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捕虜と通訳 (小林 一雄)第二部・11

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通常 捕虜と通訳 (小林 一雄)第二部・11

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2008/9/19 8:26
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 収容所長の巣鴨メモ・4

 以上の締めくくりとして、倉西中尉が戦時中の敵兵捕虜に対し〝人間としての対応″を誠意をもって行ってきた理由を次のように記している。
 「(自分の履歴は、専門学校時代にアメリカ人女性英語教師に英語を学び、二十余年間、中等学校英語教師として教壇に立ち、英米書を通じ英米の国民性、風俗習慣を理解してきたと前置きして)

捕虜収容所分所長トナリテモ通訳ヲ通ゼズ直接会話シ意志疎通モ充分ニシテ、自分トシテハ対米英戦争ハ講和ニナルコトアルモ米英ガ屈服スルガ如キハ絶対ナシト結論シ居り…」と断言。
 つづいて「故ニ終戦後ニ於ケル捕虜交換等ノ場合ヲ考慮シ捕虜ニ対スル時ハ常ニ日本人ヲ代表セル外交官タルヲ自認。応召後二ケ年捕虜ノ為ニ盡シ真ニ捕虜ノ為ニ心血ヲ傾注セリトノ自信アリ」とくに「斯クスルコトガ君国ニ忠ナル所以ナリト信ジ居リタリ」と強調している。これを補足するように「多奈川分所に於テ余ノ指揮下ニアリシ捕虜ノ将校ノ大部分、下士官兵の或者ハ余ノ彼等ニ対スル誠心誠意の努力ヲ多トスル者ナルコトヲ確信ス」
と明記している。
 
以上のような経歴と思考から常に捕虜を守る義務の遂行に心を砕いてきたという倉西中尉。

 結論として「即チ捕虜ニ対スル軍上層部ノ無理解卜捕虜使用者一般民衆(中尉は民衆の全部をそうだといっているのではないことは、平素の行動、雑談の中で明らかだった) ノ不認識卜敵慨心トノ中ニ在リテ終始、捕虜ヲ保護シソノ生命ヲ防護シ来レル余ガ今、捕虜ニ虐待ヲ加ヘタルモノトシテ戦争犯罪容疑者ノ一人トシテ刑務所ニ拘留セラルルコトハ、全ク意外トスルトコロニシテ、又最モ遺憾トスル所ナリ」
と記述。矛盾への相剋(そうこく)と苦悩を浮きぽりにしつつ、憤りをこめて結びのことばとしている。

 蛇足だが、私は収容所勤務中、既述のような考えと行動を押し通した倉西中尉の方針に沿って、忠実に責務を果たしたと確信している。他の一部の職員から「分所長の私的スパイではないか」と陰口をいわれたほど、私の好意は分所長の指示と方針に忠実だった。いま友情を燃やす旧捕虜の人たちとの再会を熱望する気持ちが湧くのも、かつての忠実で誠意に満ちた行動があったからこそだ、と本当に嬉しく思っている。
 倉西分所長はまた、私の恩師であり、私を弟子とみなして職務の上でも捕虜たちの宣撫《せんぶ=注1》、保護苦情処理の役目をさせたのだと推測。忠実に〝先生″の意を体して行動した。それが結果として私の人間教育にもなって、戦後の戦犯容疑になるような行為もせずに職務を全うし、摘虜と友情をつづけることができるものだと信じている。


注1  宣撫=占領政策の目的・方法などを知らせて、人心を安定させること。

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編集者 (代理投稿)

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