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捕虜と通訳 (小林 一雄)第二部・10

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通常 捕虜と通訳 (小林 一雄)第二部・10

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2008/9/17 8:23
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 収容所長の巣鴨メモ・3

 倉西中尉のメモはつづく。

 「食糧其他ノ給与ニ就テ
 主食ノ軍給与ハ円滑ニ行ハレ一度モ不足ノ生ジタルコトナシ。副食ハ大阪中央市場へ買出ニ行クヲ以テ冬期ハ順調。夏期腐敗シ易キ時期ハ貯蔵困難故、地元ニテ購入。町農会、地元農民等ヨリ直接交渉ノ上購入。所員ノ中一、二名ハ買出係トシテ付近農村、和歌山県方面ニモ赴キ魚菜類ヲ購入ス。昭和十九年ニ於テハ特ニ玉葱一貫メ近ク(三七、五〇〇瓩購入。玉葱ハ捕虜ノ最モ好ムトコロ、大イニ健康状態回復、患者減少ヲ見ルニ至レリ。又和歌山県ノ産地ヨリ多量ノ蜜柑《みかん》ヲ購入シ与へ「ペラグラ」大部分、治癒《ちゆ》スルニ至レリ。之ガ購入費ハ会社側ノ寄贈卜捕虜ノ給料、労役賃金ヨリノ醵金を以テセリ。捕虜将校大イニ購入希望シ協力セリ。蛋白質、脂肪食料不足セルヲ以テ百方手ヲ盡シテ購入セリ」
さらに「労役ハ最重労働ナル故、会社側こ補食ヲ寄贈セシム。
 (イ)現場ノ補食、米一合、野菜、魚等ノ雑炊ニシテ五〇〇乃至一〇〇〇カロリーニ達ス。昭和十九年末頃ヨリノ食糧難時代ニ於テハ会社側ニ再三再四、談判、補食ヲ減ゼザル様要求ス。
 (ロ)右ノ外、牛骨、魚粉、魚菜類ヲ会社側ヨリ寄贈セシム。捕虜ノ健康保持ハ食物ニアルコトヲ痛感、分所長以下全職員挙ゲテ努力。ソノ結果、昭和十九年以降ハ健康全般的ニ向上セリ。然シ捕虜ハ他ノ分所ノ実情(多奈川分所は大阪捕虜収容所管下約二十分所中、上位二、三位の健康度、栄養度を保持していたという)ヲ知悉《ちしつ=細かい点まで知りつくす》セズ、多奈川分所ヲ悪キ様ニ言フモ、食糧ノ給与、休日ノ多キコト、休息時間ノ多キコト等、決シテ過労、栄養不足ニ非ズ。一時ハパンヲ給セルコトアリ」と詳述している。

 このほか、被服や衛生など捕虜の日常生活全般に気くぼりの措置を講じたことなどが詳しく述べられている。

 「衛生ニ就テ 病室ノ改善、医療器具、医薬品ハ軍給与ニテハ不足故、会社ニ寄贈セシム。
 和歌山市、大阪市等ニ買出ニ出ル。捕虜軍医二名。日本衛生兵二名。十一月-四月特別ニ大キナ暖炉ヲ許可。入浴週一-二回、燃料不足、石炭、薪ヲ会社ヨリ寄贈。のみ、しらみノ駆除…(以下略。)」
 「暖炉 会社工場デ捕虜ノ好ム如ク作製セシム。収容所内バラック、現場休憩所ニモ彼等ノ好ム如ク設備、燃料豊富(製材屑、鋸屑、多量購入)十二月-三月許可」
 「休労 定休日曜日ノ外雨天ハ休労、一ケ月ノ労役ハ二十三、四日。休労日入浴、洗濯卜休養」
 「祈祷《きとう》 申出ニ依り許可ス。殆ンド自由、旧教ノ牧師ヲ招ジ、ミサヲ行フ」
 「将校 特別室設置。寝台等モ好ムママニ作製セシメ、生活モ自由。非労役者故、食糧少キ筈ナルモ事実ハ彼等自身ニ任セタルヲ以テ労役者ト同等或イハソレ以上摂取。分所長ノ理解アル取扱ヲ徳トシ居レリ。暖炉モ火鉢、木炭ヲ許可」
 「被服 日本軍、戦利品両方ヲ併用セシム外、会社側カラミシン、靴修理具等ヲ寄贈セシメ縫工、靴工ヲ増員修理ニ努力セル為、相当良キ被服着用、現場従業員ノ羨望《せんぼう》ノ的トナル。毛布六枚、寝具ハ板敷ノ上ニ藁敷、畳表ヲ敷ク。外套、手袋等モ戸外作業ニハ規定以上長期着用ヲ許可。藁ハ年二回入換」

一方、中尉は定期的に捕虜から感想文を提出させ、改善要求や希望を聞いて実現の努力をした。「楽器の購入モ行フ。感想文ノ要求、希望等カラ食物へノ留意、患者ヲ度々見舞ヒシコト、死者ニ対スル礼儀等、常ニ分所長ノ理解卜好意ニ感謝シ居リシコトヲ感ズ。中ニ〝日本ニ於テ捕虜生活ヲ送ル限り倉西分所長ノ指揮下ニアリテ平和克復ヲ迎へ度シ″ト言ヘルモノ、分所長ノ捕虜取扱振リヲ米本国ノ家族二報知シ安心ヲ求メタルモノアリ。捕虜家族中此ノ手紙ヲ受領セル家族確カニアル筈」と、率直に述べている。
 救恤品《きゅうじつひん=めぐむ品》の分配についても

「捕虜将校監督ノ下ニ捕虜自身ヲシテ着駅ヨリ運搬、受領、品数調査記入セシム。憲兵立合ノ上ニテ品数内容検査。糧秣倉庫ニ隣接シテ保管倉庫ヲ設ケ施錠ガルブレイス大尉(監督将校)ニ鍵ヲ所持セシメ、出納簿こ記録セシメテ所持サセル。員数記入紙片ヲ各箱二貼付、絶対ニ間違ヒナキ様管理ス。捕虜、分所長以下ノ配慮ニ感謝ノ為小箱一個宛贈与ヲ申出ズ」

とあり、捕虜本位の厳しい管理体制と捕虜の感謝の意が明らかに述べられている。

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編集者 (代理投稿)

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