝必通″の信念こそ、全通信兵の基本的な精神要素である。
通信兵は他兵種の作戦を、縁の下の力持ちとなって支えるのが任務であるから、徒に外見の華々しさを競うことなく、功を包み、名を求めず、困難に耐えて黙々と任務を遂行し、全軍の犠牲となる気迫を持つべき宿命を担っている。
通信兵はまた、精巧な科学機器を駆使し、秒単位で行動を律し、敵に開放されている空間に電波を放ち、常時暗号書を携行使用する兵種であるから、どのような場面においても常に冷静沈着な動作と機密保持の確実さが要求される。
戦況不利にして玉砕の運命を担った部隊に於いて、最後の電波を送り終え、従容として通信機を破壊し、暗号書を焼き、自らも敵陣に突入した先人の偉績にこそ、通信兵精神の極地を見る思いがするのを禁じえない。
(昭五六 毎日新聞社刊「陸軍少年兵」 収載)
注1 人格陶冶 =生まれついた性質や才能を鍛えて練り上げる
注2 行住座臥 =日常の立ち居振る舞い
注3 涵養 =水が自然にしみこむように、少しずつ養い育てること。
注4 薫陶=徳の力で人を感化し、教育すること
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